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 crisp_bioでは2024年3月25日に、世界初のブタ腎臓のヒト生体への異種移植の事例を投稿しました。続いて、同年5月14日に、移植を受けたRichard (Rick) Slayman氏が亡くなられたことを元記事の更新にて投稿しました。その際に、移植を担当したマサチューセッツ総合病院(MGH)からのコメント「移植が原因であったということを示すものはありません (We have no indication that it was the result of his recent transplant.)」を引用しました。
 2026年に入ってから、移植チームが Nature Medicine 誌に「遺伝子編集ブタ腎臓を移植された生体レシピエントにおける免疫プロファイリング」と題する論文を発表し [#1]、それに対して American Journal of Kidney DiseasesAJKD)誌が論説「ブタ腎臓の異種移植:画期的なヒト症例から得られた免疫学的知見」を掲載しました [#2]
 今回、患者の死因は明確になったのでしょうか。
[詳 細] AJKD 誌に準拠
 Nature Medicine 誌刊行論文は、世界で初めて患者に異種移植したという歴史的な臨床的マイルストーンと、メタボロミクス、プロテオミクス、トランスクリプトミクス、および画像診断技術を用いた患者と移植臓器(グラフト)の詳細な免疫学的解析を組み合わせたものです。患者の臨床経過と生理学的プロファイルは、以前に報告されています [Kawai T et al., NEJM 2025Lee T et al., Nat Commun 2025]。
 移植手術は、患者の病歴・治療歴と当時の病態から異種移植の適正が認められ、インフォームド・コンセントの手続きを経て行われ、移植前も移植後もしかるべき免疫抑制処置が取られました。移植腎は患者の腎機能を補助し続けましたが、患者は移植後52日目に致死的な心臓イベントにより死亡しました。なお、当時は、死因が移植腎の拒絶反応に直接起因するものであるという明確な証拠は認められませんでした。
 Nature Medicine 誌刊行論文における免疫学的解析の結果は、移植後早期の移植腎機能が良好であることと、免疫学的に正常な状態にあることとは必ずしも一致しないことが示されています。すなわち、遺伝子編集ブタの腎臓を生体ヒトへ移植することの臨床的な早期実現可能性が確認された一方で、強力な免疫抑制療法下においても、依然として顕著なT細胞反応や持続的な自然免疫の活性化が存在することが明らかにされています。
 この研究には臨床試験の観点からは限界があります。異種移植の場合ランダム化臨床試験は望むべくもありませんが、やはり対象が一人の患者であること、そして、患者の死因は明確に特定されなかったことです。前述のNEJM 論文にあるように、剖検では心拡大に加え、重度かつ広範な冠動脈疾患と左室線維化が認められましたが、急性心筋梗塞の所見はなかったため、著者は死因を不整脈と推定されています。しかし、異種移植は重度の全身性炎症を引き起こし、それが急性心イベントを誘発する可能性がある点に留意する必要があります。この観点からの結論は、公開されているデータから下すことはできませんでした。また、広範なマルチオミックスデータは、異種移植について新たな知見を提供するに至りませんでした。
 論説は最後に、「(Nature Medicine 論文が)腎臓専門医に示唆する最も重要な点は、腎臓の異種移植がもはや遠い未来の話ではなくなったということです」としつつ「移植を専門とする腎臓医は、異種移植特有の、あるいは異種移植においてより深刻化する臨床的および免疫学的な課題に直面することになるでしょう。」とする考察を加えています。
まとめ
 Richard (Rick) Slayman氏へのブタ腎臓移植から得られた結論は「腎臓の異種移植がもはや遠い未来の話ではなくなった」が「全身性の免疫抑制を強化するのではなく、特定の経路を標的とする精密は免疫抑制戦略が必要である」ということのようです。この特定の経路には、T細胞のヘルパー機能やドナー特異的抗体の産生を制御する共刺激経路、体液性機序による微小血管や糸球体の障害を媒介する抗体・補体経路、そして適応免疫を強力に抑制してもなお異種移植片の炎症を持続させうる自然免疫経路(特に単球/マクロファージやNK細胞の活性化)などが含まれます。
 [異種移植関連crisp_bio記事抜粋]
[出典]
  1. "Immune profiling in a living human recipient of a gene-edited pig kidney" Ribas GT (1), Cunha AF (2), Avila JP (3) [..] Borges TJ (1,10), Riella LV (1.10) [+15]. Nat Med. 2026-01-08. https://doi.org/10.1038/s41591-025-04053-3 [著者所属はこのブログ記事の末尾に**]
  2. Editorial "Pig Kidney Xenotransplantation: Immune Insights From a Landmark Human Case" Zhouqi Tang (1), Fadi G. Lakkis (1). Am J Kidney Dis. 2026-06-18. https://doi.org/10.1053/j.ajkd.2026.05.005 (Division of Nephrology, Department of Medicine, Stanford University School of Medicine, Palo Alto, CA.)
[**] 
  1. Center for Transplantation Sciences, Department of Surgery, Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School, Boston, MA, USA. 
  2. Institut Pasteur de São Paulo, São Paulo, Brazil. 
  3. Department of Clinical and Toxicological Analyses, University of São Paulo, São Paulo, Brazil. 
  4. Department of Pathology, Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School, Boston, MA, USA. 
  5. Laboratory of Systems Pharmacology, Department of Systems Biology, Ludwig Center at Harvard, Harvard Medical School, Boston, MA, USA. 
  6. Department of Pathology, Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA, USA. 
  7. Department of Cancer Biology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA. 
  8. Karius Inc., Redwood City, CA, USA. 
  9. Hospital Israelita Albert Einstein, São Paulo, Brazil. 
  10. These authors jointly supervised this work: Thiago J. Borges, Leonardo V. Riella.
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