〜 抗CRISPR(Anti-CRISPR)タンパク質を活用し、「ヒト細胞の内部で直接」CRISPR-Cas9の連続指向性進化を行わせる新技術「CRISPR-MACE」登場 〜
2026-08-28 副題を冒頭に、crisp_bioメモを「出典」の項の直前に、追記しました。
2026-06-05 PNAS論文に準拠した初稿
MITのMatthew D. Shoulders教授が責任著者になっているPNAS誌刊行論文で、ヒト細胞におけるタンパク質の連続指向性進化プラットフォームを実装し、ヒト細胞において、標的DNAヘの結合能が増加または低減したStreptococcus pyogenes Cas9変異体と、SpCas9の既知の最強阻害剤であるAcrIIA4に対する耐性が約1,000倍向上した変異体を生成したことを、紹介しています。
2026-08-28 副題を冒頭に、crisp_bioメモを「出典」の項の直前に、追記しました。
2026-06-05 PNAS論文に準拠した初稿
MITのMatthew D. Shoulders教授が責任著者になっているPNAS誌刊行論文で、ヒト細胞におけるタンパク質の連続指向性進化プラットフォームを実装し、ヒト細胞において、標的DNAヘの結合能が増加または低減したStreptococcus pyogenes Cas9変異体と、SpCas9の既知の最強阻害剤であるAcrIIA4に対する耐性が約1,000倍向上した変異体を生成したことを、紹介しています。
[詳 細]
背 景
CRISPR関連ヌクレアーゼをベースとして、革新的な機能ゲノミクスのCRISPRツールやCRISPR療法の開発が進んできました。並行して、指向性進化や構造や計算による合理的設計といった数多くの工学的手法によって、機能的に多様なCRISPRシステムの開発と最適化が進められてきました。
しかし、CRISPRシステムは細菌の適応免疫機構として進化してきたため、得られたCRISPRシステムはヒト細胞での活性が最適ではないという課題に、今、直面しています。実際、いくつかのCRISPR関連ヌクレアーゼは、細菌細胞では強力な活性を示しますが、ヒト細胞ではほとんど活性を示しません [#1] 。このことは、細菌ゲノムとヒトゲノムのサイズと構造の大きな違い、そしてこれらのヌクレアーゼの活性を支える複雑な分子認識過程(DNA、RNA、タンパク質間)の違いを思えば、当然と言えば当然のことです。
したがって、ヒト疾患の治療への応用を目指すCRISPRシステムの指向性進化には特に、ヒト細胞において実行されるのが理想的です。確かにこれまで、ヒト細胞あるいは哺乳類細胞における試みがいくつか報告されてはいます [#2〜4]。しかし、ヒト細胞においてCRISPRベースのツールの変異誘発、選択、増幅を同時に行うことができる、完全に統合された連続進化プラットフォームは、これまで実現されていませんでした。
Shoulders教授は, 2018年に米国化学会誌 刊行論文にて、責任著者として「ヒト細胞内で多様な目的生体分子( biomolecules of interest :BOI)を直接的に指向進化させるためのプラットフォームの開発、特性評価、および概念実証」を紹介していました。[#5]
このプラットフォームは、ウイルスに必須のDNAポリメラーゼ遺伝子やプロテアーゼ遺伝子を含む複数の遺伝子を欠損させたカスタム設計のアデノウイルス変異体を利用しています。これにより、原理的には、最大7 kbに及ぶBOI遺伝子を保持するアデノウイルス集団を継代培養するだけで、BOIの指向性進化を促すことが可能になります。論文では、ヒト細胞環境において、低分子阻害剤に対する耐性を獲得しながらも高い機能レベルを維持する複数の転写因子変異体を進化させた実証実験が紹介されています。Shoulders教授らは今回、いわばそのCRISPR-Cas特化版を、CRISPR用の哺乳類細胞で使用可能なアデノウイルス支援連続進化法"CRISPR-MACE"(Mammalian cell-enabled Adenovirus-assisted Continuous Evolution) として紹介しています。
CRISPR-MACE
CRISPR-MACEでは、Cas9ヌクレアーゼではなく、Cas9のDNAへの結合能は維持しつつDNA切断活性を失活させたdCas9にVPR転写活性化ドメイン(TAT)を融合させたタンパク質が対象にされました。これを帯びたアデノウイルスは、複製に必須の遺伝子であるアデノウイルスプロテアーゼ(AdProt)とアデノウイルスDNAポリメラーゼ(AdPol)を欠失しています (dCas9-TAD|ΔAdPol|ΔAdProt)[論文Fig. 1参照]。一方で、これらの機能遺伝子は、「AdProtを誘導的に発現しつつ、AdPolの極めてエラーを起こしやすい変異体、すなわち変異原性が高いポリメラーゼであるEpPolを構成的に発現するように遺伝子操作された」ヒト細胞株でトランスに補完されます。さらに、このEpPolは宿主細胞から恒常的に発現する一方、AdProtの発現は、dCas9–TADをAdProt遺伝子のすぐ上流に局在させるタイリングgRNAによって活性化されます。
このアプローチによりdCas9の変異体が連続的に生成され、そこに選択圧をかけていきます。ここで、選択を促進するために、CRISPR-Casシステムに対抗するバクテリオファージ由来の抗CRISPRタンパク質(CRISPR-Cas9に対する最も強力なAcrIIA4)が利用されています。
こうしたCRISPR-MACEにより、DNA結合親和性が変化し、かつ抗CRISPRタンパク質AcrIIA4に対する顕著な耐性を示すdCas9配列が発見されました。さらに、2つの独立した進化キャンペーンにより [論文Fig. 2参照]、細菌タンパク質とバクテリオファージタンパク質間の進化的な分子戦争を模倣した選択回路と一致する複雑な進化ランドスケープが明らかになりました。ただし、ここではヒト細胞環境下でその進化が展開されています。
こうして、複数の変異を持つdCas9変異体が同定されました。これらの変異体はDNA結合特性を変化させ、AcrIIA4に対する耐性を大幅に向上させました。DNA結合親和性(および滞留時間)が10倍に増加した変異体と、4分の1に減少した変異体が特定されました。次に、DNA結合親和性が向上した変異体を介して、セントロメア近傍におけるDNAイメージング感度を2倍に向上させるに至りました。また、AcrIIA4に対する耐性が数十倍から数百倍に向上したdCas9変異体も同定されました。特筆すべきことに、これらの進化した変異体の多くはこれまで同定されておらず、また、その変異は複数のCas9ドメインにわたっていたことです。
今回紹介されたCRISPR-MACEの開発と応用は、CRISPRシステムによるGEの強化を加速させたと同時に、ヒト細胞におけるCRISPRシステムの連続的指向性進化プラットフォームが確立されたことを示しています。
[引用文献と関連crisp_bio記事]
- "Comparison of DNA targeting CRISPR editors in human cell" Huang H [..] Lin Y. Cell Biosci. 2023-01-16.
- crisp_bio 2021-10-11 ヒト細胞をプラットフォームとする指向性進化により,高効率なABE改変体を作出.
- "High-fidelity SaCas9 (efSaCas9) identified by directional screening in human cells" Xie H, Ge X [..] Gu F. PLoS Biol. 2020-07-09.
- crisp_bio 2024-09-26 哺乳類細胞をホストとする連続的な指向性進化システムを確立し, 単細胞のホストでは実現されなかった優れたCBEとABEのバリアントを実現.
- "An adaptable platform for directed evolution in human cells." Chet M. Berman [..] Matthew D. Shoulders. J Am Chem Soc 2018-12-26.
crisp_bioメモ
これまでのタンパク質指向性進化実験は、細菌やファージ(例 PACE)、真核生物では酵母内 (例 EPICA.2)、で行われるのが常識でした。しかし、本技術は哺乳類細胞の複雑なクロマチン環境や核内条件に最初から最適化されたエディターを直接進化・選別できます。
[出典] "Anti-CRISPR-mediated continuous directed evolution of CRISPR-Cas9 in human cells." Andrew L Sabol (1), Amanuella A Mengiste (1), Prashant Singh (2), Vedagopuram Sreekanth (2) [..] Amit Choudhary (2,6,7,8), Matthew D. Shoulders. (1,2,3). (bioRxiv 2025-12-11) Proc Natl Acad Sci U S A. 2025-05-26/06-02. https://doi.org/10.1073/pnas.2536003123
これまでのタンパク質指向性進化実験は、細菌やファージ(例 PACE)、真核生物では酵母内 (例 EPICA.2)、で行われるのが常識でした。しかし、本技術は哺乳類細胞の複雑なクロマチン環境や核内条件に最初から最適化されたエディターを直接進化・選別できます。
[出典] "Anti-CRISPR-mediated continuous directed evolution of CRISPR-Cas9 in human cells." Andrew L Sabol (1), Amanuella A Mengiste (1), Prashant Singh (2), Vedagopuram Sreekanth (2) [..] Amit Choudhary (2,6,7,8), Matthew D. Shoulders. (1,2,3). (bioRxiv 2025-12-11) Proc Natl Acad Sci U S A. 2025-05-26/06-02. https://doi.org/10.1073/pnas.2536003123
- Department of Chemistry, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA 02139.
- Broad Institute of Massachusetts Institute of Technology and Harvard, Cambridge, MA 02142.
- Koch Institute for Integrative Cancer Research, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA 02139.
- Department of Biology, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA 02139.
- BioMicro Center, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA 02139.
- Division of Renal Medicine, Brigham and Women's Hospital, Boston, MA 02115.
- Division of Engineering in Medicine, Brigham and Women's Hospital, Boston, MA 02115.
- Department of Medicine, Harvard Medical School, Boston, MA 02115.
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