AIを介したインタラクティブなバーチャル細胞が現実味をおびてきたところで、最初期の日本発の細胞シミュレーションモデルから、最近のAI バーチャル細胞までの道を、静的なモデルやリソースも含めて、振り返ってみました。
AI バーチャル細胞の偏見の無い全体像とロードマップをお求めの場合は、Cell 誌から2024年に出版された41名の共著者からなる”How to Build the Virtual Cell with Artificial Intelligence: Priorities and Opportunities”をご参照の上、現時点で、AIバーチャル細胞が直面している課題と限界を論じている(bioRixvプレプリントですが)”Virtual Cells Need Context, Not Just Sccale"をご参照ください。
E-Cellプロジェクト(1999年〜)
AI バーチャル細胞の偏見の無い全体像とロードマップをお求めの場合は、Cell 誌から2024年に出版された41名の共著者からなる”How to Build the Virtual Cell with Artificial Intelligence: Priorities and Opportunities”をご参照の上、現時点で、AIバーチャル細胞が直面している課題と限界を論じている(bioRixvプレプリントですが)”Virtual Cells Need Context, Not Just Sccale"をご参照ください。
E-Cellプロジェクト(1999年〜)
- 慶應義塾大学の冨田 勝博士(現 名誉教授)が主導した細胞内の分子動態をコンピュータ上で再現する歴史的なシミュレーションプロジェクトで、決定論的・数理モデルであるE-CEEL 1からE-CELL 4まで開発が続けられました。
- 参考文献:"E-CELL: software environment for whole-cell simulation" Tomita M, Hashimoto K, Takahashi K, Shimizu TS, Matsuzaki Y, Miyoshi F, Saito K, Tanida S, Yugi K, Venter JC, Hutchison CA 3rd. Bioinformatics 1999 Jan. https://doi.org/10.1093/bioinformatics/15.1.72
- E-CELLプロジェクトを推進していたE-CELLコンソーシウムは、2002年度から始まった文部科学省の「細胞・生体機能シミュレーションプロジェクト」の終了年度である2007年度(2008年3月)に一連の活動期間を終了しました。
Mycoplasma genitalium(MG) の全細胞モデル(2012年)
- 米国スタンフォード大学のMarkus W. Covert教授らが発表した、525の遺伝子からなる単細胞生物の全ゲノム・分子相互作用を28の独立したモジュールの統合で捉えた初期シミュレーションモデルです。
- 参考文献 "A whole-cell computational model predicts phenotype from genotype" Karr JR, Sanghvi JC, Macklin DN, Gutschow MV, Jacobs JM, Bolival B Jr, Assad-Garcia N, Glass JI, Covert MW. Cell 2012-07-20 https://doi.org/10.1016/j.cell.2012.05.044
- (1) 個々の分子およびそれらの相互作用のレベルから単一細胞のライフサイクルを記述すること、(2) 注釈付けされたすべての遺伝子産物の特定の機能を説明すること、そして (3) 観測可能な広範な細胞挙動を正確に予測すること、を試みました。
Mycoplasma genitalium3次元構造モデル(2021-2022年)
- 計算モデリングツール群「CellPACK」を用いて構築した、MGの細胞全体に関する初の3次元構造モデルで、すべてのタンパク質、DNA、RNA分子の構造が表現されています。Markus W. Covert教授も論文共著者の一人です。現在Scripps研究所のWebサイトから3次元モデルが公開されています。
- 参考文献:"Building Structural Models of a Whole Mycoplasma Cell" Maritan M, Autin L, Karr J, Covert MW, Olson AJ, Goodsell DS. J Mol Biol 2021-11-10/2022-01-30 https://doi.org/10.1016/j.jmb.2021.167351
責任著者のDavis S. Goodsell博士は、長年にわたり精緻でカラフルな細胞のイラストを公開してきたことでよく知られています [右図は新型コロナウイルスのイラストです]。
GenBio AIのAI-Driven Digital Organism (AIDO) (2024年〜)
ここで見ているアトラスや大規模モデルの流れを踏まえて、AIDOの概要と特徴を別記事で見ていきます。
TranscriptFormer(2025年)
ここで見ているアトラスや大規模モデルの流れを踏まえて、AIDOの概要と特徴を別記事で見ていきます。
TranscriptFormer(2025年)
- Chan Zuckerberg Initiative(CZI)BioHub が公開した、酵母からヒトに至る12種・のべ1億1200万個の細胞データを学習させたシングルセル・トランスクリプトームのAIモデルです。
- 参考文献:"TranscriptFormer: A generative cell atlas across 1.5 billion years of evolution" Pearce JD, Simmonds SE, Mahmoudabadi G, Krishnan L, Palla G, Istrate AM, Tarashansky A, Nelson B, Valenzuela O, Li D, Quake SR, Karaletsos T. Science. 2026-07-02. https://doi.org/10.1126/science.aec8514
Arc Virtual Cell Atlas / Tahoe-100MとscBaseCount(2025年)
- Arc Instituteが発表した、数十種の癌細胞株や数億件の細胞観察データを統合・標準化したオープンソースのアトラスとデータレポジトリーであり、データ駆動型AI基盤モデルへと繋がっていきます。
- 参考文献 "Tahoe-100M: A Giga-Scale Single-Cell Perturbation Atlas for Context-Dependent Gene Function and Cellular Modeling" Zhang J, Ubas AA, Svensson et al., bioRxiv 2025-02-24 https://doi.org/10.1101/2025.02.20.639398;"scBaseCount: an AI agent-curated, uniformly processed, and continually expanding single cell data repository" bioRxiv 2025-05-06. https://doi.org/10.1101/2025.02.27.640494
- Arc Instituteは、NVIDIA、10xGenomics、Ultima Genomicsのスポンサーを得て「ヴァーチャル・セル・コンペティション (AI細胞)」を企画しています [crisp_bio 2025-06-30 参照]:2026 Virtual Cell ChallengeのWebサイトはこちら。[下図はホームページ冒頭のスクリーンショット]
X-Cell(2026年3月):
- Xaira Therapeuticsが発表した、大規模なゲノムワイドCRISPRiデータセット(X-Atlas/Pisces)を基に遺伝子摂動を高精度に予測する拡散言語モデル型のバーチャル細胞モデルです。
- 参考crisp_bio記事:2025-06-20 スタートアップ企業Xaira Therapeuticsが、バーチャル・セルの生成を支援する最大規模のPerturb-seqデータセットをリリース - 用量依存型生物学的AI基盤モデルのベースに
JCVI-syn3Aの4次元モデル(2026年4月)
- 遺伝的に最小限の構成を持つ細菌JCVI-syn3A [crisp_bio 2023-07-11 参照] における遺伝情報処理、代謝ネットワーク、増殖、細胞分裂といった全プロセスを含む細胞周期の全過程を、4次元(空間および時間)でシミュレーションするモデルです。約100分間の細胞周期について、細胞全体を対象とした空間・動態モデルを提示します。
- 参考文献:”Bringing the genetically minimal cell to life on a computer in 4D” Thornburg ZR, Maytin A, Kwon J, Brier TA, Gilbert BR, Fu E, Gao YL, Quenneville J, Wu T, Li H, Long T, Pezeshkian W, Sun L, Bittencourt DMC, Glass JI, Mehta AP, Ha T, Luthey-Schulten Z. Cell 2026-04-30. https://doi.org/10.1016/j.cell.2026.02.009
参 考:人工細胞SpudCell
- ミネソタ大学の遺伝学・細胞生物学・発生部門の研究チームは「化学物質から人工細胞を作出した」とするプレプリントを bioRxiv から公開しています。
- プレプリント:"A Chemically Defined Synthetic Cell Capable Of Growth And Replication" Gaut NJ, Deich C, Cash B, Hoog T, Engelhart AE, Adamala KP. bioRxiv. 2026-07-02. https://doi.org/10.64898/2026.07.01.735724
- ニュース "Lab-created ‘SpudCell’ marks ‘stunning’ step toward building life from scratch" Kai Kupferschmidt" Science 2026-07-01.10:00 ET. https://doi.org/10.1126/science.zwa8dvz
crisp_bioメモ
膨大な部品で構成される複雑なガソリンエンジンの技を競ってきた自動車業界に、「電池+モーター+ソフトウエア制御」というシンプルかつデジタル制御可能な電気自動車がもたらしたような衝撃が、いずれ、細胞生物学をはじめとする生命科学にも来るような気がします。AIとデジタル設計によるパラダイムシフトが。
膨大な部品で構成される複雑なガソリンエンジンの技を競ってきた自動車業界に、「電池+モーター+ソフトウエア制御」というシンプルかつデジタル制御可能な電気自動車がもたらしたような衝撃が、いずれ、細胞生物学をはじめとする生命科学にも来るような気がします。AIとデジタル設計によるパラダイムシフトが。

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