crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

トロント大学のBenjamin_Blencowe教授が率いる研究チームは今回、保存されたイントロン領域のゲノムワイドな機能解析により、スペックル(核内小体)に関連する保持イントロンの重要な役割を明らかにしました。「イントロン保持(Intron Retention: IR)」とは、遺伝子のmRNAが生成されるスプライシングの過程で、本来は取り除かれるはずの不要な配列がそのまま残ってしまう現象のことです。

詳 細

研究チームはまず、GENCODEに注釈付けされた約183,000個のヒト・イントロンについて、100種の脊椎動物間のアラインメントに基づく平均phastConsスコアを算出し、スコアが高い(保存性が高い)イントロンを数百、同定しました。

続いて、配列解析を介して、それらが、イントロン保持に関連し、RNAプロセシング、クロマチンリモデリング、神経生物学に関与する遺伝子に多く見られることを発見しました。

次に、研究チームは先行研究で開発していたデュアルCRISPR-Cas編集技術であるCHyMErA [#3] の感度を6~24%向上させた Int-CHyMErAを用意しました。その上で、細胞の適応度(フィットネス)に関与する機能を調べるため、1,107遺伝子内の高度に保存された2,600個のイントロン(サイズ 0.05 - 2.6 kb)を対象に、Int-CHyMErAを用いたスクリーニングを実施しました

その結果、その一部が細胞増殖に影響を及ぼすことが観察されました。こうした「適応度(fitness)」に関わる配列の多くは、イントロン保持や宿主遺伝子の発現レベルに影響を与えていました。

特に、FNBP4遺伝子およびDDX5遺伝子におけるスペックル関連の保持イントロン領域を欠失させると、それぞれ細胞増殖関連遺伝子やイントロン保持に対して下流への悪影響が生じました。DDX5遺伝子のイントロン領域の欠失はさらに、スペックル近傍遺伝子の保持イントロンと重複する領域でのRループの蓄積を引き起こしました。保存されたイントロン配列は、このRループを適切に解消(解離)させ、ゲノムの安全を守るための必須のトリガーとして機能していました。

crisp_bioメモ

従来、イントロン保持は不完全なスプライシングや単なるノイズとして処理されることも少なくありませんでした。しかし本研究は、進化的に高度に保存されたイントロン領域が、単なる「残存物」ではなく、Rループの制御を通じたゲノム安定性維持や細胞生存に不可欠な『ゲノムの安全装置』として機能していることを実証しました。また、改良型CHyMErA法を用いて約2,600箇所もの保存領域を網羅的に検証し、非翻訳領域の機能的ランドスケープを解き明かした戦略は、今後のゲノム創薬やRNA疾患研究に新たな展開をもたらすでしょう。

[#] Blencowe研究チームの研究成果紹介crisp_bio記事
出 典
"A genome-wide functional analysis of conserved intronic regions reveals essential roles for speckle-associated retained introns" Shaghayegh Farhangmehr (1,2,7), Ulrich Braunschweig (1,7), Mingkun Wu (1,2), Syed Nabeel-Shah (1,2), Kevin R. Brown (1,3), Jacob L. Fine (1,2), Jason Moffat (1,2,3,4), Benjamin J. Blencowe (1,2,5,6,8). Cell Rep 2026-07-28. https://doi.org/10.1016/j.celrep.2026.117696
  1. Donnelly Centre, University of Toronto, Toronto, Ontario M5S 3E1, Canada
  2. Department of Molecular Genetics, University of Toronto, Toronto, Ontario M5S 1A8, Canada
  3. Program in Genetics and Genome Biology, The Hospital for Sick Children, Toronto, Ontario M5G 0A4, Canada
  4. Istitute for Biomedical Engineering, University of Toronto, Toronto, Ontario M5S 3E3, Canada
  5. 5Centre for Developmental Neurobiology and MRC Centre for Neurodevelopmental Disorders, King’s College London, London SE1 1UL, UK
  6. Brain RNA Networks Laboratory, Francis Crick Institute, London NW1 1AT, UK
  7. These authors contributed equally
  8. Lead contact/corresponding author
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット