西オーストラリア大学医学部のJohn Burnett教授らが、ANGPTL3 を標的とするCRISPR TherapeuticsのCTX310™とVerve Therapeutics社のVERVE-201の臨床試験の初期の結果についてコメントしている。前者では、Cas9 mRNAとガイドRNAを内包した脂質ナノ粒子製剤による遺伝子編集によるホモ接合性家族性高コレステロール血症などを対象とする治験が行われており [crisp_bio 2025-06-30/2026-03-10]、後者では、塩基エディターABEをベースとしたホモ接合型家族性高コレステロール血症(homozygous familial hypercholesterolemia, HoFH) 治療薬としての治験が進んでいる [crisp_bio 2022-10-27]。
ANGPTL3とは
ANGPTL3はリポタンパク質代謝の重要な調節因子であり、リポタンパク質リパーゼ(LPL)と内皮リパーゼ(EL)の両方の阻害因子として機能する。ANGPTL3の不活性化は、この阻害効果を消失させ、脂肪分解を促進し、トリグリセリドを豊富に含むリポタンパク質(TRL)のクリアランスを加速する。ANGPTL3 遺伝子によってコードされるANGPTL3は、ほぼ肝臓でのみ産生される。
CRISPR技術以前の治療薬と候補
ANGPTL3は脂質低下の魅力的な薬理学的標的として位置づけらて、創薬が試みられてきたが、高トリグリセリド血症(HTG)およびそれに伴うASCVDリスクを標的とする効果的な治療法は限られている:
- Regeneron Pharmaceuticals社の完全ヒト型モノクローナル抗体(mAb)エビナクマブ(製品名 エヴキーザ):ANGPTL3阻害剤として唯一のFDAとEMAの承認薬
- Beijing Suncadia Pharmaceuticals社のSHR-191:モノクローナル抗体
- Ionis Pharmaceuticals社の GalNAc 結合アンチセンスオリゴヌクレオチド (ASO) であるVupanorsen(IONIS ANGPT-L3Rx):開発中止
- Arrowhead Pharmaceuticals社のゾダシラン (ARO-ANG3):肝臓におけるANGPTL3の合成を阻害するように設計されたGalNAc結合siRNA, 第III相試験であるYOSEMITE試験(NCT07037771)進行中
- イーライリリー社のソルビンシラン (LY3561774):肝臓のANGPTL3を標的とするGalNAc結合型siRNA
CRISPR技術による治療薬の治験
生体内でANGPTL3をノックアウトするCTX310は、ANGPTL3を永続的に不活性化する可能性を秘めており、既存の治療法とは根本的に異なるアプローチを提供する。ヒトを対象とした第I相臨床試験では、CTX310の最高用量でLDLコレステロールとTGが約50%減少した。これは、エビナクマブを含む他のANGPTL3阻害薬の結果と一致する。しかしながら、現時点では、その不可逆的な作用機序、肝臓特異的な副作用の可能性、免疫原性、オフターゲット編集のリスク、および長期安全性データが不足している。また、これまでの第I相臨床試験には、被験者集団の多様性の制限やサンプルサイズの小ささなど、いくつかの限界がある。多様な患者集団における安全性、有効性、およびASCVD(動脈硬化性心血管疾患)転帰を評価するために、大規模かつ長期的な研究が期待される。
VERVE-201については、重度または完全なLDL受容体欠損症のマウスおよび非ヒト霊長類モデルにおいて、ホモ接合型家族性高コレステロール血症(HoFH)と同様に、ANGPTL3の正確かつ強力な不活性化を示す有望な前臨床試験結果を受けて、難治性高コレステロール血症患者を対象とした第Ib相試験(NCT06451770)が開始された。
いずれにしても、CTX310とVERVE-201の継続的な開発は期待されてよい。
[出典]
- Editorial "ANGPTL3 gene editing with CRISPR-Cas9: early trial insights" Tang XL, Hooper AJ, Burnett JR. Expert Opinion Investig Drugs. 2026-04-03. https://doi.org/10.1080/13543784.2026.2656431 [所属] Royal Perth Hospital & Fiona Stanley Hospital Network (Dept Clinical Biochemistry) (オーストラリア), University of Western Australia (School of Medicine)
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