【出典】“Massively parallel de novo protein design for targeted therapeutics.” Chevalier A, Baker D. Nature. Published online 27 September 2017

 小型(412 kDa)のタンパク質には、低分子よりも特異性が高く設計が容易であり、モノクローナル抗体よりも安定で化学合成が容易なことから、低分子化合物とモノクローナル抗体のギャップを埋めることが期待される。これまで天然物由来スキャフォールドから定向進化による小型タンパク質作出が試みられてきたが、DNA合成技術の進歩とともに、デノボでの小型タンパク質の設計と合成が現実になりつつある。
  • David Bakerらの研究チームはScience2017714日号にて、1万5千種類以上のミニタンパク質をデノボ設計・発現・評価し、安定な非天然ミニタンパク質2,788種類を得たことを報告(*)していたところ、9月27日のNatureオンライン版では、インフルエンザウイルス A H1ヘマグルチニン(HA)とボツリヌス毒素BBoNT/B)に高親和性で結合するミニタンパク質のデノボ設計・発現・同定に成功したことを報告した。
    (*) ブログ記事20170718日「データ駆動型タンパク質工学の始まり:1万5千以上のミニタンパク質を設計・合成、安定な非天然タンパク質2,788種を同定」参照
  • 5種類のトポロジー(HHH, EHEE, HEE, EEHEおよびHEEHHはαヘリックス/Eはβ-ストランド)と多様なジスルフィド結合を組み合わせた4,000種類を超える主鎖群からなるスキャフォールドの仮想ライブラリーを準備し、そのヘリックス部分を既報のHA及びBoNT/B複合体の界面のヘリックス部分あるいはBoNT/Bの天然標的と重ね合わせ、ホットスポット残基を含み、ホットスポット以外の残基を結合親和性とモノマー安定性を最大にするようにRosetta法で選択することで、新たな界面を生成した。
  • HAに対する7,276種類の設計とBoNTに対する3,406種類の設計、及びコントロール用の6,286種類の設計、をコードするオリゴを合成し、計16,968種類のタンパク質を発現させた酵母ライブラリーを蛍光標識した様々な濃度の標的と共培養し、標的が結合した細胞をFACSで選別し、ディープシーケンシングにより選別されたプールごとにエンリッチされた設計を同定した。実験から得られた結合活性を左右する要因(配列と構造の適合性、界面を介したコンタクト数)に関する知見を元に設計プロトコルを改良し、標的結合設計の範囲を広げた。
  • 標的に対して高い結合親和性を示すミニタンク質(バインダー)を2,618種類同定し、そのうち6種類のHAバインダーと8種類のBoNTバインダーを化学合成またはE. coliで発現し詳細に解析した。
  • ミニタンパク質は極めて安定であり、抗体と異なり高温でも活性を失なわず、免疫応答も引き起こさないことを確認した。
  • また、最も活性が高いHA標的ミニタンパク質をモデルマウスの鼻内に、インフルエンザウイスに暴露する前または暴露後72時間以内にスプレーすることで、マウスをインフルエンザから保護することができた。この効果は、静脈内投与した場合は見られなかった。