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集束超音波(Focused ultrasound:FUS)は、特に静脈内投与されたマイクロバブル(MB)と併用することで、空間的な精度をもって一時的にBBBを開放できる、画期的かつ非侵襲的な手法として登場しました。crisp_bioブログでこれまでにとりあげてきた例はいずれもモデルマウスでの実証 [#] でしたが、アルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)の患者を対象とした初期の臨床試験において、磁気共鳴ガイド下FUSを用いてBBBを開放する試みも行われており、長期的な神経学的欠損を伴うことなく、繰り返しBBBを破綻させることが実行可能かつ安全であることが示されていました [†]

しかし、これまでのFUS-MBの系は、標的化の精度や送達効率に限界があり、ひいては、標的部位に選択的に十分な薬物濃度を達成するにも限界がありました。イランの国立遺伝子工学・バイオテクノロジー研究所のDina Morshedi教授が率いるイラン、イタリア、カナダ、デンマーク、米国の国際研究チームは今回、脳組織への効率的かつ局所的な送達を目的として、低分子化合物を封入した二層構造ナノバブル(NB)を用いたFUS応答性送達システムを新たに設計・実装し、マウスでその性能を実証しました。

従来のFUS-MBと今回のFUS-NBの比較

1. 担体(キャリア)のサイズと構造
  • 従来(MB): サイズが1〜10 µmと大きく、脳の細小毛細血管(2〜6 µm)を通過しにくい上、半減期が短くサイズも不均一でした。
  • 今回(二重層のNB): 約110 nmの均一なナノサイズ(脂質二重層構造)に設計することで、毛細血管内を安定して循環・分散し、より局所的な薬物送達が可能になりました。
2. カーゴとバブルの関係性
  • 従来(MB): 多くの場合、カーゴである薬物/遺伝子ベクター(AAVや核酸など)とMBを別々に静脈投与し、バブルのキャビテーション効果で開口したBBBからカーゴを透過させていました。
  • 今回(NB-Cur): カーゴをNBに直接搭載します。研究チームは、多くの脳疾患治療薬が、水に溶けにくく脳に移行しにくいという課題を伴っていることから、神経保護作用が知られているものの、通常は脳内での生物学的利用能が低い脂溶性低分子であるCurcumin(クルクミン)をモデルとして検証しました。
    クルクミンは脂質二重膜と親和性が高いことから高効率(88%)で脂質膜内封入・分散保持されることで単分子状態で存在でき、生物学的利用能が劇的に改善しました。次に、FUSの機械的応力による膜破壊・構造変化に連動して、物理的な剪断力やマイクロストリーミングが発生し、細胞膜へのマイクロポア形成・融合・エンドサイトーシスが一体となって誘導され、NBに内包されていたクルクミンが一気に放出され細胞内に取り込まれました。
    その結果、FUSを照射しない場合や、遊離した状態のクルクミンを投与した場合に対して、標的部位(神経細胞)への送達効率が約8倍向上するに至りました。なお、今回の実験では、クルクミンは蛍光レポーターとしての役目も果たしました。
3. 内部ガス種の最適化による「キャビテーション安全性」の向上
  • 従来(MB): 高い音圧を加えると急速な気泡崩壊(慣性キャビテーション: Inertial Cavitation)が起きやすく、血管損傷や組織出血のリスクが問題視されていました。
  • 今回(SF₆ガス搭載): 内部ガスとして溶解度の低い六フッ化硫黄(SF₆)を採用することで、一般的な臨床用MB(SonoVueなど)や他のガス(N₂, O₂)と比較して、0.4〜1.2 MPaの範囲で慣性キャビテーションを低く抑えつつ、安全な振動(安定キャビテーション: Stable Cavitation)を維持できる「安全窓(Safety Window)」を拡大させました。
4. 温熱・破壊を伴わない低音圧刺激による効率的な放出メカニズム
  • 従来のNested NBsとの比較: リポソーム内にNBを入れ込む方式は、薬剤封入効率が比較的低く、製造工程が複雑であることに加え、熱的相転移を介した薬剤放出を誘発するために連続波高強度集束超音波(continuous-wave high-intensity focused ultrasound:CW-HIFU)を必要とするため、組織の安全性や熱損傷に関する懸念が生じていました。
  • 今回: 低〜中程度のパルス音圧(1.5 MHz, 0.2–1.2 MPa)の機械的振動のみで、組織の熱損傷を回避しながら安全に薬物透過と細胞内導入(ソノポレーション効果)を誘発します。
マウスモデルを用いた実験では、FUS照射によりクルクミン封入NBのBBB通過が促進され、脳内への局所的な送達が達成されました。これらの結果は、安定なNBの存在下でFUSパラメータ(1.5 MHz、0.2~1.2 MPa)を最適化することで、組織損傷を最小限に抑えつつBBB透過性を安全に高め、薬物送達効率を向上させられることを強調しています。

crisp_bioメモ
CRISPR系のゲノム編集因子を今回の脂質二重膜NBにより送達することは、サイズの観点から不可能です。なお、FUS-MBを介して、CRISPR-Cas9 RNPを脳へ送達することに成功した例が、「[#] 関連crisp_bio記事」の項に含まれています。

[†] FUS-MBによる薬剤送達・臨床試験例
  • ロックフェラー神経科学研究所を主とする米国の研究チーム:"Ultrasound blood-brain barrier opening and aducanumab in Alzheimer’s disease" Rezai AR, D'Haese PF, Finomore V et al., N Engl J Med. 2024-01-04. https://doi.org/10.1056/nejmoa2308719
  • Hospital Universitario HM Puerta del Surを主とするスペインの研究チーム:"Prospective Long-term Follow-up of Focused Ultrasound Unilateral Subthalamotomy for Parkinson Disease" Martínez-Fernández R, Natera-Villalba E, Jorge U. Máñez Miró M et al., Neurology. 2023-01-11. https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000206771;"Five-Year Follow-Up of Unilateral Focused Ultrasound Subthalamotomy for Parkinson's Disease" Natera-Villalba E, Martínez-Fernández R, Jiménez-Castellanos T et al., Mov Disord. 2026-04-15. https://doi.org/10.1002/mds.70307
[#] 関連crisp_bio記事
出 典
"Localized brain delivery of drugs via focused ultrasound-responsive bi-layer nanobubbles" Narges Nasrollahi Boroujeni (1), Mehregan Rahmani (1), Mohammad Fathi (2), Farhang Aliakbari (1), Allegra Conti (3), Chiara Maria Salzano (3), Syed Bilal Nizami (3), Sepideh Jahangiri (4,5), Hossein Cheraghi Bidsorkhi (6), Hossein Mohammad-Beigi (7), Nicola Toschi (3,8), Mohammad Taghi Ahmadian (2), Dina Morshedi (1,9)npj Acoust. 2026-08-18. https://doi.org/10.1038/s44384-026-00065-6
  1. Department of Bioprocess Engineering, National Institute of Genetic Engineering and Biotechnology, Tehran, Iran. 
  2. School of Mechanical Engineering, Sharif University of Technology, Tehran, Iran. 
  3. Medical Physics Section, Department of Biomedicine and Prevention, University of Rome ‘Tor Vergata’, Rome, Italy.
  4. Department of Biomedical Sciences, Faculty of Medicine, Université de Montréal, Montreal, QC, Canada. 
  5. Research Centre, Centre Hospitalier de L’Université de Montréal (CRCHUM), Montreal, QC, Canada. 
  6. Department of Engineering, University of Sassari, Sassari, Italy. 
  7. Department of Biotechnology and Biomedicine, Technical University of Denmark, Kgs Lyngby, Denmark. 
  8. Martinos Center for Biomedical Imaging, MGH and Harvard Medical School, Boston, MA, USA.
  9. Corresponding author
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