DNA切断活性を不活性化したCRISPR関連タンパク質(Cas)をベースとするエピゲノム編集は、ゲノムを改変することなく遺伝子発現を精密にプログラム可能とすることから、より安全なヒト疾患の治療への展開が期待されている。北京大学のKuanhui Xiang助教授、Lin Bai教授 並びにKailong Li助教授が率いる北京大学の研究チームは今回、CRISPR関連エフェクターの中で高活性で最もよく利用されているがサイズの大きなCas9に変わる超小型なエフェクターの開発を目指した。
コンパクトなことで知られているタイプV-M CRISPR-Cas12mファミリーの新たな有望なメンバーを、既知のメンバーのホモログのin silico探索とAlphaFold3を介した構造予測に続いて、実験的な機能アッセイを組合わせて、一連の候補Cas 12mを同定した。その中で、最も高活性であったPmCas12a (bioRxivプレプリントでは由来不明)を選択し、特性を明らかにし、さらに、強力かつコンパクトなバリアント(xCas12mと命名;N末端(Δ2-13) とC末端(Δ594-601)を短縮しサイズは581 aaに)を開発した。
- PmCas12mは、PAMとして比較的柔軟な配列 5'-YTN-3' を認識し(Y=C/T; N=A/T/G/C)、強固な二本鎖DNA結合能を示しながら、DNA切断活性を持たず、エピゲノム・エディターのベースとして理想的であった。
- クライオ電顕法により再構成した構造から、PmCas12mのDNA結合の分子機構を明らかにし、その情報をベースに、ディープミューテーションスキャニング(DMS)とタンパク質工学を用いて、ヒト細胞において非常に強力かつ特異的な(オフターゲット活性がミニマルな)エピゲノム編集能力を持つ超小型変異体xCas12mに至った。
- xCas12mにVPRを融合したCRISPRaとx Cas12mにKRAB -MeCP2を融合したCRISPRiは、いずれも、標的遺伝子によっては、dCas9をベースとしたCRISPRaとCRISPRiに優る活性を示した。
- さらに、CRISPRoff [crisp_bio 2021-04-15/05-31] のx Cas12m版"xCas12m-CRISPRoff"を構築し、単一のAAVで送達することで、マウスモデルにおいて持続的なエピジェネティックサイレンシングとB型肝炎ウイルス(HBV)感染の有効な阻害を実証した。
[補足] PmCas12aの探索
近年、近年、研究者らは3つの新規タイプV CRISPR-Casシステム(Cas12c [#1]、Cas12k [#2, 3]、およびCas12m [#4, 5] )と、TnpB様ヌクレアーゼ不活性リプレッサー(TldR)ファミリー [#6] を発見した。興味深いことに、これらのシステムのエフェクター、RNA誘導型DNA結合能を保持しながらも、DNA切断活性を欠いていた。すなわち、天然のヌクレアーゼ欠損型エフェクターであり、格好の塩基エディターやエピゲノム・エディターのベースになると考えられた。
しかしながら、これらのエフェクターのほとんどは、その応用可能性を制限する特有の課題を抱えている。例えば、Cas12cの比較的大きなサイズは、AAVを介した遺伝子導入における使用を複雑にしている [#1]。Cas12kは、真核細胞においてほとんど活性を示さない [#3]。また、ヒト細胞におけるTldRの活性は依然として不明確である [#6]。
一方、Cas12mはヒト細胞において標的二本鎖DNAに安定的に結合し、その小さなサイズと、原核生物における豊富な相同タンパク質の存在 [#5] から、未開拓のコンパクトなゲノム・エディターの豊富な供給源となる可能性を秘めていると、考えられた。
研究チームは、Cas12mの多様性を調査し、CRISPR生物学の拡張に向けた新たな候補を発見するため、RuvC DEDモチーフに不活性化変異を持つヌクレアーゼ不活性Cas12mタンパク質を同定する、構造誘導型自動検索パイプラインを開発した。
- 初期クエリとしてMmCas12m (WP_061006603.1) [#5] を用い、NCBIの非冗長データベースに対してPSI-BLAST検索を行い、配列アライメントに基づいて、対応する代表的なタンパク質ドメイン構造の複数のHMMプロファイルを構築した。
- さらに、CRISPRアレイ解析を追加し、NCBI RefSeqデータベースにおいて、活性型CRISPR-Casシステムを持つ可能性のある様々な細菌の科から、RuvCヌクレアーゼ活性が不活性なCas12m候補30個を同定した。
- タンパク質の生物学的機能は構造特性と密接に関連していることから、類似した構造を持つタンパク質は同様の機能を示す可能性が高いと仮説を立て、AlphaFold3を用いてCRISPR-Cas12m候補の3D構造を予測し、DALIウェブサーバーを用いてこれらの予測構造をMmCas12mの構造と比較した。
- 最終的に、上位15個の候補を選定し、さらなる機能試験を実施し、PmCas12m、MkCas12m、およびPpCas12mが強力なレポーター活性を示し、中でもPmCas12mが最も高活性であった。
[出典]
- "Structure-guided discovery and engineering of miniature CRISPR-Cas12m for epigenome editing" Yu T, Ji M, Yu D, Guan Z, Zhu R [..] Xiang K, Bai L, Li K. bioRxiv 2026-03-28 (プレプリント). https://doi.org/10.64898/2026.03.26.714355 [所属] Peking University Health Science Center (Dept Biochemistry and Molecular Biology, Dept Microbiology and Infectious Disease Center), Peking University (Dept Biophysics), Peking University Third Hospital (Institute of Medical Innovation and Research; Cancer Center)
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