crisp_bio

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 UCSFとGladstone Institutesの准教授Seth Shipman博士が率いる研究チームはこれまで細菌由来の因子を利用して細胞を操作する技術を開発してきました。例えば、レトロンシステムとCRISPRシステムの2つの異なる細菌免疫システムを応用することで、生細胞内で遺伝子が活性化する順序を記録する方法を開発しました [crisp_bio 2021-08-01/2022-09-11] 。研究チームはこの技術を用いて、発生過程における遺伝子発現の順序が、様々な細胞型や組織の形成に及ぼす影響の解明を進めて来ました。
 また、細菌レトロンをCRISPR-Cas9 GEツールボックスに追加することで、逆転写によってssDNAリコンビニアリング・ドナーの持続的な大量生産を可能にし、この技術を利用して大腸菌ゲノムの柔軟かつ正確な編集を実証し、大腸菌におけるリコンビニアリングの効率を大きく向上させました [crisp_bio 2024-07-18]。ここで姿を見せた「リコンビニアリングの部品である一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)と一本鎖結合タンパク質(SSB)に、改変されたドナー産生細菌レトロンを組み合わせたゲノム編集ツール」を研究チームはリコンビトロン(recombitron)と称しました。
 Shipman研究チームは今回、リコンビトロンの有用性を大腸菌以外にも広げるため、世界中の9つの異なる研究室と提携し、それぞれの研究室が得意とする細菌種でリコンビトロンの移植性と汎用性をテストしました。
 対象は、3つの異なる細菌門(プロテオバクテリア、バチルス、アクチノミセス)と合計15の異なる種にわたりました。その中で、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)や緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)など、いくつかの細菌種はヒト病原菌であり、しばしば抗生物質耐性を獲得するため、これらの細菌と戦う新たな戦略が求められて来ました。一方、ビブリオ・ナトリエゲンス(Vibrio natriegensやシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida[crisp_bio 2021-09-27] などは特に増殖が速く、医薬品から燃料まで、目的の化合物を生産するためにバイオテクノロジー分野で広く利用されています。
 リコンビトロンは試験したすべての種で機能し、6種で20%以上、3種で40%以上、2種で90%以上の編集効率を達成しました。また、一部の宿主においてリコンビトロンのアーキテクチャ最適化と株の背景を拡張し、編集率をさらに向上させる実験も行いました。
 本研究で実施した広範なリコンビトロン調査は、細菌ドメイン全体におけるレトロン由来技術の普及の基盤になります。

[補足] リコンビニアリングの手法の変遷
 リコンビニアリングは、細菌ゲノムを編集する最も強力な手法の一つです。リコンビニアリングは、25年前に大腸菌で開発され、精密な遺伝子ノックアウトや点変異を可能にしました。しかし、二本鎖DNA(dsDNA)ドナーからのリコンビニアリングの編集効率が低いため(例えば、λ Red組換え)、編集された細胞を濃縮するために、この技術を選択方法と組み合わせる必要がありました。
 その後、大腸菌において、リコンビニアリングが完全に一本鎖DNA(ssDNA)オリゴヌクレオチドをドナーとして使用できることが発見されたことで、dsDNAをssDNAに変換するエキソヌクレアーゼ(例えば、λ RedシステムのExo)の必要性がなくなり、編集効率が向上し、編集産物を選択する後処理が不要になりました。
 現在、リコンビニアリングは、複製中に外来ssDNAを宿主染色体のラギング鎖に組み込むために、一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)と一本鎖結合タンパク質(SSB)の活性に依存しています。MAGE(Multiplexed Automated Genome Editing)と呼ばれるハイスループットなリコンビニアリング法では [Wang et al., Nature 2009Wannier et al., Nature Reviews Methods Primers 2021]、合成リコンビニアリングオリゴヌクレオチドライブラリーをエレクトロポレーションすることで、多数の特定のゲノム領域に標的変異を導入することが可能になっています。
 しかしながら、リコンビニアリングにも限界がありました。このプロセスでは、通常は合成オリゴヌクレオチドの形で外来DNAを導入する必要があり、これが大腸菌以外のシステムにおけるこの技術の効率と適用範囲を制限しています。導入後、DNAは宿主ヌクレアーゼによって急速に分解されるため、有用なゲノム編集効率を得るには、複数回のエレクトロポレーションサイクルが必要となります
 近年、リコンビニアリング機構に細菌レトロンを組み込むことで、効率が向上し、この手法全体の適用範囲が拡大しています。レトロンは、逆転写酵素(RT)、非コードRNA(ncRNA)、および防御応答のエフェクターとして機能する追加のタンパク質またはRT融合ドメインから構成される細菌の三者構成免疫システムです [crisp_bio 2021-03-26挿入図参照]。レトロンRTは自身のncRNAを認識し、それを逆転写テンプレートとして用いて一本鎖DNA(ssDNA)を生成します。ファージ防御において、ssDNAは抗毒素として働き、エフェクターの毒性活性を阻害します。ファージ由来のタンパク質はssDNAを修飾して抗毒素効果を除去し、毒素を放出して感染細胞を死滅させ、感染を封じ込めて細菌集団を保護します。
 リコンビニアリングにおいては、レトロンエフェクターは省略され、レトロンncRNAがテンプレート領域に編集ドナーをコードするように改変されます。プラスミド上に組換えSSAPおよびSSBとともに供給されると、特定のssDNAドナーの複数コピーがin vivoで持続的に生産され、これがオリゴヌクレオチドドナーの代わりに他の組換え機構によって使用されることになります。
[以下、bioRxiv Figure 1引用右図 a 参照]
Genome editing of phylogeneticallya) 上段はリコンビトロンオペロンの模式図 - 左端に位置するncRNAのmsd(multicopy single-stranded DNA)領域内にドナーがコードされます;下段はレトロンを介したリコンビニアリングプロセスの模式図 - レトロン内のRTはRT-DNAドナーの複数のコピーを生成します。SSAPおよびSSBタンパク質が、細菌複製中にRT-DNAドナーのラギング鎖への結合を促進し、目的の変異を導入します。
b) 研究対象とされた細菌種の、16S配列のマルチプルアライメントを使用して構築された無根系統樹、異なる色は、異なる細菌門(プロテオバクテリア、バチルス門、アクチノミセス門)、綱(ガンマプロテオバクテリア)、目(シュードモナス目)、または機能群(大腸菌群)を表します。
c) 左側はリコンビトロン・アーキテクチャの最適化に使用したオペロンの模式図です。lacZ遺伝子に欠失を作るためのEco1リコンビトロンが、すべての構成で使用されました。プラスミド複製起点とプロモーターが、異なる色で示されています。右側はlacZ遺伝子座の正確な編集率の定量化と、一晩培養後の培養物のOD600との相関を示しています。編集データは、Illuminaシーケンスによって定量化されます。エラーバーは、3つの生物学的複製に対する±標準偏差です。
d) レトロンベースのリコンビニアリング実験を実行するために選択されたレトロンの関連特徴をまとめた表です。アスタリスクの付いた列の情報は、Mestre et al., Nucleic Acids Res. 2020 から引用されています。
e) (1) リコンビトロンの移植性を分析するために使用されたワークフローの概略図です。10個のリコンビトロンのセットは、Gibson Assemblyアプローチを使用して、宿主特異的プラスミドにクローニングされます。(2) SapIで挟まれたドナーは、Golden Gate反応を使用して、10個のレトロンのレトロンncRNAに並行して連結されます。(3) 複数のコロニーをサンガーシーケンス法でスクリーニングし、特定のプラスミド骨格に適切なドナーを持つ様々なリコンビトロンを取得します。(4) プラスミドは、自然導入、エレクトロポレーション、または接合によって最終宿主に導入されます。(5) 単一コロニーは飽和状態になるまで培養され、希釈(必要に応じて適切な誘導剤を使用)後、(6) 再び飽和状態になるまで培養されます。(7) 正確な編集率は、イルミナシーケンス法によって測定されます。

[出典] 
  • 論文"Genome editing of phylogenetically distinct bacteria using cross-species retron-mediated recombineering" González-Delgado A [..] Shipman SL. (bioRxiv 2025-06-17 https://doi.org/10.1101/2025.06.16.660010) Nat Biotechnol. 2026-04-23. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03076-6 [所属] Gladstone Institute of Data Science and Biotechnology (米国), UC Berkeley, UCSF, Lawrence Berkeley National Laboratory,  University of Pittsburgh, The University of Texas at Austin,  University of Wisconsin–Madison, University of Minnesota–Twin Cities, Biohub, Centre de Recerca en Sanitat Animal (CReSA) (スペイン), WOAH Collaborating Centre for the Research and Control of Emerging and Re-Emerging Swine Diseases in Europe (IRTA-CReSA), Universitat Pompeu Fabra, Institució Catalana de Recerca i Estudis Avançats, Aarhus University (デンマーク)
  • ニュース "A Universal Toolkit for Editing Bacterial DNA" Williams SCP. Gladstone Institute. 2026-04-23. https://gladstone.org/news/universal-toolkit-editing-bacterial-dna
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