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 フェロトーシスは、鉄依存的な脂質過酸化反応(lipid peroxidation)が引き金となって発生する細胞死である。癌細胞にフェロトーシス細胞死を誘導する戦略が試みられているが、脂質過酸化物(lipid peroxide:LPO) のレベルが低いことが障害になっている。
 四川大学華西医院の研究チームは今回、フェロトーシス感受性、鉄イオン濃度、および活性酸素種(ROS)を段階的に増幅することでフェロトーシス療法の効率を高める、無害から有害へと切り替え可能で時空間的に活性化するナノCRISPRシステム (a harmless-to-harmful switchable and spatiotemporally activated nano-CRISPR system)ARCHERと命名)を開発した。 
  • ARCHERは癌標的ペプチド(Cys-R8-c[RGDfK])、ヒアルロン酸(HA)、およびCe6Fe(III)Clに誘導されて癌細胞に選択的に蓄積し癌細胞に取り込まれる。
  • 酸性リソソーム内のヒアルロニダーゼによって媒介されるリソソーム脱出後、CRISPR/Cas9-GPX4 は核に移行し、GPX4 遺伝子を恒久的に編集し、持続的なGPX4 のダウンレギュレーションをもたらす。GPX4欠損癌細胞とその子孫はフェロトーシスに対する過敏性を示し、これはその後の治療反応を増幅するための前提条件となる。
  • 空間的および時間的に制御された条件下(すなわち、GPX4抑制後の酸性微小環境におけるレーザー照射)では、不活性なCe6Fe(III)Cl複合体が活性化され、Fe3+を放出し、ROSを生成する。 Fe3+は酸化還元サイクルを介して細胞内GSHを枯渇させ、フェントン反応を促進する一方、ROSは相乗的にLPO蓄積を加速させ、フェロトーシスカスケードを終結させる。
 [以上、論文Figure 1参照]

 ARCHERは前臨床モデルにおいて60%の腫瘍を除去し、フェロトーシス効果が大きく増強されることが確認された。重要なことに、レーザー照射や酸性条件のない正常組織では、Ce6Fe(III)Clがスーパーオキシドラジカルを捕捉してオフターゲット・フェロトーシスを抑制し、腫瘍特異的な細胞毒性を確保する。
 こうして、ARCHERを介してオフターゲットが最小限で効果的なフェロトーシス誘導型癌治療が実現する可能性が示された。

[出典]
  • "A harmless-to-harmful switchable and spatiotemporally activated nano-CRISPR hierarchically amplifies ferroptosis in melanoma" Ou C, Huang X, Huang D [..] Wu Q, Gong C. Cell Rep Med 2026-03-31. https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2026.102718 [所属]  Sichuan University (Dept Biotherapy, West China Hospital), Naval Medical University (Dept Gastroenterology)
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