糸状菌(filamentous fungi)*は、日本の国菌 [#]とも呼ばれる麹菌をはじめとして、キノコや、落ち葉や枯れ木を分解するものなど有用なものから、水虫やうどんこ病のような不都合なものまで、多様かつ膨大な微生物の集団を形作っています。
[*] 「糸状菌」という用語は、属や種と異なり生物分類学上の用語ではなく、菌糸と呼ばれる管状の細胞から構成されている微生物の総称です。
糸状菌からは、食品関係の酵素や色素に加えて、世界初の抗生物質ペニシリンをはじめとして、降圧剤のスタチン、免疫抑制剤のシクロポリンなどの数々の薬品が誕生しています。このようにその生合成能力によって糸状菌は細胞工場として活用されてきましたが、複雑なゲノム構造からも、その潜在能力の一部しか活用されていないと思われます。
[*] 「糸状菌」という用語は、属や種と異なり生物分類学上の用語ではなく、菌糸と呼ばれる管状の細胞から構成されている微生物の総称です。
糸状菌からは、食品関係の酵素や色素に加えて、世界初の抗生物質ペニシリンをはじめとして、降圧剤のスタチン、免疫抑制剤のシクロポリンなどの数々の薬品が誕生しています。このようにその生合成能力によって糸状菌は細胞工場として活用されてきましたが、複雑なゲノム構造からも、その潜在能力の一部しか活用されていないと思われます。
従来、糸状菌はゲノム構造が複雑なことや独特な防御機構のために遺伝子操作が困難とされていましたが、CRISPR-Cas9 GEの登場によって、局面が変わりました。しかし、Cas9ヌクレアーゼによるゲノム編集の問題は糸状菌にも当てはまり、また、複雑な細胞過程を傷跡を残さずに(スカーレスで)精密に編集することは困難でした。DSBを伴わなずに多彩なゲノム編集を実現するプライム・エディターも、糸状菌のミスマッチ修復機構が独特なことから、実用化されていませんでした。
今回、ペンシルベニア大学のXue Gao准教授とYihui Shen助教が率いる研究チームはまず、Aspergillus nidulans LO8030においてPE2, PE3, PE4, PE5, PEmax, PE6cによる一塩基変換を評価し、高性能であったPEmaxを選択しました。これはPEmaxがミスマチ修復機構を阻害する MLH1dnを帯びているためと考えられました。
PEmaxはしかし、1 kbを超える欠失と100 bpを超える挿入になると効率が大きく低下してしまいました。そこで、研究チームは、細胞内のRNA結合タンパク質Laを利用してpegRNAを安定化したPE7を評価しました。しかし、一塩基効率は10%を切り、大規模欠失・挿入もほとんど進行しませんでした。それにもめげずに、PE7にMLH1dnを組み込みPEmax化させたPE7maxを作出し、さらに、ヒト由来のLaを、A. nidulans から発見したLa様タンパク質(fLa, ANIA_01045; ヒトLaとは38%の一致度)に差し替えることで、fPE7maxに到達しました。
fPE7maxは、塩基置換や特定の小規模な挿入・欠失など、多様な編集様式に対応し、様々なゲノム領域や菌種において平均90%近い編集効率を実現しました。さらに、fPE7maxによって、最大1 kbの挿入や最大10 kbの欠失といった、より大規模な改変も可能となりました。
研究チームは、fPE7maxを利用して、多面的な制御因子である遺伝子 laeA の上流オープンリーディングフレーム(uORF)を改変することで、複数の糸状菌種における代謝産物の産生量を制御することに成功しました。メタボローム解析の結果、それまで生合成活性が低かった経路が活性化していることが明らかになり、18種類の代謝産物が同定されました。そのうち8種類は研究チームの知る限り未報告の構造であり、3種類には細胞毒性活性(言い換えると腫瘍細胞を標的とする抗がん剤に利用可能な活性)が認められました。
これらの結果は、fPE7maxが糸状菌における効率的なゲノム編集プラットフォームであることを実証しています。さらに、uORFの編集によって、タンパク質をコードする遺伝子を改変することなく、内在性の制御ネットワークを改変することで、糸状菌の潜在的な生理活性物質生合成を引き出すことが可能なことを示しています。
fPE7maxは、糸状菌による創薬を含む有用物質生産を促進していくツールとして、期待できます。
[#] 参考資料
- 国際的に認知される日本の国菌. 一島 英治. 化学と生物. 53(4): 261-264 (2015). ; 学名は当初 Aspergillus oryzaeとされていましたが、2015年からは(実体は変わらないまま)学名が Aspergillus luchuensis に変更になりました [「国菌」認定 一部改正(菌名変更)日本醸造学会 201-03-15]
[関連crisp_bio記事]
- PEmax 2021-10-07/2022-03-21 PE4/PE5: プライム・エディティングの効率と忠実度が,ミスマッチ修復過程の阻害によって,目覚ましく向上する.
- PE7 2024-04-06 プライム編集 (PE) を改善する細胞内在因子を発見・利用.
- 2025-08-11 プライム編集の効率を, ミスマッチ修復を阻害する低分子を生成AIで生成することで, 大幅に向上.
- 2026-05-28 プライムエディター(PE)のAI強化版が出ました - 指向性進化逆転写酵素を再設計.
- 2026-06-21 PE7にミスマッチ修復過程抑制因子を加えることで, 編集効率と精度をさらに改善しました.
[出典]
- Research Briefing "Unlocking the chemical potential of filamentous fungi using prime editing" Nat Biotechnol. 2026-07-02. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03219-9
- 論文 "Prime editing for precise genome engineering and modulation of fungal metabolism" Chunxiao Sun (1,2,6), Qiuyue Nie (1,2,6), Naomi Straub (3), Chris Keum (4), Yihui Shen (2,5,7), Xue Gao (1,2,5,7). Nat Biotechnol. 2026-06-30. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03202-4
- Department of Chemical and Biomolecular Engineering, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Center for Precision Engineering for Health, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Biotechnology Program, School of Engineering and Applied Science, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Department of Neuroscience, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Department of Bioengineering, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- These authors contributed equally:
- Corresponding authors
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