PE(プライム編集)は、登場以来、大幅なカイゼンが重ねられてきた汎用性の高い遺伝子編集技術です [PEカイゼンの項参照]。中国科学院中国科学院天津工業生物技術研究所と国家合成生物技術革新中心を主とする研究チームは今回、これまでにPEカイゼンに有効であった3種類の技術を融合・最適化することでより高性能なPE、PE7-scFv-MLH1dn, を開発したことを、Synthetic and Systems Biotechnology 誌刊行論文で紹介しています。
1.ミスマッチ修復を阻害するカイゼン - crisp_bio 2021-10-14/2022-03-21 の「2021-10-14の項」参照
ヒト細胞内在のミスマッチ修復(mismatch repair:MMR)過程がPEの効率を強く抑制することを発見したDavid R. Liu博士の研究チームは、MMRタンパク質MLH1のドミナントネガティブ変異体(MLH1Δ754–756、以下 MLH1dn)を共発現させることで、高効率なPE4とPE5を実現しました。
2.PEに細胞内在のRNA結合タンパク質Laを結合 - crisp_bio 2024-04-06 参照
プリンストン大学のBritt Adamson准教授が率いる研究チームは、全長LaのN末端側ドメイン(La(1–194))をPEmaxプライムエディターのC末端(すなわち逆転写酵素のC末端))に融合させることで、編集効率が著しく向上したPE7に至りました。
3.SunTag-PE - crisp_bio 2023-01-26/2026-06-20 参照
中国の武漢大学などの附属病院と遺伝子編集・細胞療法の企業の研究者達は、GCN4とscFVのペアを利用するSunTagシステムを利用して、PEをGCN4-nCas9GCN4とscFV-逆転写酵素にモジュール化することで、多用途で効率的なゲノム編集が可能になることを示しました。
研究チームは、これらの3つの手法を融合・最適化しました。[次の段落については、Fig. 1引用右下図を参照してください」
LaをRTに直接結合させたPE7内のnCas9へ、SunTagシステムを介して、MLH1dnを動員・結合させ、これをPE7-scFv-MLH1dnとしました。SunTagシステムの利用にあたっては、SunTagペア(GCN4とscFvのペア)の数の効果を比較し、5ペアよりも2ペアの方が効果が高く (編集効率が平均23.83%高い)ことを確認・採用しました。なお、Laの利用については、オリジナルのPE7と同じ方式が最適であることが確認されています。 PE7-scFv-MLH1dnは、PE7とは独立にMLH1dnを共発現させた場合に比べた、複数の遺伝子座に対する編集効率を平均16.17%カイゼンしました。
また、この効率向上は、標的遺伝子座や編集タイプ(塩基置換、挿入・欠失など)、細胞の種類(HEK293細胞、HeLa細胞など)に左右されることなく、発揮されました。[Fig. 5引用右図参照]
また、この効率向上は、標的遺伝子座や編集タイプ(塩基置換、挿入・欠失など)、細胞の種類(HEK293細胞、HeLa細胞など)に左右されることなく、発揮されました。[Fig. 5引用右図参照][PEカイゼン] Synthetic and Systems Biotechnology 誌刊行論文のイントロダクションに準拠
塩基エディター(CBEとABE)を発明したハーバード大学・ブロード研究所のDavid R Liu教授がプライムエディター(PE)をNature 誌から発表したのは2019年のことでした [crisp_bio 2019-10-22/2020-05-08]。PEは4種類のトランジション(塩基置換)や8種類のトランスバージョン(塩基置換)を含む広範な塩基変換に加え、ゲノム内の小さな挿入や欠失も可能にすることから、治療用途(細胞療法や遺伝子治療など)や疾患モデルの作製において大きな注目を集めました。
PE2は前述のNature 論文の中で、最初に最適化されたバージョンであり、Cas9 H840Aニッカーゼと逆転写酵素を融合させた改変タンパク質と、
標的DNAおよび意図する編集内容を指定するpegRNAとで構成されていました。
標的DNAおよび意図する編集内容を指定するpegRNAとで構成されていました。 PEプライム編集の作用機序は以下の通りです [右図モデル図参照]。まず、nCas9をベースとするPEタンパク質がpegRNAと結合して複合体を形成し、pegRNAのスペーサー配列に導かれて、それに相補的な標的DNAを特定します。標的を認識すると、複合体はDNAの一本鎖にニック(切れ目)を入れ、3'末端を露出させます。この3'末端はpegRNAの3'伸長領域(プライマー結合部位と逆転写テンプレートを含む)とハイブリダイズし、pegRNAを鋳型として逆転写を開始(プライミング)することで、意図した編集内容をコードする伸長した3' DNA鎖を合成します。編集内容を含むこの新たに合成された3' DNA鎖は、最終的に保持され、ゲノムに組み込まれます。
しかしながら、プライム編集の効率は、編集の種類、ゲノム上の標的部位、細胞の種類によって大きく異なり、しばしば効率が低いことが、その広範な適用を制限する要因となっています。その結果、PEのカイゼンに多大な努力が注がれてきました。
近年の研究により、pegRNAのスキャフォールドを改変することで補助因子を標的部位へ直接リクルート(動員)する手法が、編集効率を向上させるための有効かつ広範に適用可能な戦略であることが示されました [crisp_bio 2021-10-15]。こうしたアプローチは、一般的に3つのカテゴリーに分類されます。
第一に、ミスマッチ修復の一時的な阻害や、修復を正確な結果へと誘導するといったDNA修復経路の制御を介して、逆転写された中間体を安定化させ、その保持時間を延ばす手法です [crisp_bio 2021-10-07/2022-03-21の2021-10-07初稿と2022-03-12の追記]。
第二に、クロマチンや転写の制御を利用した戦略は、主要な修復経路を直接的に阻害することなく、局所的なDNAアクセシビリティを向上させます [crisp_bio 2023-01-27]。
第三に、RNA-タンパク質やペプチドを基盤とするプラットフォームを含む、多価スキャフォールドを用いたリクルートシステムは、エフェクター因子を標的部位に局所的に集積させ、その有効濃度と滞留時間を増大させます。
これらの知見は、補助因子のリクルートが、精密なゲノム編集を向上させるためのメカニズムに基づいた有効な手段であることを浮き彫りにしています。実際に、プライム編集効率を著しく向上させる細胞内因子が2つ特定されており、それらを利用してPE4/PE5とPE7が開発されました。
[出典] "Efficient PE system PE7-scFv-MLH1dn by optimizing the configuration of La and MLH1dn" Xuesong Li (1,2,3,6), Chaojun Qing (2,4,5,6), Bo Li (2,3), Dongdong Zhao (2,3), Peihua Li (2,3), Wenzhu Tang (1,7), Changhao Bi (2,3,7), Xueli Zhang (2,3,7). Synth Syst Biotechnol. 2026-05-25/Dec. https://doi.org/10.1016/j.synbio.2026.04.035
[出典] "Efficient PE system PE7-scFv-MLH1dn by optimizing the configuration of La and MLH1dn" Xuesong Li (1,2,3,6), Chaojun Qing (2,4,5,6), Bo Li (2,3), Dongdong Zhao (2,3), Peihua Li (2,3), Wenzhu Tang (1,7), Changhao Bi (2,3,7), Xueli Zhang (2,3,7). Synth Syst Biotechnol. 2026-05-25/Dec. https://doi.org/10.1016/j.synbio.2026.04.035
- School of Biological Engineering, Dalian Polytechnic University, Dalian, 116034, China.
- Chinese Academy of Sciences, Tianjin Institute of Industrial Biotechnology, Tianjin, 300308, China.
- National Center of Technology Innovation for Synthetic Biology, Tianjin, 300308, China.
- College of Biotechnology, Tianjin University of Science and Technology, Tianjin, 300222, China.
- Department of Medical Genetics, West China Second University Hospital, Sichuan University, Chengdu, Sichuan, 610041, China.
- These authors contributed equally
- Co-corresponding authors
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