crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

 自家キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は血液悪性腫瘍において顕著な有効性を示しているが、複雑な製造プロセスが依然として大きな課題の一つになっている。患者由来T細胞療法に対して、健常ドナー由来の既製同種CAR T細胞は有望な代替手段となるが、安全な実施には内因性T細胞受容体(TCR)発現の除去と柔軟なCAR発現戦略が必要になる。
 タイのチュラロンコン大学を主とする研究チームは今回、CRISPR/Cas9により健常ドナー由来T細胞のTCRをノックアウト(KO)し、一旦、凍結保存した後に、CD117、BCMA、またはCD19 CARをコードするmRNAをトランスフェクションする実験を行い、様々な凍結保存・トランスフェクション条件下で、CAR発現、細胞生存率、免疫表現型、サイトカイン分泌、および抗原特異的細胞傷害性を評価した。
  • TCR KO T細胞(TCR knockout T cells: TKO T細胞)は、効率的なTCR破壊と同種反応性増殖の抑制を示した。 
  • TKO T細胞由来のCD117 mRNA CAR T細胞は、野生型CAR T細胞と同等のCAR発現動態、免疫表現型プロファイル、および抗原特異的細胞傷害性を示した。
  • 2種類の凍結保存戦略を評価した結果、mRNAエレクトロポレーション前の凍結保存は細胞生存率、表現型、および細胞傷害性機能を維持するのに対し、mRNAトランスフェクション後の凍結保存は機能活性の低下と関連していることが明らかになった。
  • 最適化されたプロトコルは、CD19およびBCMAを標的とするCAR mRNAにも適用可能であった。
 今回のアプローチでは、健常ドナー由来のTKO T細胞を凍結保存することで、臨床ニーズに応じて様々なCAR構築物を用いて容易にアクセス・カスタマイズ可能な汎用T細胞バンクの構築が可能になり、さらに、mRNA CAR技術を用いることで、CARの一過性発現が可能となり、長期毒性のリスクを低減できるため、安全性が向上する。こうして、自家CAR T細胞療法の限界を克服する新たなアプローチが、実現した。

[出典]
  • "Combining CRISPR/Cas9-mediated TRAC knockout with mRNA-based CAR expression enables flexible generation of allogeneic CAR T cells" Buakaew T [..] Ausavarungnirun C, Tawinwung S. Biomed Pharmacother. 2026-03-30. https://doi.org/10.1016/j.biopha.2026.119300 [所属] Chulalongkorn University (Dept Pharmacology and Physiology; Center of Excellence in Cellular Immunotherapy, Dept Microbiology; Dept Research Affairs) (タイ), University of Pennsylvania Perelman School of Medicine (Division of Infectious Diseases) (米国), University of Chicago Pritzker School of Medicine, Evanston Hospital (Dept Pathology and Laboratory Medicine)
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット