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Campylobacter jejuni 由来のCas9(CjCas9)はサイズが小さく(984 aa)、哺乳類細胞への導入に適しているという利点があります。しかし、その編集活性が低いことが、同酵素の能力を最大限に活用する上での障壁となっていました。

トレント大学統合生物学センター(CIBIO -Centre for Integrative Biology)のAnna Cereseto教授が率いる研究チームは今回、指向性進化法を用いて活性の低いCas9ヌクレアーゼを高活性な酵素へと改変するためのプラットフォーム「EPICA(Eukaryotic Platform to Improve Cas Activity)」を開発しました。

Cereseto研究チームと前後して、構造情報に準拠した合理的設計や指向性進化法により性能を向上させたバリアントが誘導されましたが、真核生物のゲノム編集に利用する観点から、真核生物をプラットフォームとした指向性進化法を開発したことが、同チームの戦略の特徴です。

EPICAは、Casヌクレアーゼ活性を酵母の栄養要求性選択と連結させ、さらに高感度レポーターシステムを用いた哺乳類細胞での選択を組み合わせることで構築されています。

CjCas9を用いてEPICAを検証したところ、数回の指向性進化を経て、活性が向上した改変体「UltraCjCas9」が創出されました。UltraCjCas9は、哺乳類細胞の内在性ゲノム領域において最大12倍の活性向上を示し、一部の遺伝子座ではSpCas9を上回る活性を示しました [Fig. 3 引用下図 e 参照]同時に、ゲノム全体における高い特異性は野生型のレベルを維持していました。CjCas9
さらに、UltraCjCas9では、PAM配列が野生型のNNNVRYACからNNNNRYAYへと変化して4番目と8番目の塩基の制約が緩和されたことから、野生型より広いゲノム領域範囲を標的可能になっていました。

EPICAに由来するUltraCjCas9が獲得した変異の多くは、構造情報をベースとした合理的設計では狙いにくい位置にあることが示されており [*]、真核生物の環境下で直接選別していく指向性進化法EPICAを開発利用した戦略の有効性が証明されています。

補 足:酵母をベースとした指向性進化法[Fig. 1 - a引用右下図参照]
  • Cas9ヌクレアーゼ活性を進化させるためのCjCas9 FIg. 1真核生物プラットフォームを構築するため、トリプトファン(TRP)遺伝子とアデニン(ADE)遺伝子に2種類の異なる切断レポーターカセットを組み込んだ酵母株を作製した。カセットの挿入によってTRP 遺伝子とADE 遺伝子が破壊されると、酵母の増殖は培地へのアデニンおよびトリプトファンの添加に依存するようになる。
  • これらのカセットには、進化の対象となるCas9が認識可能な異なるPAM配列を含む標的部位が組み込まれており、特定のPAM配列認識から独立して進化した変異体を単離できるようになっている。
  • カセットの両端には相同アームが挿入されており、Cas9による標的遺伝子座の切断が引き金となる一本鎖アニーリング(SSA)修復を介して、遺伝子の再構成が起こるよう設計されている。
  • 挿入図 a に示したこのモデルでは、増殖因子を制限した条件(それぞれTRP欠乏およびADE欠乏条件)下での栄養要求性に基づき、活性型Cas9分子を選抜することが可能である。これにより、効率的なCas9切断によってTRPおよびADE遺伝子座が修復された細胞のみが増殖できるようになる。
  • このプラットフォームをまずSpCas9で検証したところ、ADE欠乏、TRP欠乏、あるいはADE/TRP複合欠乏のいずれの条件下でも、高い酵母生存率が示された。対照的に、野生型CjCas9(CjCas9 WT)では、ADE欠乏条件下では20%のコロニーが生存したものの、ADE/TRP欠乏培養条件下では生存がほとんど見られなかった [挿入図 b 参照]。
  • ランダムPCR変異導入によって得られたCjCas9変異体cDNAライブラリーを形質転換に用いたところ、ADE−/TRP−条件下で増殖するコロニーが単離された [挿入図 c参照]。
  • 変異導入されたCjCas9ライブラリーの形質転換で得られたコロニーを起点として、ランダム変異導入とADE−/TRP−条件下での形質転換の工程を、細胞生存率の低下傾向が観察されるまで(第5および第6ラウンド)繰り返した。この低下は、変異導入が飽和状態に達したことに起因すると考えられる。
  • 最も高い切断活性(野生型と比較して227倍)[挿入図 c 参照] が検出された第4ラウンドの変異導入から単離されたcDNAをディープシーケンス解析した結果、ヌクレアーゼ配列全体にわたり多種多様な置換が生じていることが明らかになった [挿入図 d 参照]。
  • 酵母における進化工程を検証するための中間段階として、cDNAライブラリーからサンプルを抽出し、哺乳類細胞におけるゲノム編集効率の向上を評価した。
  • 最も頻度の高い置換(E189G、F214I、E789K、T913S、挿入図 d参照] を選定し、HEK293細胞の3つの内在性遺伝子座(RHO、CCR5、EMX)におけるindel(挿入・欠失)形成について個別に検証したところ、それぞれの単一変異は、編集効率の向上において異なる結果を示した[挿入図 e 参照]。
出 典
"Eukaryotic-driven directed evolution of Cas9 nucleases" Giulia Vittoria Ruta (1) [..] Anna Cereseto (1,4) [+5]. Genome Biology. 2024-03-25. https://doi.org/10.1186/s13059-024-03215-9
  1. Laboratory of Molecular Virology, Department CIBIO, University of Trento, Trento, Italy
  2. Laboratory of Computational Metagenomics, Department CIBIO, University of Trento, Trento, Italy
  3. Alia Therapeutics S.R.L, Trento, Italy
  4. Corresponding author
[#] CjCas9関連crisp_bio記事
[*]
印は、CjCas9の改変による性能向上を試みた研究成果
  1. CRISPRメモ_2018/03/06 [第4項] Campylobacter jejuni Cas9は、RNAを介して内在RNAsに結合し切断する
  2. CRISPRメモ_2018/01/07 [第1項]タイプ II-A SauCas9とタイプ II-C CjeCas9は、ssRNAも切断する
  3. CRISPRメモ_2018/04/04 [第1項] フレームシフト変異に起因するジストロフィン欠損マウスの機能をCampylobacter jejuni Cas9で回復. 
  4. CRISPRメモ_2018/06/30-1 [第6項] 網膜疾患のCRISPR/Cas9療法の評価
  5. CRISPRメモ_2018/10/21 [第4項] マウス網膜におけるCampylobacter jejuni Cas9の長期間発現は網膜を障害しない
  6. CRISPRメモ_2019-02-23 [第1項]  メルク (Merck KGaA*)のproxy-CRISPRの米国特許成立;proxy-CRISPRによって、遺伝子座内の同一配列を選択的に標的可能なことを、HBBとHBDを標的とするSpdCas9とCjCas9の組み合わせで実証
  7. 2021-03-30 MiniCAFE: 生体内での強力なCRISPRaを実現するdCjCas9
  8. [*] 2022-03-12 コンパクトなCjCas9の高活性かつ広域標的版変異体 'enCjCas9"を合理的に設計enCjCas9, enCjCas9-AID
  9. 2022-10-12 [解説] SpCas9よりも小型でAAVへのパッケージングが可能なCjCas9による遺伝子治療の試み
  10. 2023-02-12 小型のCampylobacter jejuni Cas9をベースとする塩基エディターにより、単一ベクターによる同時二重塩基編集を実現
  11. 2023-02-21 天然および人工のCjCas9オーソログを利用したゲノム編集
  12. 2023-05-17 17種類の小型Cas9の活性と特異性の予測に向けた超並列活性評価実験と深層学習モデル構築
  13. 2023-08-26 コンパクトなCas9と短縮型逆転写酵素で構成したAAVで送達可能なミニPE
  14. [*] 2023-09-29 ファージ支援連続的指向性進化法'PACE'を利用して、CjCas9のPAMの制約を緩和. 
  15. [*] 2024-10-24 Campylobacter jejuni 由来Cas9 (CjCas9) を合理的に設計することで, 効率的な遺伝子活性化と塩基編集を実現
  16. [*] 2024-11-25 CjCas9を改変して効率的な塩基編集 (BE)とプライム編集 (PE)を実現enCjCBE, enCjABE, SsenCjPE, SsenCjPE-M2
  17. [*] 2025-08-21 TAM/PAM相互作用ドメインを削除すると, IscBも一連のCas9も高性能なRNAエディターに変身する.
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