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〜 ゲノムワイドCRISPR KOスクリーン, AlphaFold3, そしてCBE/ABEタイリングスクリーンを介して〜

2026-08-21
更新 ブログ記事タイトルを, 「還元酵素 CYB5R4 が、PP2A様ホスファターゼの中でPP4およびPP6の選択的な活性化因子として機能することを発見」と副題に改訂(旧タイトルは「タンパク質脱リン酸化酵素の中でアミノ酸配列がPP2Aに酷似しているPP4とPP6に特有な機能/機構/構造を, CRISPRスクリーンとAlaphaFold3を介して明らかにしました」)
2026-06-26 初稿

PP4/PP6とPP2Aの関係性

タンパク質のリン酸化と脱リン酸化は、細胞が細胞外および細胞内のシグナルに応答するための不可欠な反応です。そこでは、タンパク質リン酸化酵素(プロテインキナーゼ)とタンパク質脱リン酸化酵素(Phosphoprotein phosphatase: PPP)が、標的タンパク質上のチロシン、セリン、およびスレオニン残基のリン酸化状態を制御し、それによってシグナル伝達経路からの出力を決定づけています。

PPPの中で、PP1〜PP7が高度に保存されたセリン/スレオニン脱リン酸化酵素 (Ser/Thr Phosphatases)のファミリーを形成して、真核細胞における脱リン酸化活性の大部分を担っています。

PPPファミリーの各メンバーは、触媒サブユニットをファミリー特異的なホロ酵素に組み込むことで特異性を獲得することが知られています。その中でPP2A、PP4、PP6の触媒ユニットのアミノ酸配列は酷似(配列同一性約60%)しており、3次元構造や活性中心の構造も酷似し、いずれもPPP阻害剤であるオカダ酸(OA)に対してナノモルオーダーの類似した親和性を示すことから、PP2AとPP4ならびにPP6はまとめて「PP2A様ホスファターゼ」として扱われてきました。

しかし、それぞれのアセンブリと活性化については、真核生物におけるリン酸化依存性シグナル伝達を理解する上で極めて重要であるにもかかわらず、不明な点が多々ありました。

デンマーク, オーストリア, 米国の国際共同研究チームの戦略と成果

研究チームはまず、PPP阻害剤オカダ酸の選択圧下でのゲノムワイドCRISPR-Cas9ノックアウト(機能喪失)スクリーニングを介して、必須因子の同定を試みました。これは、PP2A、PP4、PP6が機能低下している際に、それをノックアウトすると細胞死する別の因子(合成致死因子)を同定する手法です。その結果、PP4とPP6の制御ネットワークにおいてオーファンな(コードする遺伝子配列が不明な)シトクロムb5還元酵素であるCYB5R4が必須であることを発見しました。

次に、CYB5R4が必須である構造基盤を、アミノ酸以外の金属イオンや低分子などを含む複合体の構造予測も可能なAlphaFold3を利用することで明らかにしました。

AlphaFold3にCYB5R4、PP4、PP6のアミノ酸配列に加えて、PPPの活性中心に存在する金属イオンとCYB5R4が持つ電子ドナーであるヘム(Heme)を与えたところ、CYB5R4がヘムを使って、ホスファターゼの活性中心の金属を直接還元できる位置関係で結合するという構造モデルが得られました。

これは、CYB5R4のN末端側に位置しループ状になる天然変性領域が、PP4およびPP6の表面にある特定のポケットに嵌まり込むこと、このループ周辺の電荷状態と3次元構造がわずかに異なることで、CYB5R4はPP2Aには結合せず、PP4とPP6に選択的に結合すること、ひいては、PP2AとPP4/PP6の間に酸化還元ストレスへの応答性の違いがもたらされたこと、を明らかにするモデルです。

続いて、一塩基変換が可能な塩基エディター(CBE (C-to-T)とABE (A-toG))を利用して、アミノ酸を一残基ごとに変異させ、その影響を見るタイリング・スクリーンを行って、PP2A様ホスファターゼの制御に関する高解像度な機能マップを構築しました。その結果、いくつかの制御因子候補が明らかになりましたが、その中にCYB5R4が含まれていて、AlphaFold3の予測構造から想定したCYB5R4の機能が裏付けられました。

まとめ

CRISPR-Cas9ノックアウトスクリーニング、AlpahFold3による生体分子複合体の構造予測、そして、CBEとABEによるタイリング・スクリーニングを介して、CYB5R4が酵母からヒトまで保存された因子であり、PP2AではなくPP4およびPP6に対して特異的に作用する活性部位還元酵素であることを特定するに至りました。

それでは、PP2Aは何故、CYB5R4のような還元酵素を必要としないのでしょうか。PP4とPP6の場合は、酸化ストレスがかかると容易に活性化中心が酸化されて不活性化するという弱点を、CYB5R4を介してカバーしています。一方で、PP2Aは、構造上、酸化ストレスに対する耐性が高いことから、外部からの還元酵素を必要としません。従って、CYB5R4が結合するポケットを備える必要もなかったということになります。(どちらが先は、別の話になると思いますが)。


[出典] "A functional map of phosphoprotein phosphatase regulation identifies an evolutionarily conserved reductase for the catalytic metal ions" Bob Meeusen (1,2,10), Sara M. Ambjørn (1,2,10), [..]  Arminja N. Kettenbach (5,6,11), Egon Ogris (3,4,11), Jakob Nilsson (1,2,11) [+13]. Nat Commun. 2026-06-18. https://doi.org/10.1038/s41467-026-74262-y
  1. Center for Epigenetic Cell Memory, Danish Cancer Institute, Copenhagen, Denmark
  2. Novo Nordisk Foundation Center for Protein Research, ICMM, University of Copenhagen, Copenhagen, Denmark
  3. Max Perutz Labs, Vienna BioCenter, 1030 Vienna, Austria.
  4. Medical University of Vienna, Vienna, Austria.
  5. Department of Biochemistry and Cell Biology, Dartmouth Geisel School of Medicine, Hanover, NH, USA
  6. Dartmouth Cancer Center, Lebanon, NH, USA
  7. University of Kansas Medical Center, Kansas City, KS, USA
  8. Institute of Cancer Research, London, UK
  9. St Jude Children's Research Hospital, Memphis, TN, USA
  10. Equal contribution
  11. Co-corresponding authors
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