〜 Cas9に対する免疫応答を介した慢性炎症と線維化, DNA損傷応答遺伝子におけるクローン性変異, およびゲノムの不安定化 〜
中山大学生命科学学院のJunjiu Huang教授は2015年に世界で初めてCRISPR/Cas9によるヒト胚ゲノム編集を「不妊治療クリニックから入手して発生能力のない3NP受精卵胚」において実施したことを論文発表したことで知られています [crisp_bio 2017-10-07 疾走する中国CRISPR療法研究開発 参照]。その際に、オフターゲット変異の発生率が、マウス胚やヒト成人細胞の遺伝子編集で見られる発生率よりもかなり高いことを、報告していました。
その後、多くの研究チームにより、CRISPR/Cas9遺伝子編集にはオフターゲット編集を超えた、染色体再編成など重大な障害を伴うことが相次いで報告されてきましたが、Huang教授が率いる研究チームは今回、マウスの肝臓におけるSaCas9遺伝子編集において、そうした重大な障害が発生することを再確認し、その対応策とともに、Protein & Cell 誌から発表しました。
これらの知見は、Cas9ヌクレアーゼがゲノム不安定性を誘発するだけでなく、高い腫瘍形成能を持つ細胞クローンを選択的に濃縮させるような細胞ストレスをもたらすことを示唆しています。
具体的には、SaCas9とPcsk9とAngptl3を標的とするgRNAをAAV8を介してマウスに送達し、その作用を10ヶ月にわたり追跡しました。
その結果、オフターゲット編集以外の障害が発生することが、再確認されました:
Cas9ヌクレアーゼによりゲノム編集に伴うリスクを回避するには
Cas9ヌクレアーゼを介したゲノム編集に伴う副作用は、出典では触れらていませんが、編集目的によっては、DNA二本鎖切断を必要としない塩基エディター(BE)、プライムエディター(PE)、あるいは、CRISPRa/iといった技術を利用することで、回避できます。
中山大学生命科学学院のJunjiu Huang教授は2015年に世界で初めてCRISPR/Cas9によるヒト胚ゲノム編集を「不妊治療クリニックから入手して発生能力のない3NP受精卵胚」において実施したことを論文発表したことで知られています [crisp_bio 2017-10-07 疾走する中国CRISPR療法研究開発 参照]。その際に、オフターゲット変異の発生率が、マウス胚やヒト成人細胞の遺伝子編集で見られる発生率よりもかなり高いことを、報告していました。
その後、多くの研究チームにより、CRISPR/Cas9遺伝子編集にはオフターゲット編集を超えた、染色体再編成など重大な障害を伴うことが相次いで報告されてきましたが、Huang教授が率いる研究チームは今回、マウスの肝臓におけるSaCas9遺伝子編集において、そうした重大な障害が発生することを再確認し、その対応策とともに、Protein & Cell 誌から発表しました。
CRISPR/Cas9ゲノム編集がもたらす重大な障害
これまでにin vitroの実験において、CRISPR/Cas9を用いた編集が大規模なゲノム再構成を引き起こすこと [#1]、持続的なDNA損傷応答を誘発すること [#2, 3]、そしてp53を不活化する変異を濃縮させること [#4] が報告されています。また、p53依存性の毒性は、ヒト多能性幹細胞におけるCRISPR/Cas9ゲノム編集を阻害することが報告されています [#5]。さらに、TP53欠損細胞がCas9発現下で増殖上の優位性を獲得することも報告されています [#4]。その結果、CRISPRを用いた適応度(フィットネス)スクリーニングにおいて、p53経路関連遺伝子が頻繁に濃縮されることが確認されています [#3]。
これらの知見は、Cas9ヌクレアーゼがゲノム不安定性を誘発するだけでなく、高い腫瘍形成能を持つ細胞クローンを選択的に濃縮させるような細胞ストレスをもたらすことを示唆しています。
さらに、in vivo研究では、細胞株モデルには存在しない、細菌由来Cas9タンパク質に起因する宿主免疫応答が明らかになっています [ #6]。
マウス肝臓での再検証
研究チームは、in vivoにおけるCRISPR/Cas9ゲノム編集の長期的な安全性について、包括的な評価を行うことを目的とする実験対象として、損傷後に組織恒常性を維持するための増殖能を有している肝臓を選択しました。
具体的には、SaCas9とPcsk9とAngptl3を標的とするgRNAをAAV8を介してマウスに送達し、その作用を10ヶ月にわたり追跡しました。
その結果、オフターゲット編集以外の障害が発生することが、再確認されました:
- SaCas9の長期発現に対して、宿主免疫応答と肝線維化、および、遺伝子編集効率の低下が確認されました。
- 遺伝子編集を受けた肝組織において、p53シグナル経路の抑圧や腫瘍抑制遺伝子の発現低下が確認され、Cas9のストレス下で細胞死を回避した細胞が生存・増殖しやすい環境が形成されていることが示唆されました。
- 全エクソーム解析により、DNA修復・DDR応答に関わる遺伝子群に非サイレント変異が濃縮され、これらの変異を持つ肝細胞クローンが選択されることが、確認されました。
- p53経路などの腫瘍抑制遺伝子が抑圧され、DNA損傷応答遺伝子に異常を持つ細胞クローンが選択的に増殖したことは、がん化リスクの懸念をいだかせます。
- ガイドRNAに依存するオフターゲット編集の増加は見られなかったものの、オンターゲットの二本鎖切断(DSB)部位と内因性ゲノム領域との間で、ガイドRNA非依存的な染色体転座およびAAVゲノムの挿入が確認されました。
以上の知見を総合すると、生体内治療用遺伝子編集の安全性評価においては、免疫原性、クローン動態、およびゲノム全域にわたる構造変異まで対象を広げる必要があることが示唆されます。
Cas9ヌクレアーゼによりゲノム編集に伴うリスクを回避するには
- 微生物由来のCas9に対する免疫応答を回避する戦略として、ウイルスキャプシドやCas9について、免疫学的に交差反応を示さないオーソログを探索することが挙げられます [Moreno et al.,Nat Biomed Eng.,2019]。
- 送達媒体として、長期的な発現をもたらすAAVに替えて脂質ナノ粒子(LNP)を介してCas9 mRNAを一過性に送達することで、編集効率は低下するものの、安全性を向上させることが可能です [#8]。
- 近年、Cas9の忠実度(フィデリティ)を高めるだけでなく、Cas9にエキソヌクレアーゼを融合させることで、末端結合を阻害し、染色体転座を抑制できる可能性が示されています [#9]。
Cas9ヌクレアーゼを介したゲノム編集に伴う副作用は、出典では触れらていませんが、編集目的によっては、DNA二本鎖切断を必要としない塩基エディター(BE)、プライムエディター(PE)、あるいは、CRISPRa/iといった技術を利用することで、回避できます。
出 典
"Long-term in vivo CRISPR/Cas9 gene editing in liver triggers host immunity and clonal mutations in DNA damage response genes beyond off-target effects" Tianqi Cao (1, 2, 4), Ao Zhang (1,2,4) [..] Junjiu Huang (1,2,5). Protein Cell 2026-08-21. https://doi.org/10.1093/procel/pwag057
- MOE Key Laboratory of Gene Function and Regulation, State Key Laboratory of Biocontrol, School of Life Sciences, Sun Yat-sen University, Guangzhou 510275, China.
- MOE Key Laboratory of Gene Function and Regulation, State Key Laboratory of Biocontrol, Innovation Center for Evolutionary Synthetic Biology, School of Life Sciences, Sun Yat-Sen University, Guangzhou 510275, China.
- Department of Gynecology, Clinical Transformation and Application Key Lab for Obstetrics and Gynecology, Pediatrics, and Reproductive Medicine of Jiangmen, Jiangmen Central Hospital, Jiangmen 529000, China.
- Contributed equally
- Corresponding author
[#] 参考crisp_bio記事と論文
- 2018-07-17 CRISPR-Cas9が誘導するDSBの修復は、ゲノムの大規模な削除と複雑な再編に至る.
- 2020-03-22 Cas9はDNA-PK依存DNA修復過程を損傷する突然変異誘発因子であることに、留意せよ.
- 2017-08-27 p53を阻害するとCRISPR/Cas9のHDR効率が著しく向上する.
- 2020-05-26 CRISPR-Casゲノム編集におけるp53問題: Cas9はp53パスウエイを活性化し, p53機能喪失変異細胞を選択する結果を招く.
- 2017-08-27 p53を阻害するとCRISPR/Cas9のHDR効率が著しく向上する. にて引用
- CRISPRメモ_2019/02/19 [第1項] デュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD)モデルマウスにSaCas9をAAVで送達してからの1年.
- 2022-06-17 Cas13dの臨床応用にあたって,ヒトの免疫応答に要注意.
- 2024-03-13 [レビュー] ゲノムエディターをウイルスベクター・フリーで生体内標的へと送達する法.
- 2022-03-15 CRISPR-Cas9ゲノム編集に伴う染色体転座を,Cas9にTREX2を融合することで、解消.
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