crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

羊のドリーによって、動物の体細胞からクローン動物を生成できることが証明されて以来、今や、ペット・クローン製造業(例 シノジーン社)が成り立つ状況に至っています。今回、その「斜め上を行く」技術が登場しました。

哺乳類の性は、性染色体の構成によって一方向に決定されます。対照的に、魚類を含むいくつかの種では、環境要因に応じて性を転換することが可能であり、これは性の可塑性がもたらす生殖上の利点を示しています。したがって、哺乳類の性決定におけるこの一方向性を回避する技術は、生殖生物学に新たな道を切り開く可能性があります。

山梨大学の石内崇士准教授と理化学研究所バイオリソース研究センターの的場章悟・専任研究員を責任著者とするbioRxiv プレプリントで、CRISPR技術をベースとするY-CUTと称するツールを介して、オスのマウスからメスのクローンを生成することに成功したことが、紹介されています。

具体的には、初期発生の過程でY染色体を小核として放出させることにより [補足の項参照]、オスからメスへの性転換を効率的に誘導できることを示しました。

Y-CUTは、最適化された体細胞核移植技術と組み合わせることで、単一のオス由来ゲノムから、オスと性転換したメスのマウスを並行して作出することが可能になりました。

これらのオスと性転換したメスのクローン個体間での交配により、次世代の産仔を得ることにも成功しました。

こうして、オスの体細胞ゲノム(遺伝情報)のみを起点として有性生殖を開始させる「両性クローン作出(dual-sex cloning)」戦略が実装されたことは、限られた遺伝資源から哺乳類の繁殖と生物多様性を確保する可能性が広がったことを意味します。
  • 絶滅寸前でオスしか残っていない種の復活や、絶滅した種であってもオスの遺伝情報を抽出できればその種を復活できる可能性があります。
  • 絶滅危惧種の細胞が世界各地のバイオバンクに保存されていますが、その多くが精子や卵子ではなく、体細胞です。Y-CUTによって、体細胞から有性生殖を始められる可能性があります。
補 足:Y-CUTとは ...
Y chromosome elimination via centromere-targeted Cas9-induced cuts

ワークフロー [Fig. 1の一部引用下図参照] 
Y-CUT
  1. 体細胞核移植:オスの体細胞(XY)の細胞核を、核を除去した未受精卵(除核卵細胞)に移植します。
  2. Y-CUT:CRISPR-Cas9ゲノム編集技術を利用して、Y染色体のセントロメアの反復配列を、Cas9ヌクレアーゼと一種類のガイドRNAで多重に切断し [引用図のA参照]、Y染色体の動原体形成を阻害します。
  3. Y染色体消失:(2)の操作によって、細胞分裂時にY染色体は娘細胞へと紡錘糸を介して移動せず、娘細胞の核膜生成時に、その核の外(細胞質)に微小核として取り残され、細胞内在機構によって分解されます。
  4. X0型クローン胚生成:通常は2本そろっているX染色体がい1本しかない核型のメスの胚が生成されます。
  5. 代理母への移植:Y染色体がカットされた以外は、元のオスと遺伝的に同一なメスの誕生へ
Y-CUT技術の限界
  • ワークフローの第一段階には除核卵細胞が必要なことから、それを得られる同種または近縁種のメスが存在している必要があります。しかし、大阪大学の林克彦教授の研究チームが開発したオスのマウス由来の細胞から卵細胞を作製する技術 [Nature, 2023]を組み合わせれば、この限界を突破できる可能性があります。
  • X0型のメスは、マウスの場合は繁殖能力を持っていますが、齧歯類以外の哺乳類の場合は必ずしも繁殖能力をもっていません。
出 典
"Initiating mammalian reproduction from a single male genome" Shogo Matoba (1,2,7),  Nonoko Umeda (3), Mizuki Sakamoto (3), Sota Komatsubara (3), Dinh Quoc Pham (1,4), Asako Okamoto (5), Aoi Ito (3), Takumi Ando (3), Hirosuke Shiura (3), Kimiko Inoue (1,6), Atsuo Ogura (1), Toshiaki Hino (5),  Ishiuchi T (3,7).  bioRxiv. 2026-08-04 (preprint). https://doi.org/10.64898/2026.08.03.742506
  1. Integrative Developmental Engineering Division, RIKEN BioResource Research Center, Tsukuba, Ibaraki 305-0074, Japan
  2. Cooperative Division of Veterinary Sciences, Tokyo University of Agriculture and Technology, Fuchu, Tokyo 183-8509, Japan
  3. Faculty of Life and Environmental Sciences, University of Yamanashi, Yamanashi 400-8510, Japan
  4. School of Biotechnology, International University, Vietnam National University, Ho Chi Minh 70000, Viet Nam
  5. Department of Biological Sciences, Asahikawa Medical University, Asahikawa, Hokkaido 078-8510, Japan
  6. Agro-Biological Resource Sciences, University of Tsukuba, Ibaraki 305-8577, Japan
  7. Corresponding authors.
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット