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[注] 遊離アスパラギンは、日常的なパン作り、揚げ物、トーストなどの調理過程で生成される、毒性があり発がん性も疑われる化合物であるアクリルアミドに変換される。食品中のアクリルアミドに対して日本国内では法的な基準値は設定されていないが、EUでは食品中のアクリルアミドの基準値が定められており、欧州委員会は、2026年に新たな最大基準値を設定する予定である。

 Rothamsted ResearchNigel Halford教授が率いる英国とドイツの研究チームは今回、CRISPR/Cas9遺伝子編集コムギ系統と、従来の方法で突然変異誘発処理(TILLING;化学物質に曝露させてランダ​​ムな突然変異を誘導)されたコムギ 系統とを、遊離アスパラギン含量と収量の観点から比較した。

[詳細]

 研究チームは、CRISPR/Cas9を利用してアスパラギン合成酵素遺伝子 TaASN2 をノックアウト、そしてまたは、関連遺伝子 TaASN1 の部分的ノックアウト、を施したコムギ(Triticum aestivum)品種Cadenzaの圃場試験を実施した。また、Claire系統を背景とした化学的突然変異誘発(TILLING)によるTaASN2 欠損株も試験対象とした。
 主な目的は、穀粒中の遊離アスパラギン含有量と、パン、トースト、ビスケットにおける遊離アスパラギンから有毒汚染物質であるアクリルアミドへの変換を評価することであった。 
  • 2 年を超える試験を総合すると、CRISPR/Cas9で TaASN2 および TaASN1/2 をノックアウトした系統では、穀物中の遊離アスパラギンが Cadenza 系統と比較してそれぞれ 59% および 93% 減少した。一方で、CRISPR/Cas9ノックアウトは収量には影響しなかった。
  • TaASN2.完全ノックアウト TILLING 系統の Claire と比較した減少率は 50% であった。収量も25%減少したが、これは、ゲノムの他の部位における意図しない突然変異が原因と考えられる。
  • アクリルアミドについては、TaASN1/2 ノックアウト CRISPR 系統から作られたパンでは検出限界以下であったが、TaASN2 ノックアウトCRISPR 系統では 対照系統のCadenza に対して14%に達した。4 分間トーストした後でも、アクリルアミドのレベルはそれぞれ対照の 8% および 23% となった。TILLING TaASN2 ノックアウトから作られたパンにおける濃度は Claire 対照の 21% で、4 分間トーストした後は 46% に上昇した。 TaASN1/2 ノックアウトCRISPR系統から作られたビスケット中のアクリルアミドは、対照群と比較して93%減少した。アクリルアミドと色の関係は、対照群と比較して編集系統および変異系統で変化しており、同じ色の濃さでもアクリルアミドの生成量が少なかった。
 こうして、アスパラギン含有量の減少が、食品中のアクリルアミド生成量の直接的な減少につながることが示された。CRISPR /Cas9ゲノム編集を経たコムギから作られたパンやビスケットでは、アクリルアミド濃度が大幅に低下し、一部のパンサンプルでは、​​トースト後でも検出限界を下回った。これに対し、これまでのところ、従来の育種では同様の改善は期待できないことが示された。

[出典] 
  • 論文 "Field Trials and Baking Studies of Ultra-Low Asparagine, Genome Edited (CRISPR/Cas9) and Mutant (TILLING) Wheat" Kaur N [..] Halford NG. Plant Biotechnol J. 2026-04-01. https://doi.org/10.1111/pbi.70661 [所属] Rothamsted Research (英国), University of Reading (Dept Food and Nutritional Sciences), Curtis Analytics Limited, Karlsruhe Institute of Technology (Dept Bioactive and Functional Food Chemistry) (ドイツ), Leibniz Institute for Food Systems Biology at the Technical University of Munich, Technical University of Munich (Professorship of Food Biopolymer Systems)
  • ニュース "Ultra-low asparagine wheat developed using precision gene editing" Rothamsted Research. PHYS.ORG 2026-04-02. https://phys.org/news/2026-04-ultra-asparagine-wheat-precision-gene.html
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