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 トロント大学のBrenda Andrews教授Charles Boone教授(兼 理研)ならびにミネソタ大学のChad L. Myers教授を共同責任著者とする総勢90人の共著者が、「ヒト半数体細胞株HAP1において、ゲノムワイドCRISPR-Cas9 KOスクリーンを用いて約400万個の遺伝子ペアに加えた摂動が適応度表現型に与える効果を測ることで、約8万9000個の遺伝子相互作用をマッピングし、遺伝子と複合体、経路、細胞プロセスを結びつける階層的なネットワークを明らかにし、癌細胞の遺伝的依存性の根底にある遺伝子を解明した」Global genetic interaction network GAことを、Cell 誌刊行論文にて紹介しています。
 [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]

[詳細:ヒトHAP1細胞におけるゲノム規模の遺伝子相互作用解析の方法と概要]
 ヒト細胞の参照遺伝子ネットワークを体系的にマッピングするため、適応度表現型を明確に捉える機能喪失(LOF)遺伝子スクリーニングに適した半数体細胞株HAP1が、モデル細胞株として選択されました。
 定量的遺伝子相互作用(quantitative Genetic Interaction:qGI)解析には、正確な単一変異体の適応度表現型が必要となることから、まず、HAP1野生型(WT)細胞において、Toronto KnockOutバージョン3(TKOv3)gRNAライブラリーを用いた39回のゲノムワイドなプール型CRISPR-Cas9ノックアウト(KO)スクリーニングが実施されました。
 合計で、2つの増殖条件下で17,724個の遺伝子の単一変異体の適応度を測定し、HAP1細胞の増殖に必須な1,524個の遺伝子(発現遺伝子の約15%)が同定されました。 HAP1の必須遺伝子の大部分は、ほとんどのヒト細胞株の生存に必要なコア必須遺伝子であり、他のヒト細胞株やモデル生物で同定された必須遺伝子に共通する生理学的および進化的特性を示します。
 遺伝子相互作用の定量化に向けて、クエリ変異体(遺伝子ペアに変異が導入された二重変異体)細胞集団とWT単一変異体細胞集団における、特定のライブラリー遺伝子(その遺伝子を標的とするガイドRNA)のlog fold change測定値の差に基づくqGIスコアが定義されましたGlobal genetic interactionFigure S3 [図S3引用右図 A 参照]。クエリ変異細胞株におけるガイドRNAの存在量が、二重変異体の適応度の推定値を提供し、遺伝子間の負の相互作用はWTと比較してクエリ変異体においてそのガイドRNAの存在量が有意に減少している遺伝子を反映し、正の相互作用は、WTと比較してクエリ変異体においてガイドRNAの存在量が増加している遺伝子を反映します [図S3引用右上図のAの右端とB参照]
 続いて、HAP1細胞において様々な遺伝子発現レベルと単一変異体適応度欠損を示す機能的に多様な遺伝子に着目して、222個のクエリ遺伝子変異細胞株が構築されました。これらの細胞株のほとんどは、完全な機能喪失(LOF)アレルが確認されていました。これらのクエリ細胞株に298回のゲノムワイドCRISPRスクリーニングを実施し、3,934,506個の固有の遺伝子ペア間の遺伝的相互作用が評価されるに至りました。
 さらに、298件のスクリーニングの完全なセットから得られたライブラリー遺伝子相互作用をベースに、ゲノムスケールのHAP1遺伝子相互作用プロファイル類似性ネットワークが構築されました [Figure 1引用右下図参照]
Global genetic interaction network Figure 1 このネットワークのノードは固有のライブラリー遺伝子を表し、エッジは類似した遺伝子相互作用プロファイルを共有する遺伝子ペアを接続しています。接続された遺伝子ペア間の距離は、それらのプロファイルの類似性を反映しています。近接する遺伝子はより類似した遺伝子相互作用パターンを共有し、ネットワーク内で遠く離れた位置にある遺伝子はより異なるプロファイルを示します [Figure 1 A参照]。ライブラリー遺伝子プロファイルは222個の固有のクエリ遺伝子との遺伝子相互作用に基づいているため、HAP1ネットワークは比較的疎です。それでも、ネットワーク上の遺伝子の約74%(2,787/3,784)は、識別可能なネットワーククラスターに属していました。 GOバイオプロセス機能標準を用いた空間機能濃縮解析(spatial analysis of functional enrichment:SAFE)[Baryshnikova A., Cell Syst 2016] を適用することで、DNA複製と修復や小胞輸送など、異なるバイオプロセスに対応する関連GO用語がそれぞれ濃縮された、密に接続された17個のネットワーククラスターが特定されました [Figure 1 - B参照]。SAFEとタンパク質局在標準を組み合わせることで、隣接するバイオプロセス濃縮モジュールの7つのより大きなネットワーク領域が強調され、それぞれが同じ細胞内区画に局在するタンパク質が濃縮されていました [Figure 1 - C参照]。バイオプロセス濃縮ネットワーク領域内には、71個のタンパク質複合体に対応するより小さなモジュールが含まれていました [Figure 1 - D~F参照]
 このように、HAP1遺伝子相互作用プロファイル類似性ネットワークは、タンパク質複合体と経路、生物学的プロセス、細胞区画に対応するヒト遺伝子モジュールの機能的階層を明らかにする酵母のグローバルネットワークと同様のトポロジーを示しました。
[まとめ]
 遺伝子相互作用は、遺伝的変異の表現型への影響を調節する可能性を浮き彫りにします。今回、HAP1細胞の適応度に個々に必須な1,524個の遺伝子が特定されました。HAP1細胞における約89,000個の遺伝子相互作用のマッピングに基づき、HAP1の遺伝子ネットワーク全体は、約85,000個の極めて負の合成致死相互作用と約45,000個の極めて正の抑制相互作用を含む、約140万個の遺伝子間相互作用を包含すると推定されています。
 HAP1細胞における遺伝子相互作用は、ヒトの疾患や集団遺伝学に関連しており、これらの分野では、ほとんどの表現型は個々の遺伝的背景によって形成される量的形質を反映しています。メンデル遺伝性疾患でさえ、疾患変異を増強または抑制する遺伝子修飾因子により、疾患表現型にばらつきが見られます。HAP1遺伝子ネットワークは、OMIMデータベースに注釈付けされた350以上の非必須疾患遺伝子を含む1,000を超えるHAP1合成致死相互作用をGlobal genetic interactionFigure S22特定しましたが [Figure S22 引用右図参照]、このデータは、潜在的な疾患遺伝子修飾因子と変異効果のマッピングの機会を提供します。合成致死相互作用の約9%(約287/3,341)は、既知の腫瘍抑制遺伝子の機能喪失変異に関与しており、これは潜在的な標的がん治療のために検討に値します。
 本研究で得られた知見は、ヒト細胞株における遺伝子の役割とその機能的関連性を体系的に探索するための、一般的なデータ駆動型戦略を提示します。
[注] 予測結果は対話型のインターフェースを介してWebサイト(https://thecellmap.org)から公開しています [左下図はWebサイトトップページの一部、右下図はWebサイトのTheCllMap-HumanをFANCGで検索した初期画面の一部の、スクリーンショット]

Global genetic interaction network Web site2026-05-01 7.09.59
[構成] 参考文献176件を含む本文47頁(補足図とデータ36頁)
 INTRODUCTION
 RESULTS
 Genome-scale genetic interaction analysis in human HAP1 cells
 Assessing qGI score quality
 A functionally informative genetic interaction profile similarity network for a human cell
 Features of highly connected genetic network hubs
 Genetic interactions involving duplicated genes
 Relating genetic and physical interactions
 Functional distribution of negative genetic interactions
 Functional distribution of positive genetic interactions
 Systematic analysis of positive genetic suppression interactions
 Conservation of genetic network structure and topology
 Functional insights from comparative analysis of yeast and human genetic interaction profiles
 Deciphering molecular mechanisms underlying cancer cell line genetic dependencies
 Integrating HAP1 genetic interaction profile similarity and DepMap co-essentiality networks
 DISCUSSION
 Limitations of the study

[図一覧] Supplementary Figures(22件)を除く
[出典]
  • "Global genetic interaction network of a human cell maps conserved principles and informs functional interpretation of gene co-essentiality profiles" Billmann M, Costanzo M, Zhang X [..] Andrews B, Myers CL, Moffat J, Boone C. Cell 2026-04-27. https://doi.org/10.1016/j.cell.2026.03.044 [所属] University of Minnesota (米国), Wayne State University School of Medicine, The Scripps Research Institute, Stanford University, University of Pittsburgh School of Medicine, University of Bonn (ドイツ), University of Toronto (カナダ),  The Hospital for Sick Children, esearch Institute of McGill University Health Centre, Canadian Institute for Advanced Research, The Barcelona Institute for Science and Technology (スペイン), University of Geneva (スイス), Huazhong University of Science and Technology (中国), University of Bergen (ノルウエイ), RIKEN Center for Sustainable Resource Science (兼) (日本), Genome Institute of Singapore/A∗STAR (シンガポール)
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