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 ここでは、UC-BerkeleyのPhillip Cleves助教(兼任:Carnegie Science /カーネギー科学研究所;Johns Hopkins University (JHU))が率いる研究チームがサンゴと藻類の相利共生が成立してきた機構の解明に取り組んだ成果を取り上げます。crisp_bioでは2018年に、当時スタンフォード大学医学部の遺伝学科ポストドクであったCleves博士がCRIPSR-Cas9によりサンゴ(Acropora millepora )の逆遺伝学が可能なことを実証した論文を「サンゴ礁保全への貢献を期待」と題して取り上げていました。その後も、引き続きスタンフォード時代2020年の筆頭著者の論文を「サンゴ礁の保護に向けて, 気候変動などのストレスに対する耐性の分子機構を解き明かすCRISPR/Cas9機能ゲノミクス」にて、カーネギー科学研究所/JHU/マッコーリー大学に異動してから後の2026年3月には責任著者としての論文を「CRISPR-Cas9による造礁性サンゴ類の効率的ゲノム編集」にて取り上げきてきました。
 今回は、責任著者/リードコンタクトとなっている Cell 誌論文を取り上げましたが、crisp_bioにとって、極めて分かりやすく研究施設についても興味深いことが紹介されていたUC Berkeley Newsの記事に準拠して、お届けしています。

 熱帯の海に点在するサンゴ礁は、藻類がサンゴの細胞内に定住し、豊富な栄養を供給してサンゴが浅瀬に広大な群落を築けるようになって初めて形成されました。しかし、海洋の温暖化に伴い、藻類がサンゴから離れてしまう現象(白化現象)が頻発し、かつては生命に満ちあふれていたサンゴ礁が「ゴーストタウン」と化しています。
 Cleves研究チームは今回、サンゴ生物学における長年の大きな謎、すなわち「藻類はいかにしてサンゴの細胞内で繁栄できるのか」という問いに対する答えを導き出しました。この発見は、なぜ藻類とサンゴの共生関係がうまくいかなくなるのかについての新たな知見をもたらし、その関係を回復させ、世界のサンゴ礁を救うための手がかりとなる可能性があります。
 この結論は、産卵を行うサンゴを用いた通年の遺伝子実験に特化した最先端の海水飼育施設で行われた実験から導き出されました。Cleves助教と研究室マネージャーであり論文共著者の一人でもある Natalie Swinhoe修士(カーネギー科学研究所)が設計し、Cleves助教が着任した1月から稼働しているこの施設は、都市の水道水を浸透膜フィルターで浄化し、紅海から取り寄せた塩分と混合して人工海水を作るシステムを備えています。こうして作られた海水は、明るく照らされたトレイ(太平洋産の造礁サンゴであるGalaxea fascicularis を収容)や、小型のイソギンチャクである Aiptasia(アプタシア)が入った小さな水槽へとパイプで送られるキャンパス内で唯一、蛇口から直接海水を利用できる施設です。
 オーストラリアのグレート・バリア・リーフでは、サンゴは年に一度、10月か11月の満月の頃の夜に、卵と精子を大量に放出する一斉産卵を行います。そのため、藻類とサンゴの共生関係や、熱ストレスに対する反応を理解するための遺伝学的研究を、そこで行うことは困難でした。最先端の施設によって研究チームは数ヶ月おきに遺伝学的実験を行うことが可能になっていたのです。
 研究チームは、実験室で育てたこれらのサンゴや、同じく細胞内に藻類を取り込むイソギンチャク類を用いた遺伝子操作実験を通じて、ある通説に異議を唱えています。その通説とは、サンゴは太古の昔に藻類を取り込み、細胞内の「シンビオソーム(細胞内共生体)」と呼ばれる特殊な区画に収めたというものです。シンビオソームは、細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアや、植物の光合成の場である葉緑体に似ています。これらはいずれも、かつては独立した生物でしたが、遠い昔に細胞内に取り込まれ、現在ではすべての動物、植物、菌類にとって不可欠な細胞構成要素となっています。
 これに対して研究チームは、藻類がサンゴに寄生したのだと主張しています。藻類は、食物や侵入してきた生物を消化・分解してしまう細胞小器官「リソソーム」の一種の中で、驚くべきことに、無傷のまま生き延びる方法を見出したというのです。その適応過程で藻類は、宿主細胞から炭素を取り込み、光合成産物(主にグルコース)を放出してサンゴに栄養を供給する方法を身につけたというのです。これが結果的に、藻類とサンゴの双方にとって、さらには共生藻類を宿す他の動物にとって、互いに利益をもたらす「ウィンウィン」の関係が成立するに至ったというのです。
  7月1日に Cell 誌からオンライン公開された論文の中で、研究チームは、シンビオソーム(藻類を包む膜構造)がリソソームとの融合によって形成されること、そして藻類がリソソーム内の強力な消化酵素に耐えられるよう何らかの進化を遂げていることを裏付ける実験結果を報告しています。
 「寄生生物は基本的に、宿主の細胞を操って自分たちの望むことをさせます。今回起きているのも、まさにそういうことだと思います」とCleves助教は語りました。「藻類は細胞内の栄養供給拠点を乗っ取り、光合成によって炭素を固定しグルコースを生成できるため、決して消化されることのない『餌』のように振る舞っているのです。私には、それが『いつまでも溶けないキャンディ(Everlasting Gobstopper)*』のように思えます」
[*] Everlasting Gobstopperは英国人作家ロアルド・ダールの児童小説『チョコレート工場の秘密』に登場する永久に食べ続けることが出来る架空のキャンディーでしたが、Breaker Confectionsが1976年に、ライセンス契約のもとで、同名のキャンディーを販売し始めました。 [から引用]
 Cleves助教は、宿主に利益をもたらさず一方的に利用する「寄生生物」と、宿主と互恵的な関係を築く「共生生物」との境界線は必ずしも明確ではないと指摘しています。サンゴと藻類の関係は、細胞小器官への寄生を伴う、新しいタイプの共生関係である可能性があります。氏は「サンゴにとっても藻類にとっても有益ですから、これは共生と言えます」「しかし、本質的には細胞全体を別の用途に転用し、その栄養供給拠点を乗っ取っているのだと思います」と続けました。
 Cell 論文の共同筆頭著者であるUC BerkeleyのShunpei Maruyama博士研究員とカーネギー科学研究所のCatherine F. Henderson博士課程院生が主導した遺伝学的実験において、藻類が内部に生息するシンビオソーム上に存在する少なくとも200種類のタンパク質が特定されました。そのタンパク質の一つは重炭酸イオンを輸送しシンビオソーム内で二酸化炭素に変換します。この仕組みは、サンゴの胃の中にある細胞の内部に隔離されているにもかかわらず、藻類がいかにして光合成に必要な二酸化炭素を確保しているのかを説明する手がかりになるかもしれません。

サンゴの唯一無二の飼育施設

 カーネギー科学研究所での5年間を含む長年の実験を経て、Cleves助教は研究室内のサンゴを一年中産卵させる技術を確立しました。本来の生息地であるサンゴ礁では年に一度しか産卵しないため、当初は遺伝学的実験を行うためにオーストラリアへ出向く必要がありました。他の研究者が実験室でサンゴを飼育する方法を確立した後、Cleves助教は自身の研究室にも飼育施設を設けることにしたのです。実験を通じて、氏は光の周期や温度を徐々に変化させることで、サンゴの年間産卵サイクルをずらせることを発見しました。サンゴがこの「時差ボケ」のような環境変化に完全に適応するには2年を要しますが、現在、順次産卵するように調整された6種類のサンゴ水槽が備えられており、これにより年に6回、サンゴの卵を用いた遺伝学的実験を行う機会が得られています。
 「ここでの大きな進歩は、サンゴを産卵させる技術と、それらを遺伝子改変する技術を組み合わせたことにあります」と氏は語りました。「これにより、遺伝子機能、サンゴと藻類の共生、白化現象、そして耐熱性について、初めて本格的に研究できるようになりました。私たちは様々な遺伝学的ツールを開発してきました。CRISPR-Cas9 GEによる編集、プラスミドを用いた遺伝子導入、RNAiによるノックダウンなどが可能です。今回の論文は、これらの新技術によって得られる強力な知見を初めて、公開したものです。
 数ヶ月ごとの産卵は、研究室のサンゴを使って仮説を検証するには十分な頻度ですが、研究チームが日常的に実験モデルとして用いているのは前述のようにAiptasia です。この生物は毎週産卵し、クラゲ、サンゴ、イソギンチャクを含む刺胞動物の多くと同様に、体内に藻類を共生させています。

膜輸送 

 研究チームはまず、Aiptasia からシンビオソーム膜を単離し、そこに含まれるタンパク質の数と種類を特定しました。その結果、約200種類のタンパク質が見つかり、その多くはイソギンチャクの細胞内小器官であるリソソームにも存在するものだと判明しました。Cleves氏らはRNAiを用いてこれらのタンパク質の一部をノックダウンし、シンビオソームに存在するリソソーム関連タンパク質の多くが、藻類がこの小器官内で生存するために不可欠であることを明らかにしました。その中には、シンビオソームへの分子の出入りを媒介するタンパク質や、他のタンパク質を分解するタンパク質などが含まれています。
 「小胞輸送に関わるタンパク質の中には、動物と藻類の間のコミュニケーションを担っていると考えられるものがいくつかあります。これらはシンビオソームへの積み荷の出し入れを行い、藻類に物資を運んでいるからです」とCleves助教は述べています。「また、脂質、アンモニウム、神経伝達物質、ヒスチジン、さらには重炭酸イオンに至るまで、あらゆるものを輸送すると予測される多種多様なトランスポーター(輸送体)も見つかりました。そして何よりも意外だったのは、多種多様なリソソーム・プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が見つかったことです。通常、こうしたタンパク質はリソソーム内の内容物を分解し、(サンゴの)細胞のエネルギー源となる栄養分を回収する役割を担っています。」
 その後、研究チームは、CRISPR-Cas9 GEを用いてサンゴの重炭酸イオン・トランスポーターSLC26A11に変異を導入しました。その結果、藻類との共生が阻害されることが確認され、このトランスポーターがサンゴの藻類へ炭素を供給する上で重要な役割を果たしていることが実証されました。
 Cleves助教の考えでは、ある特定の藻類グループ(現在はSymbiodiniaceae科に分類される渦鞭毛藻)が細胞の「胃」の中で生き残る能力を持っていることこそが、彼らが幅広い海洋生物に定着し繁栄している理由を説明するものです。リソソームはあらゆる動物に存在し、進化の過程で保存されてきた細胞内小器官であるため、この共生体は多くの宿主においてリソソームを「乗っ取り」、新たな共生関係を進化させることができるはずだと考えられます。
 「もし新たな共生関係の進化が、リソソームによる消化に耐えることだけで実現できるのであれば、他の生物の体内でもリソソーム内で藻類を生存させることが可能になるはずです。そのための仕組みの多くが共通して保存されているからです」と氏は語りました。

 Cell 誌刊行論文で紹介されたこの研究は、サンゴと藻類が良好な状態においてどのように共生関係を築いているかを解明するだけでなく、生物学者にとってサンゴの白化現象に関する新たな知見をもたらす可能性があります。
 Cleves助教は「共生タンパク質の機能不全が共生関係の崩壊に関係している可能性があると考えています。そこで現在、熱ストレス下でプロテオームがどのように変化するかを分析し、白化現象の際にこの細胞小器官がどのように変化するのかを理解しようとしています」と述べています

[出典]
  1. 1Department of Molecular and Cell Biology, University of California - Berkeley, Berkeley, CA 94720, USA
  2. 2Department of Embryology, Carnegie Science, Baltimore, MD 21218, USA
  3. 3Department of Biology, Johns Hopkins University, Baltimore, MD 21218, USA
  4. 4These authors contributed equally
  5. 5Senior author
  6. 6Lead contact
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コメント

 コメント一覧 (2)

    • 1. K
    • 2026年07月08日 17:53
    • 5 沖縄の海が好きになり、珊瑚にも興味をもちました。
      白化に対する学びで藻類、褐虫藻の仕組みを知りました。
      褐虫藻の宿主は珊瑚だけではなく、もしも人間もだとしたら…。
      沖縄病と言われる沖縄フリークは褐虫藻による物なのか?と想像力豊かに楽しく拝読しました。
    • 2. crisp_bio crisp_bio
    • 2026年07月08日 23:56
    • Kさん

      コメントありがとうございました。

      出典には「かつては生命に満ちあふれていたサンゴ礁が「ゴーストタウン」と化しています。」とありました。2025年8月にはオーストラリア海洋科学研究所が「オーストラリア北東部沖にある世界最大のサンゴ礁グレートバリアリーフで、サンゴの死滅につながる白化現象が過去最大規模で進んでいる」「グレートバリアリーフが回復不可能な段階に達する可能性が高まっている」と発表していました。

      研究が進んで、例えば、好熱性共生系へと転換できれば、よいのですが、地球環境の方もなんとかしないと。

      crisp_bio
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