Scott Lowe博士が率いるMSKCCのCancer Biology & Genetics Program所属の研究チームは、HanahanとWeinbergの一連のレビュー"Hallmarks of Cancer" [Cell 2000;Cell 2011;Cancer Discovery 2022] の「癌の特徴」を総合的に理解する試みを称し、老化も同様の視点から理解すべきとし、このレビューに取り組んだ。すなわち、研究チームは、「老化は、細胞と組織の挙動を深く文脈依存的に形作る一連の特徴の集合体として理解できる」とし、他の研究 [Cell 2024;Nat Rev Mol Cell Biology, 2024] で試みられているような固定的な操作的定義を提示するのではなく、老化を、その特徴が変動的に関与し、関連するストレス適応細胞状態と交差する動的な生物学的プロセスとして捉えようとした。
細胞老化は、持続的な増殖停止とクロマチン、代謝、細胞間シグナル伝達、および免疫相互作用の大規模な再構築によって定義され、進化的に保存されているストレス応答プログラムである。当初は無制限な細胞分裂に対する障壁として記述されていたが、現在では、発生、組織修復、免疫監視、腫瘍抑制、老化、線維症、および癌の進行に関与する多面的かつ不均一な生物学的プロセスとして認識されている。また、細胞老化の分子特性、機能的出力、および生理学的影響が、細胞の種類、組織、および刺激によって変動する。
このレビューではまず、こうした細胞老化の中核的な特徴を要約され、これらの特徴が生物学的状況全体でどのように異なって関与し、多様化し、再利用されているかを統合的に解説されている。
その上で、癌に焦点を当て、細胞内在性および腫瘍微小環境に内在するメカニズムの双方を通じて、細胞老化が腫瘍の発生、進化、および治療反応にどのように影響するか、議論されている。
さらに、細胞老化を治療的に調節するための新たな戦略が評価され、精密医療における機会と未解決の課題が提示される。
[補足 1] 細胞老化の特徴
「がんの特徴」と同様に、「細胞老化の特徴」は、状況に依存する複雑な状態において、最も再現性が高く、生物学的に有益な特徴を要約したものになる。研究チームは、細胞老化を定義するために、相互に関連する6つの側面を提案している [Figure 1 参照]。
- p53/p21経路およびp16INK4a-RB経路によって強制される安定した増殖停止が、細胞老化を可逆的な状態から区別する。
- クロマチンおよび核のリモデリングは、細胞周期停止を安定化させると同時に、老化関連転写プログラムを可能にする。
- 老化細胞は細胞死に対する抵抗性を獲得し、持続性を可能にし、治療上の脆弱性を生み出す。
- 老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype:SASP)は、細胞間コミュニケーション、免疫監視、組織修復、および慢性病態の促進に関与している。
- 細胞表面プロテオームのリモデリングは、微小環境の感知と免疫認識を変化さる。
- 広範な代謝およびリソソーム適応は、生存、SASP産生、およびストレス耐性を支える一方で、タンパク質恒常性および酸化還元バランスの不均衡にも寄与する。
[補足 2] パラドックス
老化の逆説的な性質は、「持続的な血管新生」と「浸潤と転移」を制御するプロセスにおいて最も顕著に現れる。老化細胞はSASPを介して積極的に環境を再構築し、老化間質細胞によって産生されるVEGFやマトリックスメタロプロテアーゼなどのSASP成分は、「持続的な血管新生」と「浸潤と転移」を促進する可能性がある。
総じて、老化関連プログラムは正常な創傷治癒反応を模倣しているが、慢性的に活性化されると不適応となり、修復ではなく線維化、免疫調節異常、腫瘍の進行を促進する。こうした観点から、老化は、状況、タイミング、組織構成によって結果が左右される、持続的な炎症関連修復プログラムと見なすことができる。
癌との関連の観点では、老化は癌化に対する障壁として機能する場合も、アポトーシスの回避を介した癌を促進する場合もある。
初期の腫瘍形成では、癌遺伝子誘導老化(oncogene-induced senescence:OIS)は、悪性形質転換に対する強力な細胞内在性バリアとして機能する。制御不能な増殖に関連する癌関連プログラムに直接対抗し、持続的な停止を強制することで、そうでなければ形質転換が有利になる段階で、癌遺伝子を発現する細胞の増殖を抑制する。対照的に、発達中の腫瘍細胞またはその周囲の間質に持続する老化細胞は、「アポトーシスの回避」をサポートする生存促進プログラムに関与する。
[構成]
- Outline
- Summary
- Introduction
- Senescence and the hallmarks of cancer
- Hallmarks of senescence
- Senescence mechanisms
- Tumor suppression
- Physiological roles of senescence
- Deleterious effects of senescence
- Harnessing senescence biology therapeutically
- Future directions and outstanding questions
- Acknowledgments
- Declaration of interests
- References
[図一覧]
[出典]
- "Senescence in cancer: Hallmarks, paradoxes, and therapeutic promise" Hinterleitner C [..] Lowe SW. Cell. 2026-04-03. https://doi.org/10.1016/j.cell.2026.03.005 [所属] Memorial Sloan Kettering Cancer Center (Dept Cancer Biology and Genetics) (米国), Weill Cornell Graduate School of Medical Sciences (兼), HHMI Chevy Chase (兼).
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