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〜 DNA・RNA・タンパク質から細胞全体の挙動までを統合した「世界モデル」、遺伝子の摂動や化合物添加が細胞にもたらす連鎖的・動的な効果を追跡する仮想実験が可能に 〜

ここでは、先行crisp_bio記事の「crisp_bioコレクション:AI(人工知能)バーチャル細胞への道」に続いて、GenBio AI社のAIDOの2024年12月から2026年夏までの進歩とその特徴について解説します。

GenBio AI社のAI-Driven Digital Organism (AIDO) が姿を見せたのは、2024年12月初旬に公開されたポジションペーパーのarXivプレプリント [#1] AIDO.CellAIDO.DNAをそれぞれ紹介した bioRxiv プレプリント [#2,3] だと思われます。また、並行してGenBio AI社から"AI-Driven Digital Organism (AIDO) — A System of Multiscale Foundation Models to Advance Biological Research" [#4]や、"Introducing GenBio AI" [#5] が配信されました。

続いて12月11日には、6つの基盤モデルからなる「AIDO」Phase 1が同社から公表・一般公開されました。  [#6]
  • AIDO-DNA:796種類の生物種に由来するデータで学習された70億個のパラメータを擁したゲノムの構造と機能のモデル
  • AIDO-RNA:創薬において存在感を増しているRNAの構造予測、遺伝子制御、配列生成のためのモデル
  • AIDO-Protein:タンパク質配列からの機能予測や新規機能配列生成のためのモデル
  • AIDO-Protein Structure:タンパク質の3次元構造から機能や分子間相互作用を解析するモデル
  • AIDO-Single Cell Expression:5,000万個のヒト細胞データセットで事前学習された、300万、1,000万、1億、および6億5,000万のパラメータを持つ一連のモデル群で、ヒトのトランスクリプトーム全体を入力として処理できる初のモデルです。これにより、ヒト細胞の転写状況(トランスクリプトーム・ランドスケープ)全体にわたる、高精度かつ包括的な表現を学習することが可能なモデル
  • AIDO-Evolurionary information:系統情報・共進化情報を活用して、未知の機能や変異の影響を解明するためのモデル
その後、2025年に入ってからの4月17日には"AIDO Update: AIDO.ModelGenerator and Expanded Foundation Model Suite"が同社から発表されました。ここでは、研究者が事前学習済みファウンデーションモデルを迅速に適応・統合し、そこから知見を得ることを可能にするソフトウェアパッケージAIDO.ModelGeneratorと、一連の基盤モデルが追加されました。
  • AIDO.StructurePrediction:タンパク質、DNA、RNA、リガンド、多分子複合体など、あらゆる生体分子を単一のモデルで扱う構造予測モデル [AIDO-ProteinとAIDO-Protein Structureと重なるところがあると思われます]
  • AIDO.Protein-RAG:MSA(多重配列アラインメント)と構造トークンを接続するタンパク質モデリング手法 [AIDO-Evolurionary informationと重なるところがあるものと思われます]
  • AIDO.Tissue:空間トランスクリプトミクスデータで学習された、コンテキストを認識するモデル(シングルセル・モデリングと組織モデリングを接続)
こうして、2026年8月に入ってからの Nature Medicine 誌のPERSPECTIVE記事(ポジション・ペーパー) [#8] と、のAIDO Cellのプレビュー公開 [#9] に至りました。

AIDO Cellは、実験に応じて細胞がどのように変化し、その変化が様々な実験的測定においてどのように現れるかをシミュレートする「バーチャル細胞」です。[YouTube紹介動画を以下に引用]

AIDO Cellは、実験に応じた細胞の変化や測定結果をシミュレートする『バーチャル細胞』です。これは、人工知能の分野で『経験から環境のルールを学び、未来の展開を“想像”するモデル』とされる「世界モデル(World Model)」の考え方 [東大松尾・岩澤研究室による解説 参照]  を応用しています。

AIDO Cellは、一括で予測のみを行う従来のAIモデルとは異なり、世界モデルとして統一された内部状態を持ち、実験の途中で内部状態に介入操作(摂動)を加えたり、その影響をリアルタイムにデコードしたりできます。こうして、AIDO Cellは細胞シミュレーションのエンジンとして機能します。

AIDO CELLは、単体でも細胞全体の変化をシミュレートできますが、このエンジンを効果的に運用するため、AIDO Cellには「ワールドモデル・ハーネス」も組み込まれています。このハーネスは、連続的な介入を通じてあらゆるスケールにおける細胞の状態を追跡し、ユーザーの指示をエンジンが実行可能なステップへと変換する役割を担います。エンジンとハーネスが連携することで、細胞生物学の実験をプログラムし、観察し、再生し、デバッグするためのインターフェースが提供されます。

世界モデルAIDO Cellの設計上の3つの利点
  • Coherent multimodal readouts(一貫したマルチモーダルデータの読み出し): 単発かつ孤立した予測では実現不可能な「単一の(共通する)内部状態から遺伝子発現、タンパク質構造、細胞形態などの多様なデータを矛盾なく一括取得・解析」が可能になります。
  • Multiscale simulation(マルチスケールシミュレーション): DNA/RNAの分子レベルからパスウェイ、細胞全体(表現型)レベルまで、両方向へのズームインとズームアウトを繰り返しながらの拡大・縮小の解析が可能になります。
  • Continuous multi-turn experimentation(連続的な多段階実験): 状態を保持・複製(クローン)できるため、耐性変異の導入や複数回の薬剤投与など、実験室での実際のプロセスに沿った試行が可能になります。例えば、薬剤耐性変異が生じた細胞と、その後の2段階の処理を施した細胞を、共通の祖先細胞から派生する別々の実験群として実行し、直接比較することができます。これは、単発的かつ孤立した予測を繰り返すのではなく、実際の生物学的プロセスが多段階のベンチ実験を通じて展開していくあり方に近いものです。
AIDO Cellの性能評価

Virtual Cell Benchmark 1.0:5つのタスク領域・31の指標で評価され、既存の専門モデル(AlphaFold 3やAlphaGenomeなど)が特定分野のみに対応する中、全領域をカバーする唯一のシステムとして31指標中24で最高精度を達成しました。[AIDO Cell WebページのFigure 2引用下図参照]
AIDO Cell1
AIDO Cellのプロトタイプとなる仮想細胞
  • 「AIDO Cell 1.0」のリリースでは、K-562とHep-G2という2種類のヒト細胞株のシミュレーションに重点を置いています。これらは50年以上にわたる科学文献において詳細に研究されており、ヒトの遺伝子制御や薬剤応答をマッピングする際の世界的基準(リファレンス)として機能してきました。
  • K-562は白血病患者由来で、がんの精密医療(プレシジョン・メディシン)の基盤となってきた一方、Hep-G2は肝臓がん患者由来であり、肝臓における薬物代謝や毒性評価の標準的なモデルとして長年利用されてきました。既存のマルチオミクスデータや先行研究が豊富に存在するため、AIDO Cellを他の細胞タイプへと拡張する前に、シミュレーションの精度を検証するのに適した環境が整っています。
  • これら2つの細胞株は初期プロトタイプではありますが、すでに新たな形での探索を可能にしています。例えば、AIDO Cellを用い、K-562とHep-G2のそれぞれについて、遺伝子のノックアウト、ノックダウン、過剰発現、および低分子化合物による処理を含む、100万通りのランダムな「5重摂動(five-plex perturbations)」のシミュレーションを行いました。生成されたアトラスにおいて、各ノードはシミュレーションされた状態を、各矢印は摂動を表しています。そのため、実際の多段階実験は、無関係な予測値の散布図としてではなく、アトラス上をたどる軌跡として表現されます。
AIDO CellにおけるIn-Context Molecular Design

目的の細胞状態(フェノタイプ)を指定し、そこへ導く分子を生成・設計する機能です。例えば、白血病治療薬イマチニブ(Imatinib)の標的状態を設定し、構造的に全く異なる新しい治療薬候補を自動設計・評価する実験が示されています。

AIDO Cellのエコシステム
  • 新しい細胞やデータ(希少疾患や生体組織など)に迅速に適応・学習させる自動研究システム(Foundry)と、研究者が操作するインターフェース(Lab)が、用意されています。
  • 疾患の解明と創薬に特化した利用とバイオセキュリティーの観点からの制限が組み込まれています。
AIDO Cellへのアクセス

"AIDO Cell: A General-Purpose Simulator for Cell Biology" のAIDO accessWebページの末尾に、AIDO Cell waiting listへのSing upボタンが用意されています [右図は該当部分のスクリーンショット]

crisp_bioメモ
AIDO CELLは、2026 Virtual Cell Challengeに挑戦するのだろうか。K-562とHep-G2を対象としたプロトタイプはどのように発展いくのだろうか。他のバーチャル細胞プロジェクトは我が道を行くのだろうか。

引用資料
  1. "Toward AI-Driven Digital Organism: Multiscale Foundation Models for Predicting, Simulating and Programming Biology at All Levels" Le Song, Eran Segal, Eric Xing. arXiv 2024-12-09 (preprint). https://doi.org/10.48550/arXiv.2412.06993
  2. "Scaling Dense Representations for Single Cell with Transcriptome-Scale Context" Nicholas Ho, Caleb N. Ellington, Jinyu Hou, Sohan Addagudi, Shentong Mo, Tianhua Tao, Dian Li, Yonghao Zhuang, Hongyi Wang, Xingyi Cheng, Le Song , Eric P. Xing. bioRxiv. 2024-12-3 (preprint). https://doi.org/10.1101/2024.11.28.625303
  3. "Accurate and General DNA Representations Emerge from Genome Foundation Models at Scale" Ellington CN [..] Song S, Xing EP. bioRxiv. 2026-12-05 (preprint). https://doi.org/10.1101/2024.12.01.625444
  4. GenBio AI : "AI-Driven Digital Organism (AIDO) — A System of Multiscale Foundation Models to Advance Biological Research". Le Song. 2025-12-11. https://genbio.ai/aido-multiscale-foundation-models/
  5. GenBio AI : "Introducing GenBio AI" Eric Xing. 2024-12-11. https://genbio.ai/introducing-genbio-ai/
  6. GenBio AI : "GenBio AI Releases Phase 1 of World’s First Digital Organism to Transform Medical Research." Genbio Team 2024-12-19. https://genbio.ai/genbio-ai-releases-phase-1-of-worlds-first-digital-organism-to-transform-medical-research/
  7. GenBio AI : "AIDO Update: AIDO.ModelGenerator and Expanded Foundation Model Suite" Caleb Ellington 2025-04-17. https://genbio.ai/aido-model-generator-update/
  8. Perspective "How to build an AI-driven digital organism" Le Song (1,2), Eran Segal( 1,2,3), Eric Xing (4,5,6). Nat Med. 2026-08-13. https://doi.org/10.1038/s41591-026-04595-0. (1 GenBio AI, Palo Alto, CA, USA;2 Mohamed bin Zayed University of Artificial Intelligence, Abu Dhabi, United Arab Emirates;3 Weizmann Institute of Science, Rehovot, Israel;4 GenBio AI, Palo Alto, CA, USA. epxing@cs.cmu.edu;5 Mohamed bin Zayed University of Artificial Intelligence, Abu Dhabi, United Arab Emirates. epxing@cs.cmu.edu;6 Carnegie Mellon University, Pittsburgh, PA, USA. epxing@cs.cmu.edu
  9. GenBio AI : "AIDO Cell: A General-Purpose Simulator for Cell Biology" Caleb Ellington. 2026-08-20. https://genbio.ai/aido-cell-simulator/
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