CRISPR-Casシステムは、CasエフェクターがRNAにガイドされて標的(DNAやRNA)を認識すると活性化するシステムです。Cas12ヌクレアーゼも例外ではありません。ところが、2026年5月に入ってNature Biotechnology 誌から相次いで(1日 [#1];15日 [#2; 出典])、RNAにガイドされてDNAを切断するとされてきたCas12ヌクレアーゼ [#3] から、DNAにガイドされてRNAを切断するとするCas12ヌクレアーゼを導出したとする2論文が刊行されました。
これまでに、CRISPR-Casツールの強化を目的として、CRISPRガイドRNAのヌクレオチドをDNAまたは他の化学修飾塩基に置き換えるアプローチが試みられてきました。その中で、Cas9およびCas12aのガイドRNA(それぞれsgRNAとcrRNA)のガイド領域の大部分を遺伝子編集活性を維持したままDNAに置き換えられること、このRNA/DNAキメラ・ガイドによって標的(DNA)切断の特異性が向上すること、一方で、ガイド領域全体をDNAに置き換えるとDNA切断活性は消えることが、示されてきました [#4, 5]。
Wuら [#1]とOroscoら [#2; 出典]は、Cas12ファミリーの中で広く利用されているAcidaminococcus sp. Cas12a(AsCas12a)[#3] に、さまざまなキメラ・ガイド(RNA:DNA二重鎖)を組み合わせて、その影響を比較評価しました。
両研究ともに「RNA:DNA二本鎖において、ガイドRNAからガイド領域(スペーサー)に隣接するスキャフォールド配列が欠失している場合に、Cas12aが活性化する」ことを発見しました。このスキャフォールドは元々のAsCas12aでは、「Cas12aとガイドRNA(crRNA)の結合を担い、標的認識に伴うCas12aのコンフォメーション変化(すなわち、活性化)を引き起こすスイッチ」なのですが。
さらに、この活性化は、Cas12aに結合するDNAガイドに下流ヘアピン構造が含まれている場合に最も効率的であることも発見されました。ガイドRNA(crRNA)からスキャフォールド配列を除去しても活性を示すことは、Cas12aはDNAと結合する限り活性化することを意味します。今回、DNAガイドをCRISPR-Cas12aの活性化に利用できることが、AsCas12aに限らず、Cas12aの他のオルソログ(LbCas12aとLbaCas12a)[#1]とCas12の異なるサブタイプCas12i1 [#2] でも成立することが、確認されました。
前述の「DNA中のヘアピン構造」が活性を増強する事象の解釈は、当初、両研究で異なっていました。Wuら [#3] は、Cas12aが二本鎖DNAを標的とするために必要なプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)であると解釈し、Oroscoら [#4] は、ガイド領域の上流ではなく下流にスキャフォールド構造を持つ逆向きガイドRNAであると解釈しました。Wuら [#1]と、Oroscoらの研究チームからの最近の biRixv プレプリント [#6] のクライオ電顕で再構成された構造は、「DNAヘアピンがCas12aの標識認識ローブとヌクレアーゼローブを橋渡しし、PAM近傍の二重らせんを模倣するとともに、スペーサーを配置することで、RECローブに沿って標準的なRNA-DNAヘテロ二重らせんの形成が可能になる」機序*を示唆しています。
[*] すなわち、DNAガイドのヘアピン(3'末端DNAハンドル)が crRNAのスキャフォールドとして機能したことになります。
Cas12aはDNAガイドに結合して、RNP(Ribonucleoprotein)ならぬriboDeoxyNucleoProteinを形成し、DNAガイドが相補的なRNAに結合してヘテロ二重鎖を形成すると、RuvCエンドヌクレアーゼドメインに依存してRNAを切断します。これが今回の最大の発見です。WuらとOroscoらは、DNAガイド配列を変更することで、コード化されたPAMを必要とせずに配列特異的なRNA結合と切断を実現できることを確認しました。DNAガイドは、Wu とOroscoらによって、それぞれ、CRISPR RNA(crRNA)ならぬCRISPR DNA(crDNA)とΨDNA、と呼ばれています。
DNA誘導型CRISPR-Cas12の応用
CRISPR dx(分子診断)[#7] への応用
両研究とも、DNAにガイドされるCas12aが、相補的なRNAバイオマーカーを認識すること、一本鎖DNA(ssDNA)をトランス切断する活性(コラテラル活性)を発揮することを確認しました。RNA誘導型Cas12aと同様に、このコラテラル活性を活かして、ssDNAレポーターを介した蛍光シグナルを読み取ることで、微量のRNAバイオマーカーの検出が可能なことが実証されました。ただし、DNAまたはRNAバイオマーカーの前増幅が利用されています。
Wuら [#1]がSLEUTH(specific locus evaluation utilizing targeted hydrolysis / 標的加水分解を利用した特定遺伝子座評価)と名付けたこの手法によって、患者サンプル中のSARS-CoV-2の検出が実証されました。同様に、Oroscoら [#2] はΨDNA-Cas12aによって、患者サンプル中のC型肝炎ウイルス、デングウイルス、ジカウイルスの合成模倣体、およびC型肝炎ウイルスの検出を実証しました。DNA誘導型Cas12a CRISPR Dxによって、RNA誘導型Cas12a CRISPR Dxとほぼ同様の結果が得られますが、SLEUTHは、(DNAガイドを利用するがゆえに)RNA成分を必要としない点で、コスト削減と安定性が向上しています。
転写後遺伝子制御への応用
両研究とも、ヒト細胞における転写後遺伝子制御についても評価しています。いずれの場合も、遺伝子サイレンシングはまず、DNAガイドとCas12aおよび標的蛍光レポーターを発現するプラスミドを不死化細胞株HEK293Tに一過的にトランスフェクションすることで評価されました。この方法ではサイレンシング効果は限定的であり、その効果はDNAガイド単独によるものと考えられました。しかし、DNAガイドをホスホロチオエート末端で安定化させる [#1]か、レンチウイルス形質導入によってヌクレアーゼを安定的に発現させる [#2]ことで、サイレンシング効果は最大95%まで向上し、他のRNA標的ヌクレアーゼで報告されている範囲内の転写産物ノックダウン率が達成されました。
Oroscoら [#2] はさらにトランスクリプトーム解析を行い、AsCas12aと組み合わせたDNAガイドは、遺伝子サイレンシングに一般的に用いられるCasヌクレアーゼであるRfxCas13d [#8,9]と比較して、オフターゲットRNAサイレンシングが大幅に減少することを示しました。さらに、4種類のDNAガイドを導入することで、複数の転写産物を同時にサイレンシングできることも明らかにしました。
様々な機能ドメインをAsCas12aに融合させることも試みられました。RNase H1の融合は標的転写産物の切断効率を高めることでサイレンシング効果を向上させ、アデノシンメチルトランスフェラーゼMETTL3の融合は FOXM1 転写産物のメチル化を促進しエピトランスクリプトーム編集ツールをもたらしました。さらに、RNAガイドとDNAガイドの両方を導入することで、DNAガイドによる1つの遺伝子座のサイレンシングと、RNAガイドによる挿入・欠失(インデル)形成を介した別の遺伝子座の破壊を同時に行うことも実証されました。すなわち、同一細胞内で単一のCas12ヌクレアーゼを用いてDNA編集とRNA制御の同時実行が可能なことが実証されました。
これらの研究は、RNAガイド型ヌクレアーゼの特性の全容の解明と、DNAガイド型RNA標的化を最大限に活用することへに視野を大きく広げました。AsCas12a以外に他のCas12ファミリーのヌクレアーゼもDNAガイドを利用できることから、Cas9やトランスポゾン関連TnpBなど、より広範なRNAガイド型DNA標的ヌクレアーゼも同様に再利用できると考えられます。
[#] 引用crisp_bio記事と論文
- 2026-05-06/2026-05-07 DNA誘導型CRISPR-Cas12aエフェクターによるプログラム可能なRNA認識と切断;"DNA-guided CRISPR–Cas12a effectors for programmable RNA recognition and cleavage" Wu X, Lam WH, Zhao Z, Cao Y, Lin H, Feng X, Zhai Y, Hsing IM. Nat Biotechnol 2026-05-01.
- "DNA-guided CRISPR–Cas12 for cellular RNA targeting" Carlos Orosco (1), Boyu Huang (1), Santosh R. Rananaware (1,2) [..] Piyush K. Jain (1,4,8). Nat Biotechnol. 2026-05-15. [出典の項に再掲]
- 2017-04-14 Cas9に無い特徴を持った新たなCRISPR/Casエンドヌクレアーゼによってさらに拡がるゲノム編集の世界.
- CRISPRメモ_2018/02/02-3 - 第7項 crRNA/sgRNAの一部をDNAに置換したDNA-RNAキメラガイドによりオフターゲット作用抑制.
- 2021-09-08/2023-04-25 RNA-DNAハイブリッド・ガイドがCas9のコンフォメーション制御を介してオンターゲット特異性を高める - CAR-T療法への応用.
- "Architecture of a DNA-guided Cas12a" Rodrigo Fregoso Ocampo, Carlos Orosco [..] Piyush K. Jain, David W. Taylor. bioRxiv 2026-03-20 (preprint).
- 2021-07-20 [レビュー] CRISPR診断法(CRISPR Dx)
- 2018-03-17. これまでで最小かつヒト細胞で活性なCas13dの同定と解析2報(Salk研;Arbor Biotechnologies/NCBI)
- 2019-12-30. Cas13dによるRNAノックダウンに最適なcrRNAsの設計モデルを構築
[出典]
- News & Views "Guide DNA ― not RNA ― expands the CRISPR toolkit" Chase L. Beisel (Botnar Institute of Immune Engineering, Basel, Switzerland). Nat Biotechnol. 2026-05-15. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03138-9
- 論文 "DNA-guided CRISPR–Cas12 for cellular RNA targeting" Carlos Orosco (1), Boyu Huang (1), Santosh R. Rananaware (1,2) [..] Piyush K. Jain (1,4,8). [+12] Nat Biotechnol. 2026-05-15. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03129-w
[著者所属機関]
- Department of Chemical Engineering, University of Florida, Gainesville, FL, USA.
- CasNx, LLC, Alachua, FL, USA.
- Department of Chemical Biology, University of Florida, Gainesville, FL, USA.
- Department of Molecular Genetics and Microbiology, University of Florida, Gainesville, FL, USA.
- Department of Microbiology and Cell Sciences, University of Florida, Gainesville, FL, USA.
- Department of Chemical Engineering, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USA.
- Department of Computer Science, University of Florida, Gainesville, FL, USA.
- UF Health Cancer Center, University of Florida, Gainesville, FL, USA.
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