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 遺伝子のシス調節領域編集による非遺伝子組み換え作物(非GMO)の改良は、活性化アレルが希少であることやプロモーターのマップが不完全であることによって制限されている。カリフォルニア大学バークレー校 David F. Savage教授 が率いる研究チームは今回、新たに開発したソルガム・プロトプラストを用いた大規模並列レポーターアッセイ(massively parallel reporter assay:MPRA)により、3つの光合成遺伝子にわたる3万個以上のCRISPR-Cas9システムで誘導した変異体を定量化し、シス調節モジュールを精密にマッピングするとともに、変異の影響を予測するゲノム言語モデルも構築して、タンパク質産生を促進するコンパクトな編集箇所を特定するに至った。

[詳細]

 遺伝子の調節領域に位置するシスエレメントを標的とするCRISPR-Cas9遺伝子編集は、トランスジーンを導入することなく遺伝子発現を調節することを可能にし、遺伝子組み換え作物に該当しない優れた品種を作り出す精密な育種にとって有望な手法である。しかし、多くの作物において、シスエレメントを編集した結果を予測する基盤となる「配列-機能」データが決定的に不足している。その結果、これまでのCRISPR-Cas9技術を用いたプロモーター領域の変異誘発は、遺伝子発現に対して中立的または有害な影響をもたらすことが多く、標的遺伝子の発現向上に至ることは稀であった。
 発現量の増加は、光合成関連遺伝子の標的において特に重要であり、トランスジーンの発現量をわずかに増加させるだけでも作物の一次生産性が向上することが実証されている。発現向上に効果的な光合成遺伝子プロモーターにおける望ましい編集箇所を特定することは、光合成能が向上した非GMOの開発に不可欠である。
 研究チームは今回、シスエレメントの改変がもたらす影響を詳らかにすることを目的として、主要作物の一つであるソルガム(Sorghum bicolor)の葉肉プロトプラストを用いたMPRAを開発した。
 この開発にあたっては、多くの技術的課題を解決する必要があった。まず、ソルガムのプロトプラストの形質転換効率と生存率に問題があり、部分的に暗所で生育させた実生を用いるプロトコルを開発した。さらに、これまでのMPRAでは短い合成配列が利用されてきたのに対して、ポリヌクレオチド反復配列が豊富な天然遺伝子を対象としたことで、ライブラリー・クローニングと配列解析に困難が伴った。各ライブラリーメンバーは複数の変異を含む傾向があり、変異の因果関係の優先順位付けが困難であった。そこで、多重線形回帰モデルを用いて、「パッセンジャー」変異と、特定の配列中に存在する場合にデータセット全体における発現増加を説明できる可能性のある原因変異を分離する必要があった。
 その上で、3つの光合成を律速する遺伝子(光化学系IIサブユニットS(PsbS)、ルビスコ蓄積因子1(Raf1)、セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ(SBPase)のプロモーター領域および5'非翻訳領域(UTR)全体にわたる、CRISPR -Cas9遺伝子編集の産物(欠失、置換、モチーフ挿入)3万個以上のシスエレメントにおける変異の影響を検証したMassively parallel promoter mapping identifies [Research BriefingのFig. 1引用右図の a 参照] 。 
 MPRA法で得られたRNA濃縮度と、直交する酵素アッセイにおけるルシフェラーゼ発光を比較した結果、プロモーターがGFP発現を駆動する最小限の合成レポーターを用いるのではなく、プロモーター(2kb)、UTR、エクソン、イントロン、ターミネーター配列を含む、遺伝子本来のコンテキストで変異体をアッセイすることが、定量的に信頼性の高い発現量推定値を得るために必要であることが明らかになった。
 先行研究 [Jores T et al., Nat Plants 2021]では、転写開始部位近傍のコアウィンドウ内のシスエレメントの変異が、タンパク質産生を予測できる再現性のある発現効果をもたらすことが、複数の遺伝子にわたって示されていた。今回、このウィンドウ(転写開始部位から開始コドンまでの-500bp)内で、タンパク質産生を最大33倍増加させる、コンパクトでCRISPR-Cas9システムでアクセス可能な欠失およびモチーフ挿入が同定された。この改変は、標準的なトランスジェニック・エンハンサーで達成できる効果を約3倍上回るものであった [引用図 b 参照]
 研究チームは、変異の影響をコンピュータ上で予測し、煩雑で大規模な生物学的測定を回避できるかどうかを判断するため、ソルガムのトランスクリプトーム・データ(プロモーター配列の±256 bpを使用)を用いてゲノム言語モデルGPN [Genomic Pre-trained Network: crisp_bio 2025-01-24を微調整した。このモデルは、コアプロモーター欠失が発現に及ぼす影響を予測する上で、中程度の性能を示した。
 今回の成果は、主要な作物であるソルガムにおけるシスエレメント・変異体の大規模スクリーニングの実現可能性を示しており、このようなアプローチが量的形質改良を加速させ、植物ゲノム言語モデルの改良の基盤となる可能性を示唆している。
 今後、MPRAの対象を遺伝子、組織、環境にわたって拡大し、プロトプラスト・スクリーニングをより多くの組織(例えば、根や生殖器官)に展開することで、世界的な食糧問題に応える優良な非GMO品種の開発が加速されることが、期待される。

[出典] 
  • 論文 "Mapping cis-regulatory mutations at scale in sorghum enables modulation of gene expression" Groover ED, Ding D [..] Savage DF. Nat Biotechnol. 2026-03-27. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03046-y [所属] UC Berkeley (Innovative Genomics Institute; Dept Plant and Microbial Biology; Dept Molecular and Cellular Biology; Dept Electrical Engineering and Computer Sciences; Dept Statistics; HHMI), Lawrence Berkeley National Laboratory (Molecular Biophysics and Integrated Bioimaging Division)
  • Research Briefing "Massively parallel promoter mapping identifies edits to boost sorghum gene expressionNat Biotechnol. 2026-03-30. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03060-0: Groover ED, Ding D, Savage DF (Innovative Genomics Institute; Soyk S (University of Lausanne); Editorial Team.
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