CRISPR-Cas12fヌクレアーゼは、サイズがコンパクト(約400〜700 aa)でアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる送達に適合することから、治療用ゲノム編集エフェクターに有力な候補です。しかし、哺乳類細胞における編集効率は、Cas9のような大型システムに比べて低いことが大きな問題です。一方で、Cas12fファミリーは進化系統的に極めて多様であり、近年も新たなメンバーの発見が続いていることから、高活性の可能性を秘めた未解明の機構を備えたメンバーがまだ隠れいている可能性があります。
テキサス大学オースティン校の研究者達にMetagenomi Therapeuticsの研究者が加わった研究チームは今回、メタゲノミクスによって発見された天然由来のCas12fオルソログであるAlistipes sp. Cas12f(Al3Cas12f)が、ヒト細胞において強力なゲノム編集を可能にすることを発見しました。
続いて、構造、生化学、および速度論的解析を介して、このAl3Cas12fを、最近報告された2つのオルソログ、Oscillibacter sp. Cas12fおよびRuminiclostridium herbifermentans Cas12f [crisp_bio 2023-04-18]と比較しました。その結果、これらのCas12fオルソログは、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)認識、ガイドRNA(gRNA)結合、二量体化、およびDNA切断を制御する構造と調節機能が異なることが明らかになりました [論文Fig. 7 : Activation mechanism for three Cas12f orthologs.参照]。Al3Cas12fは、安定した二量体界面と自然に最適化されたgRNAを介して効率的なRループ形成を実現する特徴を備えていました。これらの構造的知見を活用して、研究チームは、編集効率を高め、テストした複数のゲノム領域における活性を向上させるように合理的に Al3Cas12f (RKK) 変異体を設計しました。
野生型Al3Cas12fの活性は、遺伝子座間で大きなばらつきを示し、特定の疾患関連標的における編集効率が不十分となる可能性が高かったのに対して、Al3Cas12f (RKK) は、試験した範囲で複数の標的の平均編集効率を野生型の10%未満から80%以上に向上させました。この遺伝子座全体にわたる広範な改善は、治療用遺伝子編集システムとしての開発に必要な活性閾値を克服するのに役立ちます。
複数の遺伝子座にわたる一貫した性能は、Al3Cas12f RKKがより汎用性の高いプラットフォームであることを裏付けており、低用量で高い活性を示すことは、臨床応用における安全性と有効性のバランスを改善する上で有利でしょう。
複数の遺伝子座にわたる一貫した性能は、Al3Cas12f RKKがより汎用性の高いプラットフォームであることを裏付けており、低用量で高い活性を示すことは、臨床応用における安全性と有効性のバランスを改善する上で有利でしょう。
[構造情報など]
- EMD-49954 / PDB 9NZO:Al3Cas12f state I (3.2 Å)
- EMD-49957 / PDB 9NZR:Al3Cas12f state II (3.26 Å)
- EMD-49959 / PDB 9NZT:OsCas12f-gRNA-DNA ternary complex State I (3.27 Å)
- EMD-49956 / PDB 9NZQ:Cryo-EM structure of OsCas12f-gRNA-DNA ternary complex. State II (3.67 Å)
- EMD-49958 / PDB 9NZS: Cryo-EM structure of OsCas12f-gRNA-DNA ternary complex. State III (3.68 Å)
- EMD-49955 / PDB 9NZP:RhCas12f-gRNA-DNA ternary complex (3.07 Å)
- 3種類のCas12fの活性化機構の比較:Fig. 7: Activation mechanism for three Cas12f orthologs.
[出典]
- "Comparative characterization of Cas12f orthologs reveals mechanistic features underlying enhanced genome editing efficiency" Guan K [..] Taylor DW. Nat Struct Mol Biol. 2026-04-13. https://doi.org/10.1038/s41594-026-01788-6 [所属] University of Texas at Austin (Dept Molecular Biosciences, Interdisciplinary Life Sciences Graduate Programs, Center for Systems and Synthetic Biology, LIVESTRONG Cancer Institutes, Dell Medical School) (米国), Metagenomi Therapeutics
[詳細] CRISPR-CasシステムにおけるCas12fファミリー
原核生物が備えている適応免疫を担うCRISPR–Casシステムは極めて多様であり、現在、2つの主要なクラス(クラス1とクラス2)に分類され、さらに、それぞれにいくつかの異なるタイプとサブタイプに分類されています。Cas9(タイプII)、Cas12(タイプV)、Cas13(タイプVI)などのクラス2に分類されているCRISPR -Casシステムは、ヌクレアーゼとして単一のエフェクター・タンパク質を使用します。これらのうち、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)とAcidaminococcus sp. Cas12a(AsCas12a)は強力なヌクレアーゼ活性を持ち、ゲノム工学に広く使用されています。しかしながら、両タンパク質はサイズが比較的大きく(>1,300 aa)、AAVベクターへのパッケージングやmRNA製造に課題があり、結果として送達効率が低下し、治療への応用が制限されます。
そこで、より小型のCRISPR-Casサブタイプがゲノム編集の候補として注目されてきました [#1-4]。そのようなサブタイプの1つであるV-F(Cas12f)ヌクレアーゼ(400~700アミノ酸)[#5] は、5'末端にTリッチまたはCリッチなプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を好む二本鎖DNA(dsDNA)を標的とする [#3, 6, 7]。クライオ電顕法により再構成した構造から、Cas12fは非対称ホモ二量体として機能し、一方のモノマーが標的DNA鎖(TS)と非標的DNA鎖(NTS)の両方を切断する一方、もう一方のモノマーは不活性状態にあることが明らかになっています [#8 - 13]。これらのタンパク質は哺乳類細胞において飽和レベルの編集能にはまだ達していないものの、Cas12fタンパク質およびそのgRNA足場の合理的な設計により、遺伝子編集活性は向上してきています [#11, 13-16]。Cas12fの新規オルソログの発見とその変異体の開発が続いていましたが、ここでは、ヒト細胞において高い編集効率を示す、Alistipes 属由来の新規Cas12fオルソログ、Al3Cas12f、について報告されています。
研究チームは、タイプVヌクレアーゼの多様性を探るため、様々な環境由来の高品質な微生物メタゲノムアセンブルの大規模データベースを解析し、CRISPRアレイ近傍に存在する数千もの小型ヌクレアーゼをコードする遺伝子を発見しました。これらのヌクレアーゼは極めて多様でしたが、代表的なタイプVヌクレアーゼの系統樹に位置づけると、他のCas12fヌクレアーゼと関連しているものもいくつか見つかりました [論文Fig. 1 a 参照]。新たに同定された代表的な配列であるCas12f-MG119-1、Cas12f-MG119-2、Cas12f-MG119-3、およびAl3Cas12fは、参照配列と平均28~52%のアミノ酸配列同一性を示し、長さは433~488アミノ酸でした。ヌクレアーゼ遺伝子をコードするゲノム領域を調べたところ、対応するCRISPR RNA(crRNA)とトランス活性化crRNA(tracrRNA)が同定されました。これらのシステムは、8N PAMライブラリーのin vitro切断アッセイを使用してTリッチPAMを認識し、5' PAM配列から20、22、23 ntの位置でTSを、11、13 ntの位置でNTSを切断することが同定されました [論文Fig. 1 b 参照]。精製タンパク質のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、Al3Cas12fはgRNAが存在しない場合でも必須二量体として存在することが明らかになりました。
[引用および参考資料]
[引用および参考資料]
- [#] 2021-09-22 [リサーチハイライト] 小は大に勝る - より小型のCRISPRシステムを求めて. https://crisp-bio.blog.jp/archives/27463299.html
- [#] 2021-09-11/10-10 トランスポゾンにコードされているIscBタンパク質は,RNAにガイドされてヒトゲノムを切断し,真核生物である藻類にも存在する. https://crisp-bio.blog.jp/archives/27384402.html
- [#] 2021-05-31 Cas12f (Cas14a)は、PAMに依存しないssDNA切断活性に加えて、PAMに依存するdsDNA切断活性も帯びている. https://crisp-bio.blog.jp/archives/17930637.html
- [#] 2020-12-20 未培養微生物から小型かつゲノム編集に利用可能なCas9dとHEAROを発見. https://crisp-bio.blog.jp/archives/31081506.html
- [#] 2018-10-19 メタゲノムからssDNAをトランス切断するCas14ファミリーを発見しDETECTRへ展開. https://crisp-bio.blog.jp/archives/12977892.html
- [#] 2021-10-31 小型のタイプV-F CRISPR-Casヌクレアーゼによるヒト細胞と植物細胞のゲノム編集を実証. https://crisp-bio.blog.jp/archives/27776976.html
- [#] 2023-04-18 ロバストな活性を帯び標的可能範囲が広い新たなCas12f1を発見. https://crisp-bio.blog.jp/archives/32087606.html;Oscillibacter sp. (OsCas12f) と Ruminiclostridium herbifermentans (RhCas12f)
- [#] 2021-04-02 CRISPR–Cas12f(Cas14a)の基質認識と切断の構造基盤. https://crisp-bio.blog.jp/archives/25993483.html
- [#] 2020-12-17 529-aaと小型なCas12f(Cas14a)の三者複合体構造. https://crisp-bio.blog.jp/archives/25052278.html
- [#] 2023-07-10 コンパクトなCRISPR-Cas12fから、よりコンパクトで強力なeCas12f-sgRNAを作出. https://crisp-bio.blog.jp/archives/32730713.html
- [#] "Structure and engineering of miniature Acidibacillus sulfuroxidans Cas12f1" Wu Z [..] Shen H, Ji Q. Nat Carl 2023-07-31/Aug. https://doi.org/10.1038/s41929-023-00995-4
- [#] 2023-09-20 PAMとしてC-リッチな配列を認識する小型のCas12fの分子基盤. https://crisp-bio.blog.jp/archives/33296458.html
- [#] 2023-10-05 AsCas12fとsgRNAを改変したコンパクトなゲノム編集ツールを開発し、オールインワンAAVを介した臨床応用の可能性を提示. https://crisp-bio.blog.jp/archives/33434695.html
- [#] 2021-09-07 Acidibacillus sulfuroxidans由来のコンパクトなCRISPR-Cas12fヌクレアーゼによるプログラム可能なゲノム編集. https://crisp-bio.blog.jp/archives/27357968.html
- [#] 2025-04-03 コンパクトなCRISPR/Cas12fベースの遺伝子活性化とABEの効率を, ガイドRNAを環状にすることで, 大幅に改善. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38227902.html
- [#] 2025-07-17 Syntrophomonas palmitatica由来のCas12f1 (SpCas12f1: 497 aa) のdsDNA切断の構造基盤を明らかにし分子機序モデルを提案. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38955542.html
- 2023-06-08 PAM配列の制約が緩やかなタイプV Cas12fヌクレアーゼの発見と特性. https://crisp-bio.blog.jp/archives/32493028.html
- 2025-04-14 タイプ V CRISPRシステムの新たな12のサブタイプとバリアントの初期特性評価. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38297900.html
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