背景
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しながらも長期間無症状で経過している長期間未発症者から分離されたHIVに対する広域中和抗体(Broadly neutralizing antibodies:bnAb)は、多様なHIV-1株に対する免疫防御を提供できる。このことは、非ヒト霊長類(NHP)モデルおよびヒト臨床試験において、ウイルス量を制御するための有効な治療代替手段であることが実証されている。 標準的な抗レトロウイルス療法(ART)とは異なり、bnAbは投与頻度が少なく、最大6か月間血中で活性を維持できるため、毎日の服薬遵守が困難な、あるいはART関連の長期毒性に苦しむ脆弱な集団にアプローチする上で重要な利点となる。
このアプローチにはこれまで、ウイルスベクターを用いて様々な細胞型にbnAb遺伝子を導入する方法が検討されてきた。動物モデルの筋肉組織にアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを導入すると、bnAbの発現が誘導され、ウイルス感染から保護される。しかし、この無差別な抗体産生は、AAVの免疫原性と相まって、宿主の抗-抗体および抗-AAV反応を引き起こし、bnAbの持続的な産生が抑制され、再治療を不可能にする。また、内因性bnAb発現の誘導も成功していない。これは、高親和性bnAb配列を得るために必要な広範な体細胞超変異に加え、胚中心B細胞の成熟過程で負の選択を受ける多反応性および自己反応性前駆体配列の存在が一因となっている。
その間に、CRISPR-Cas技術により、免疫グロブリン(Ig)重鎖(IGH)遺伝子座を正確に標的とし、ウイルスベクターによって導入されたトランスジーンで内因性抗体を置き換えることが可能になった。抗体を発現するように遺伝子編集されたB細胞は、マウスモデルにおいて抗ウイルス防御効果を示した。このような遺伝子編集B細胞がどのくらいの期間免疫応答を維持できるかは依然として不明であるが、長寿命形質細胞に分化した細胞は免疫記憶を付与する可能性がある。特に、bnAb導入のために最初に研究された細胞タイプの1つである造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)は、すべてのB細胞の前駆細胞である。レンチウイルスに形質導入されたHSPCは、その後、in vitroでbnAb産生形質細胞に分化することが確認されたが、抗体産生はゲノムに半ランダムに組み込まれたプロウイルス要素によって駆動されていた。
HSPCの内因性抗体産生IGH遺伝子座を非ウイルス的に精密に編集し、生体内で抗体トランスジーンを保持する抗体産生B細胞への生着および分化能力を維持できれば、このアプローチは、ウイルスベクターによる免疫応答を誘発することなく、bnAb産生B細胞の持続的な供給源を提供できる可能性がある。
HSPCへのCRISPR-Casの生体内送達を高特異性で行うことは依然として課題であるが、動物モデルは造血および生着能に関する貴重な知見を提供する。
HSPCの内因性抗体産生IGH遺伝子座を非ウイルス的に精密に編集し、生体内で抗体トランスジーンを保持する抗体産生B細胞への生着および分化能力を維持できれば、このアプローチは、ウイルスベクターによる免疫応答を誘発することなく、bnAb産生B細胞の持続的な供給源を提供できる可能性がある。
HSPCへのCRISPR-Casの生体内送達を高特異性で行うことは依然として課題であるが、動物モデルは造血および生着能に関する貴重な知見を提供する。
成果
Fred Hutchinson Cancer CenterのJennifer E. Adair 准教授 (現 UMass Chan Medical School教授)が率いたFred Hutchinson Cancer Center、ワシントン大学、およびバージニア大学の研究チームはまず、NHP HSPCのIGH 遺伝子座におけるbnAb遺伝子ノックインについて、CRISPR-Cas9およびCRISPR-Cas12aを評価した。カスタムDNAテンプレートとともにCas9ヌクレアーゼをタンパク質として導入することで、Cas12aを用いた編集を最適化することで、Cas9を用いた場合よりも高いノックイン効率と低い非特異的編集率が、達成された。
編集したNHP-HSPCを、その生着を支持するミエロイド系細胞分化ヒト化マウスモデル(MISTRG mice)に移植したところ、生着、B細胞分化、およびgp120抗原免疫後のレポーター遺伝子または抗HIV抗体の発現が認められ、
血中濃度も検出可能なことが、確認された [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。
血中濃度も検出可能なことが、確認された [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。 これらの結果は、慢性疾患治療における持続的な生物製剤生産のための潜在的な戦略として、HSPCへの非ウイルス性ノックインの利用が実現可能であることを示している。
研究チームは今後、今回のアプローチをHIV感染のNHPモデルにおいて評価していくことを予定している。
[出典]
- "In vivo production of an anti-HIV antibody in mice by non-viral gene knockin in primate hematopoietic stem and progenitor cells" Castelli JMP [..] Adair JE. Mol Ther. 2026-02-02. https://doi.org/10.1016/j.ymthe.2026.01.038 [所属] Fred Hutchinson Cancer Center (Translational Science and Therapeutics Division; Vaccine and Infectious Diseases Division) (米国), University of Washington (Dept Laboratory Medicine and Pathology; Dept Immunology, Dept Medical Oncology), University of Virginia (Beirne B. Carter Center for Immunology Research; Biomedical Sciences Graduate Program, Division of Infectious Disease and International Health)
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