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 一本鎖DNAアニーリングタンパク質(single-stranded DNA-anealing proteins: SSAPs)を介した組換え工学は、細菌ゲノム編集の強力なツールとなっている。しかし、ほとんどの真核生物では、その効率は、優勢な非相同末端結合(NHEJ)修復経路と、外来性SSAPの活性の制限によって制約されている。Qingsheng Qi教授Mengmeng Liu博士研究員をはじめとする山東大学の研究チームは今回、NHEJが優勢な酵母 Yarrowia lipolyticaにおいて、組換え酵素の過剰発現がない場合でも、一本鎖オリゴヌクレオチド・テンプレートを提供することで、Cas9誘導DSBの18.7%が正確に修復されることを発見した。すなわち、真核生物に内在するSSAPを介した組換え活性の存在が示唆された。
 さらに、組換え関連タンパク質の過剰発現実験から、Rad52が一本鎖アニーリングにおいて重要な役割を果たしていることが明らかになった。 Rad52(1–300)の構造的切断により、ゲノム編集効率は96.3%に向上し、これは、Ku70欠失によるNHEJ阻害で達成された効率に匹敵した。
 こうして確立されたESTAR(enhancement of single-stranded template annealing activity by Rad52 / Rad52による一本鎖テンプレートアニーリング活性の強化プラットフォームは、小さな断片の挿入、欠失、置換、および20 kbを超える大きな断片の欠失を含む、Enhancement of single-stranded template正確かつ効率的なゲノム編集を可能にする [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]
 ESTARプラットフォームは、Saccharomyces cerevisiae やその他の非従来型酵母でさらに検証され、Cas9誘導DSB修復中の一本鎖DNAアニーリングステップに関して新たな知見が得られるに至った。

[出典]
  • "Enhancement of single-stranded template annealing activity by Rad52 during repair of CRISPR-induced dsDNA breaks" Liu H [..] Liu M, Qi Q. Nucleic Acids Res. 2026-03-31. https://doi.org/10.1093/nar/gkag288 [所属] Shandong University (State Key Laboratory of Microbial Technology)
[補足1] SSAP関連crisp_bio記事
[補足2] SSAP解説
 大腸菌Racプロファージ由来のRecTやバクテリオファージラムダ由来のRedβなどのファージ由来SSAPは、ゲノム編集技術の効率を高める上で重要な役割を果たしている。これらのSSAPのssDNAアニーリング活性は、遺伝子座を多様化するための強力かつ汎用性の高いアプローチを提供し、多重自動ゲノムエンジニアリング(MAGE)[Wang et al., Nature 2009] や酵素の生体内指向性進化などの手法の基盤となっている。
 RecT/Redβを介した組換えエンジニアリングにおける重要なメカニズムステップは、複製フォークのラギング鎖でゲノムに一本鎖オリゴヌクレオチド(ssODN)をアニーリングすることであり、これはRecA非依存性一本鎖アニーリング(SSA)モデルである。さらに、研一部のプロファージSSAPは宿主の二本鎖切断(DSB)のDNA修復プロセスにも関与し、ゲノム編集効率を内因性メカニズムよりも最大1000倍向上させることが示されている。
 興味深いことに、SSAは真核細胞においてRad51(RecAホモログ)非依存性の経路としても同定されている。これらのシステムでは、ゲノム編集は通常、Cas9誘導DSBの修復テンプレートとして一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)を用いる。この戦略は、古典的な相同組換え修復(HDR)よりも効率的であり、通常は一本鎖アニーリング段階を経て進行する。しかしながら、非従来型酵母、エレガンス、マウス、ヒト細胞などのほとんどの真核生物系では、非相同末端結合(NHEJ)が優勢なため、精密なゲノム編集の効率は依然として限られている。
 近年の研究では、真核生物系におけるゲノム編集効率を高めるために、ファージ由来のSSAPの発現が検討されている。例えば、RedβまたはRecTの発現は、Saccharomyces cerevisiae およびPichia pastoris において編集効率のわずかな向上を示している。哺乳類細胞では、Redβの利用により効率が5倍に向上した。しかしながら、これらのSSAPの効率は宿主範囲が狭く、宿主のssDNA結合タンパク質(SSB)との相互作用によって移植性が制限される。したがって、真核生物のSSB(複製タンパク質A、RPA)と相互作用する効率的なSSAPを特定することは、真核生物における組換え遺伝子工学戦略を進展させる上で重要である。
 Rad52、RecT/Redβ、およびファージP22のERFタンパク質(必須組換え機能)は、同じアニーリング機能を共有しており、当初は3つの主要なSSAPスーパーファミリーに分類されていた。構造からの系統解析によると、これらのSSAPは類似した構造的特徴を共有している。さらに、クライオ電子顕微鏡構造解析により、Rad52とRedβ/RecTは共通のコアフォールディングパターンと一本鎖DNA結合機構を示すことが確認されている。すべてのSSAPは、逆平行3本鎖βシートと2つの中央αヘリックスからなる特徴的な構造を有しており、真核生物と原核生物の両方における組換えに関わるアニーリング機構は、共通の構造機能によって決定される可能性が示唆されている。違いは、Rad52のC末端領域には、宿主のHDRに関与するRad51との相互作用ドメインも含まれている点にある。
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