〜単一AAV送達でマウス生体内ゲノム編集効率~30%を達成 〜
2026-09-07 crisp_bioメモを追記しました。
2026-08-29 初稿
真核生物由来のCRISPR-Cas様酵素Fanzor2(Fz2)[#1, 2, 3] は、不活性または極めて低活性ですが、その由来と極めてコンパクトなことから、新たなヒトゲノム編集ツールの素材として期待され、最適化が試みられてきました [#4]。
2026-09-07 crisp_bioメモを追記しました。
2026-08-29 初稿
真核生物由来のCRISPR-Cas様酵素Fanzor2(Fz2)[#1, 2, 3] は、不活性または極めて低活性ですが、その由来と極めてコンパクトなことから、新たなヒトゲノム編集ツールの素材として期待され、最適化が試みられてきました [#4]。
ペンシルベニア大学のShijie Wan博士研究員、Xiao Wang研究助教ならびにXue Gao准教授が率いる研究チームは今回、Fz2オーソログの探索、CRISPR-CasシステムのガイドRNAに相当するωRNAのスキャフォールド改変、そして、EvoMaxによるFz2ヌクレアーゼの進化を組み合わせることで、ヒト化マウス体内でのヒトPCSK9 遺伝子の編集効率~30%を達成するに至りました。
Fz2オーソログの探索
研究チームは1,600以上の候補の中から活性を持つ真核生物由来Fz2オーソログをin silico解析によって選定し、実験的に検証することで、機能が解明されたFz2ヌクレアーゼのレパートリーを拡大し、その中で、Naegleria lovaniensis 由来Fz2(NaloFz2)を指向性進化の出発点として選択しました。
EvoMaxによる強化
指向性進化において膨大な変異空間から有望な変異を効率よく選別(優先順位付け)するため、新たなタンパク質工学パイプライン「EvoMax」を開発しました。 EvoMaxは、構造安定性を予測する逆フォールディングモデル(ESM-IF)、進化的制約を評価するタンパク質言語モデル(ESM-2 )、そして転移学習 を取り入れたガウス過程回帰 (GPR)を統合した適応型AI(Adaptive AI)モデルです。
そのワークフローは、「わずかな実験データ(スパースデータ)から目的変異体を能動的に探索する」以下の適応型ループで構成されます:
- 事前予測(ゼロショット / 事前知識の利用): ESM-2 (進化的適合度)やESM-IF (構造安定性)の知見をベースに、20種類のアミノ酸からなる膨大な変異空間から、初期の有望な変異体候補を絞り込みます。
- 実験検証(Sampling): 選抜した変異体を実際に合成・検証し、編集活性などの実験データ(スパースデータ)を取得してフィードバックします。
- 学習と適応(Model Update): 得られた実験データを基に転移学習GPRモデルを随時更新(適応)させ、適合度ランドスケープの予測精度と不確実性の推定を高めます。
- 再予測と最適化(Adaptive Loop): 更新されたモデルを用いて次の優れた変異体を予測・選択し、目的の活性に達するまでこのサイクルを回します。今回は3回のサイクルで完了しました。
このEvoMaxを介したサイズが500 aa未満とコンパクトなFz2ヌクレアーゼの最適化(FanzMAX v3)と、並行して構造情報をベースにそのスキャフォールドを改変・短縮し、安定化するLaを付加したωRNA(以下、hLa)を組み合わせることで、高活性な「FanzMAX v3-hLa」を創出しました。
FanzMAX v3-hLaの性能評価
哺乳類細胞集団における19の標的遺伝子座において、平均編集活性約33%(最大97%)を達成し、内在性遺伝子の編集効率を約10倍に向上させました。これは、既存のFz2由来のゲノム編集ツールであるenNlovFz2 [#4] やCas12f1由来のenCnCas12f1 [#5]と比較して2.6倍以上の性能向上にあたります。
FanzMAX v3-hLaの性能評価
哺乳類細胞集団における19の標的遺伝子座において、平均編集活性約33%(最大97%)を達成し、内在性遺伝子の編集効率を約10倍に向上させました。これは、既存のFz2由来のゲノム編集ツールであるenNlovFz2 [#4] やCas12f1由来のenCnCas12f1 [#5]と比較して2.6倍以上の性能向上にあたります。
新たな指向性進化法EvoMaxは単に活性を向上させるだけでなく、Fz2が真核生物由来であることの上に、「構造の安定性」「進化生物学的な制約」を考慮しながら設計したことで、「標的への結合力だけを高め、オフターゲットへの誤結合を最小限にする」という最適化にも成功しています。
さらに、CRISPR-CasシステムのPAM(Protospacer Adjacent Motif)に相当するTAM(Target-Adjacent Motif)の認識能が拡大しており、標的可能範囲も拡大されました。
ヒト化マウスの実証実験では、そのサイズがコンパクトなことを生かして、FanzMAX v3-hLaを単一のAAVベクターで送達することで、hPCSK9遺伝子の編集効率~30%が達成されました。
ヒト化マウスの実証実験では、そのサイズがコンパクトなことを生かして、FanzMAX v3-hLaを単一のAAVベクターで送達することで、hPCSK9遺伝子の編集効率~30%が達成されました。
不活性オーソログの機能回復への応用
EvoMaxによる進化は、不活性な複数のFz2オーソログの機能回復にも及びました。すなわち、EvoMaxにおける転移学習が極めて有効であったことが裏付けられました。
まとめ
ωRNAスキャフォールドの改変と適応型モデル主導のタンパク質最適化を組み合わせることで、コンパクトな真核生物由来Fz2ヌクレアーゼの活性を大幅に向上させ、編集効率と治療への応用可能性を広げるに至りました。
crisp_bioメモ
Fanzor2は、そのサイズが500アミノ酸未満とコンパクトなことから生体内ゲノムエディターのベースとして魅力的ですが、その強化に向けて実験的に変異を誘導し評価していくには巨大過ぎます。また、近年発見されたFanzor2の活性データは限られていることから、大量の学習データを必要とするタイプの人工知能も役に立ちません。そこで、研究チームはEvoProの開発に取り組み、成功を納めました。EvoMaxは、少量の高品質な実験データと、進化の歴史やタンパク質構造にコードされた情報を組み合わせることで、実験の優先順位を決定したのです。
ωRNAスキャフォールドの改変と適応型モデル主導のタンパク質最適化を組み合わせることで、コンパクトな真核生物由来Fz2ヌクレアーゼの活性を大幅に向上させ、編集効率と治療への応用可能性を広げるに至りました。
crisp_bioメモ
Fanzor2は、そのサイズが500アミノ酸未満とコンパクトなことから生体内ゲノムエディターのベースとして魅力的ですが、その強化に向けて実験的に変異を誘導し評価していくには巨大過ぎます。また、近年発見されたFanzor2の活性データは限られていることから、大量の学習データを必要とするタイプの人工知能も役に立ちません。そこで、研究チームはEvoProの開発に取り組み、成功を納めました。EvoMaxは、少量の高品質な実験データと、進化の歴史やタンパク質構造にコードされた情報を組み合わせることで、実験の優先順位を決定したのです。
出 典
"Adaptive model-guided protein evolution with sparse data optimizes compact eukaryotic genome editors" Shijie Wan (1,2) [..] Xiao Wang (5,6,7,10), Xue Gao (1,2,4,10). Nat Biotechnol. 2026-08-24. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03272-4
- Department of Chemical and Biomolecular Engineering, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Center for Precision Engineering for Health, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Department of Computer and Information Science, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Department of Bioengineering, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Cardiovascular Institute, Perelman School of Medicine at the University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Division of Cardiovascular Medicine, Department of Medicine, Perelman School of Medicine at the University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Department of Genetics, Perelman School of Medicine at the University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Master of Biotechnology Program, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA.
- Department of Chemical and Biomolecular Engineering, Rice University, Houston, TX, USA
- Corresponding authors
[#] 参考記事
- 2023-07-03/[2023-09-10更新 真核生物からヒトゲノム編集可能なRNA誘導型エンドヌクレアーゼを再発見. https://crisp-bio.blog.jp/archives/32689996.html
- 2024-09-25 [解説] 真核生物由来のCRISPR-Cas様RNAガイドDNA切断酵素”Fanzor"とは. https://crisp-bio.blog.jp/archives/36820510.html
- 「真核生物初のCRISPR-Cas様酵素の発見」齋藤 諒(ブロード研究所, Feng Zhang研究室)生化学 2024-04-25. https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2024.960281/data/index.html
- 2025-05-25 真核生物のトランスポゾンにコードされているFanzor2システムを, 哺乳類ゲノム編集に応用する. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38633707.html
- 2023-09-20 PAMとしてC-リッチな配列を認識する小型のCas12fの分子基盤. https://crisp-bio.blog.jp/archives/33296458.html
最近の指向性進化法
- EVOLVEpro:2026-03-16/03-17更新 EVOLVEpro:タンパク質 (proteins) の機能をin silicoで迅速に指向性進化させる法. https://crisp-bio.blog.jp/archives/40190639.html
- AiCE:2025-07-16 蛋白質工学において, 構造的制約と進化的制約を汎用的な逆フォールディングモデルに統合するアプローチAiCEを考案・実装し, 塩基エディターの高精度化と高活性化に応用. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38951097.html
- MULTI-Evolve:2026-07-30/07-31更新 【ゲノム編集の新潮流】EvoからMULTI-evolveへ:Hsu博士らが貫く「小さく産んで大きく育てる」AIゲノム設計の流儀 https://crisp-bio.blog.jp/archives/40649489.html
投稿のタイミングなどのため本論文には引用されなかったと思われるFanzor-ωRNA最適化論文
- 2025-10-14 超コンパクトなFanzor-ωRNAシステムのゲノム編集活性を強化. https://crisp-bio.blog.jp/archives/39458230.html
- 2026-01-23 真核生物由来のRNA誘導性DNAヌクレアーゼFanzor2とωRNAを, AlphaFold3とEVOLVEproを介して, "使える"ゲノム・エディターへと進化させた. https://crisp-bio.blog.jp/archives/40019917.html
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