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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

 ウイルス感染症の診断検査は、変異株の拡散を正確にモニターし、タイムリーな対応を可能にするために、迅速・特異的・簡便であることが求められる。COVID-19(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染症)の場合は特に、症状が他の呼吸器感染症と区別できないことが多いため、最適なタイムリーな治療のためには、ウイルスの正確な同定が不可欠であった。
 ゲノム配列決定はウイルスに関する最も完全な情報を提供するが、複数のウイルス標的と変異株を同時に検出できる、より迅速な診断方法が必要とされた。そうした多重検出には、PCR反応に基づく市販のプラットフォームが存在しているが、複雑なハードウェアと長い時間を必要とする。
 CRISPR-Casシステムの中で、RNAを標的とすることで、DNAヘの逆転写を介さずにRNAウイルスを直接検出する可能性が広がり、ブロード研究所のFeng Zhang博士らのチームによりCas13aをベースとするSHERLOCKが開発され [#1]、その後、Jennifer A. Doudna博士も含むUC BerkeleyのDaniel A. FletcherとMelanie Ottの両博士が率いる研究チームにより、標的RNAの前増幅も不要にしたCas13aアッセイ法が開発された [#2]
 UC BerekeleyのDaniel A. Fletcher教授とUCSFのMelanie Ott教授らは今回、Cas13aアッセイのマルチプレックス化を実現した。
 Cas13aマルチプレックス・アッセイは、液滴ベースのCas13a直接検出アッセイを用いて、単一酵素の反応速度の違いを定量化することでProgrammable kinetic barcoding Fig. 1実現されている [Fig. 1引用右図 a 参照]液滴サイズは、各反応系に最大で1種類の標的RNAしか存在しない可能性が高くなるように設定されている。このマルチプレックス化はもう一つ「キネティックバーコーディング (kinetic barcoding);以下、KB」と名付けられた新たな技術の上で成立している。
 KBは、Cas13aのヌクレアーゼ活性が、組み合わされる特定のガイドRNA(CRISPR RNA: crRNA)と、標的とするウイルスRNAに応じて、変化するという観察に基づいている [Fig. 2引用右下図参照]Programmable kinetic barcoding Fig. 2Cas13aの活性のこの変動性は、特定の標的RNAに対して高いヌクレアーゼ活性を持つ「良好な」crRNAのサブセットを同定するために必要なスクリーニングにおいてよく知られていた現象であるが、研究チームは、このCas13aの反応速度の自然な違いが、液滴Cas13aアッセイにおいて異なるウイルス標的を識別するのに十分であることを発見した [Fig. 2引用右図 f 参照]。その上でこの「自然な違い」が各ウイルスのシグネチャー、すなわちバーコードとして、利用することを発想した。研究チームはさらに、crRNAの5'末端に一本鎖DNAを付加することで、Cas13aヌクレアーゼの平均酵素活性を制御された方法で変化させることに成功した [論文Fig. 3参照]。crRNAに10個以上のデオキシヌクレオチドを付加すると、レポーターとして使用される蛍光色素消光分子の切断速度が再現可能かつ定量的に段階的に減少する。研究チームはこのハイブリッドRNA-DNAガイドを、その作用機序から‘interfering gRNA(igRNA)’ と称した。
 こうして、異なるウイルスまたは、同一ウイルスの変異株を標的とする複数のcrRNAを組み合わせ、5'末端にDNA配列を付加して異なる活性を生み出すように改変することで [論文Fig. 4参照]、個別の蛍光チャネルを必要とせずに、蛍光シグナルの傾きまたは終点値のみに基づいて単一標的RNAの同一性を決定することが可能になった。
 KBをベースとするCas13aマルチプレックス・アッセイは、これまでのサンプルを分割してから各反応で異なるRNA標的をアッセイする戦略や、互いに直交するCasヌクレアーゼを組み合わせる戦略とは対照的に、全ての液滴にCas13aとバーコード付きcrRNAが存在することから、すべての反応ですべての異なるRNA標的を同時に検出することが可能になっており、アッセイのワークフローやハードウェアを変更することなくアッセイのマルチプレックス化が実現された。
[注] 実証実験として、HCoV, SARS -CoV-2(野生型), IAVおよびSARS-CoV-2 (デルタ)のマルチプレックス・アッセイと、SARS-CoV2の野生型、デルタ型およびオミクロン型のマルチプレクス・アッセイが提示されている。この動的バーコーディング戦略は、単にcrRNAを改変することで、他のRNA標的にも拡張可能である。

[出典]
  • "Programmable kinetic barcoding for multiplexed RNA detection with Cas13a" Son S [..] Ott M, Fletcher DA. Nat Biomed Eng. 2026-03-31. https://doi.org/10.1038/s41551-026-01642-6 [所属] UC Berkeley (Dept Bioengineering; UC Berkeley-UC San Francisco Graduate Program in Bioengineering; Dept Molecular and Cell Biology; Innovative Genomics Institute; Dept Chemistry; California Institute for Quantitative Biosciences; HHMI) (米国), Lawrence Berkeley National Laboratory (Molecular Biophysics and Integrated Bioimaging Division; Division of Biological Systems and Engineering), Chan Zuckerberg Biohub San Francisco, UCSF (Medical Scientist Training Program; Biomedical Sciences Graduate Program; Dept Medicine), Gladstone Institutes (Gladstone Infectious Disease Institute), The State University of New Jersey (Dept Molecular Biology and Biochemistry; Center for Advanced Biotechnology and Medicine), KAIST (Dept Bio and Brain Engineering) (兼) (韓国), Monash University (Dept Biochemistry and Molecular Biology) (兼) (オーストラリア)
[#] 引用論文とcrisp_bio記事
  1. SHERLOCK (Specific High Sensitivity Enzymatic Reporter UnLOCKing) "Nucleic acid detection with CRISPR-Cas13a/C2c2" Gootenberg JS [..] Collins JJ, Zhang F. Science. 2017 Apr 28;356(6336):438-442. Published online 2017 Apr 13. 
  2. 2020-10-02/2021-02-16 新型コロナウイルスをCRISPR-Cas13aとモバイルフォン顕微鏡を介してスワブから直接検出 - RNA増幅不要. 
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