crisp_bio

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 小麦粉を焼いたり揚げたりする際、アスパラギンは天然の糖分と反応し、毒性があり発がん性の疑いがある物質「アクリルアミド」を生成します。英国ロザムステッド研究所のNigel Halford教授が率いる研究チームが、CRISPR/Cas9 GEを利用して、調理時にアクリルアミドをほとんど生成しない小麦の品種を開発しました。ロザムステッド研究所は世界最古の農業研究機関の一つとして知られていましたが、2026年4月には、その遺伝子編集大麦が英国初の精密育種生物(Precision Bred Organism:PBO)販売の承認を受けていました [crisp_bio 2026-04-05]。
[詳 細]
 小麦には、アスパラギンの生成に関与する遺伝子のコピーが複数存在します。研究チームは、これらの遺伝子をノックアウト(KO)してその効果を見るために、CRISPR/Cas9 GEと、これまでの変異導入法である化学物質を用いてランダムに変異を誘発するTILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomesの2種類の手法を比較しました。
 CRISPR/Cas9 GEではガイドRNA(sgRNA)を設計して、小麦(Triticum aestivum )品種「Cadenza」のアスパラギン合成酵素遺伝子 TaASN2 のKO系統、または、関連遺伝子 TaASN1 の部分的KOも組み合わせた二重KO(以下、DKO)系統について、圃場試験を実施しました(以下、CRISPR法)。TILINGでは、品種「Claire」にTILLINGによりランダムに変異導入後にスクリーニングしたTaASN2 KO変異体を対象に圃場試験を実施しました(以下、TILLING法)。
 2年間の圃場試験を総合すると、CRISPR法では、TaASN2 KO系統および TaASN1/2 DKO系統では、穀粒中の遊離アスパラギン量が「Cadenza」と比較してそれぞれ59%および93%減少していました。一方、TILLING法では、「Claire」と比較した TaASN2 KO系統における減少率は50%に留まりました。収量については、CRISPR系統は通常の収量が維持されましたが、TILLING法では25%低下しました。これはTILLING法は、目的とする変異以外に植物を弱らせることにつながるバックグラウンド変異を多数引き越す手法であるためです。
 さて、いよいよ加工試験です。
 パン中のアクリルアミド量は、CRISPR法のTaASN2 KO系統からは対照品種「Cadenza」の14%まで低下し、TaASN1/2 DKO系統では、検出限界以下でした。4分間のトースト処理後であっても、アクリルアミド量は対照品種のそれぞれ23%と8%にとどまりました。TILLING法による*TaASN2*ヌル系統から製造したパン中の濃度は、対照品種「Claire」の21%で下が、4分間のトースト処理後には46%に上昇しました。
 ビスケットではどうだったでしょうか。CRISPR法のTaASN1/2 DKO系統由来のビスケット中のアクリルアミド量は、対照品種と比較して93%減少していました。食品の場合は、見た目の色も気になります。パンの表面は色が濃いほどアクリルアミド量も多くなりますが、TaASN1/2*DKO系統の場合は、いい感じに焼いてもアクリルアミドは生成されませんでした。
[注] 3分、3分30秒、そして4分30秒トーストしたパンの色がFIGURE3-Aに掲載されています。
 この研究は、イングランドにおけるゲノム編集作物に関する新たな規制の導入と時期を同じくしていました。この規制では、外来遺伝子を含まないゲノム編集植物を「精密育種生物 / Precision Bred Organisms (PBO)」として分類します [https://bills.parliament.uk/bills/3167]。同法に基づくPBOの市場流通承認制度は2025年11月に開始されました。
 また、EUでは、小麦およびその他の穀物製品におけるアクリルアミド量について、ソフトブレッドで50μg/kg、ビスケット、クリスプブレッド、ラスクで350μg/kg、朝食用シリアルで300μg/kgという基準値を設けていますが、欧州委員会は、最大許容濃度と改訂された基準値を定める新たな規制案を欧州議会に提出する準備を進めているとされています。アクリルアミドの最大許容濃度を超える含有量が判明した製品を販売することは、当然ながら違法となります。
 したがって、超低アスパラギン小麦は、食品産業に多大な貢献をする事になります。アクリルアミド含有量の低い小麦が利用可能になれば、食品事業者は、生産ラインの大幅な変更や製品品質の低下を伴うことなく、アクリルアミドに関する規制強化に対応できる可能性があるからです。また、消費者に向けた食の安全を保証する事にもなります。

[出典] "Field Trials and Baking Studies of Ultra-Low Asparagine, Genome Edited (CRISPR/Cas9) and Mutant (TILLING) Wheat" Navneet Kaur (1) [..] Nigel G. Halford (1). Plant Biotechnology J. 2026-04-01/Jul. https://doi.org/10.1111/pbi.70661
  1. Rothamsted Research, Harpenden, UK
  2. Department of Bioactive and Functional Food Chemistry, Institute of Applied Biosciences, Karlsruhe nstitute of Technology (KIT), Karlsruhe, Germany
  3. 3Leibniz Institute for Food Systems Biology at the Technical University of Munich, Freising, Germany
  4. Professorship of Food Biopolymer Systems, TUM School of Life Sciences, Technical University of Munich, Freising, Germany
  5. Department of Food and Nutritional Sciences, University of Reading, Reading, UK 
  6. Curtis Analytics Limited, Harpenden, UK
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