[注] MGEはプラスミドやファージなどの可動遺伝因子(Mobile Genetic Element )を意味します。
原核生物のCRISPR-Casシステムは、そのCas1–Cas2タンパク質複合体を利用して外来MGEからDNA断片を捕捉し、それをCRISPRアレイに格納することで、MGEに対する免疫記憶を形成します。この過程はadaption (適応) と呼ばれています。
しかし、Cas1–Cas2が細胞内でMGEから然るべきDNA基質を見つけるメカニズムは完全には解明されていません。したがって、CRISPR–Cas免疫がde novoで発生するメカニズムにも不明なところが残っています。
今回、英国とクロアチアの研究チームが、生細胞蛍光顕微鏡を介して大腸菌内で機能的なDNA結合Cas1–Cas2複合体を直接観察する手法を確立することで、Cas1–Cas2がDNAを捕捉するプロセスを観察することに成功し、適応のプロセスの理解が深まることになりました。
適応にはプライミング適応とナイーブ適応の2種類あることが知られていました。MGEとの過去の遭遇によって既に免疫が確立されている場合、Cas1–Cas2はCRISPR-Casシステムの中の干渉タンパク質複合体(例:Cas9, Cascade-Cas3)との相互作用を介してMGE DNAを特定し、これらの複合体がMGE DNAを切断し、Cas1–Cas2が捕捉するためのDNA断片を提供し、既存の免疫が更新されます。これがプライミング適応のプロセスです。
プライミング適応に対して、過去に遭遇していなかった(既存の免疫記憶が形成されたことがない)de novoのMGEの場合は、干渉タンパク質複合体を介さずに、Cas1–Cas2がMGE DNAを捕捉することで新たに免疫を構築することになります。このプロセスをナイーブ適応と言います。
ナイーブ適応には、DNA修復と連動した活発なDNA複製が必要です。DNA結合Cas1–Cas2複合体は、観察によるとレプリソーム(複製複合体) [JoVE動画参照] が活発に前進しているときにのみ形成され、複製フォークの後ろにある複製後DNAギャップ(通常のゲノム複製中に発生し、通常は相同組換えによって修復される構造)に蓄積します。複製ストレスはこの複製DNAギャップの頻度を増加させ、目に見えるCas1–Cas2のDNA結合を促進しました。
DNAギャップを修復する役割を担うRecFOR複合体を欠損した細胞では、Cas1–Cas2によるDNA捕捉が著しく促進されました。これらの細胞では、RecBCD組換え開始複合体がCas1–Cas2によるDNA捕捉に必須でした。
これらの知見はナイーブ適応は、「宿主細胞内でのMGEのDNA複製時に複製依存性DNA修復中間体が大量に発生し、その修復が進む前に、
Cas1-Cas2複合体がMGEからDNA断片を捕捉する機会を得る」というモデルを導きます [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。今回の実験では、例えば、生細胞蛍光顕微鏡を介して、蛍光標識されたCas1–Cas2が、MGEのDNA複製時に動き続けているレプリソームの直後に発生したギャップ部分に集まって発光する点(フォーカス)を形成する姿が観察されていたのです。
Cas1-Cas2複合体がMGEからDNA断片を捕捉する機会を得る」というモデルを導きます [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。今回の実験では、例えば、生細胞蛍光顕微鏡を介して、蛍光標識されたCas1–Cas2が、MGEのDNA複製時に動き続けているレプリソームの直後に発生したギャップ部分に集まって発光する点(フォーカス)を形成する姿が観察されていたのです。 [関連crisp_bio記事]
[出典] "Visualizing the interplay of Cas1–Cas2 with DNA replication-repair that creates CRISPR–Cas immunity" M. Amin Hashemloo (1,4), Tom Killelea (2,4), Tomislav Mamić (3,4) [..] Ivana Ivančić-Baće (3,5) , Christian J Rudolph (1,5) , Edward L Bolt (2,5) [+5]. Nucleic Acids Res. 2026-06-08/06-24. https://doi.org/10.1093/nar/gkag564
- Department of Life Sciences, Brunel University of London, Uxbridge, UB8 3PH, United Kingdom
- School of Life Sciences, University of Nottingham, NG7 2UH, United Kingdom
- Department of Molecular Biology, Faculty of Science, University of Zagreb, Horvatovac 102A, 10000 Zagreb, Croatia
- Joint first authors
- Co-corresponding authors
コメント