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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

 1978年ノーベル生理学・医学賞を受賞した制限酵素2020年ノーベル化学賞を受賞したCRISPR -Cas9システムはいずれも、微生物がウイルス(ファージ)から身を守る武器に由来する。2025年4月、Nature 誌は「次世代のCRISPRを求めて:戦う微生物が新たな技術を生み出す」と題するニュース記事を刊行した [*]。2026年4月、Science 誌から、機械学習アルゴリズムを介して細菌ゲノムから数十万もの潜在的な抗ウイルス性タンパク質を特定した論文が2報、出版された。一方は、パスツール研究所のMolecular Diversity of Microbesの研究チーム(責任著者Aude Bernheim博士)から [#1] 、もう一方は米国MIT生物学部の研究チーム(責任著者 Michael T. Laub教授)から [#2] の論文である。
 これまでの研究では、細菌がウイルス感染から身を守るために250種類以上のタンパク質を使用するシステムが実験的に検証されてきたが、研究者たちは、細菌の真の免疫システムはこれよりもはるかに大規模で多様であると示唆していた。
 パスツール研究所の研究チームは、今回の研究論文で、タンパク質とゲノムのデータを用いて深層学習モデル(タンパク質・ゲノム・言語モデル)を訓練し、抗ウイルスシステムを予測した。Bernheim博士によると、彼らの目標は「細菌の免疫の多様性の全容」を明らかにすることだった。分析の結果、細菌ゲノム中の遺伝子の平均1.5%が抗ウイルス免疫に関与するタンパク質に対応していると推定された。これは従来の推定値の3倍に相当する。また、予測されたタンパク質ファミリーの85%以上は、これまで免疫との関連が知られていなかった。大腸菌とStreptomyces albus という2種類の細菌を用いた実験では、細菌に感染するバクテリオファージと呼ばれるウイルスを撃退する12種類の「抗ファージ」システムの存在が確認された。これらのシステムは、これまで抗ウイルス防御との関連は知られていなかった。
 MITの研究チームは、17,000個の細菌ゲノムの遺伝子およびタンパク質データに基づいて細菌の免疫タンパク質を予測する、DefensePredictorと呼ばれる機械学習ツールを開発した。DefensePredictorが予測したタンパク質を、69種類の多様な大腸菌株において実験評価した結果、624個がファージ防御に関連するタンパク質として同定された。そのうち100個以上が新規であり、そのうち42例においてファージに対する防御活性が研究室実験によって確認された。
 MITのLaub教授は、「両研究とも同じ結論に達している。研究者たちはこれまで防御システムの数を著しく過小評価してきた」と述べ、「この研究は、まだ特性が解明されていないシステムが数多く存在することを明らかにした」と付け加えた。
 パスツール研究所は今回同定した44,000個以上の抗ウイルスシステムをオープンアクセスデータベース「DefenseFinder」から公開し [スクリーンショットを下図に引用]、MITは、DefensePredictorgithubから公開した [スクリーンショットを下図に引用] 

Defense Finderdefense_predictor
 研究者はこれらの情報資源を利用して、新たに同定されたタンパク質の抗ウイルス特性を検証することができる。MIT Laub教授は「これらの細菌免疫系が機能する分子メカニズムの研究に着手している」、「細菌がファージ感染をどのように感知し、どのようにファージの複製を阻止するのか、といった非常に興味深い疑問がいくつもある」、また、「今後の研究によって免疫の進化史に関するより深い洞察が得られることを期待している」と述べている。これに、Bernheim博士は 「これは、微生物学だけでなく、生命のあらゆる領域における免疫とは何かという、より広範な概念の解明にもつながる、この分野の可能性を大きく広げるものだ」と同意した。

[出典]
  • NEWS "‘Treasure trove’ of antiviral proteins could inspire powerful molecular tools" - Two research teams mined genomic data from bacteria to create databases containing thousands of antiviral defence proteins that could inspire powerful biotechnologies. Naddaf M. Nature 2026-04-02. https://www.nature.com/articles/d41586-026-01011-y
[#] Science 誌刊行2論文紹介crisp_bio記事

[細菌のファージに対する防御システムに関連するcrisp_bio記事]
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