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無機リン酸(Pi)の欠乏は作物の収量を著しく低下させます。そこで植物では、成長を制御しつつ環境中のリン酸濃度の変動から受けるストレスに応答する「リン酸飢餓応答(PSR)」ネットワークが進化してきました。

リン酸の吸収・輸送は、PSR抑制因子のPHOSPHATE2 (OsPHO2)や OsSPX(Syg1, Pho81, XPR1) ファミリー遺伝子を機能喪失変異や植物体全体でノックダウンすると、著しく促進されます。しかし、同時に、リン酸の恒常性が乱れて葉に過剰に蓄積し、成長阻害や収量低下を引き起こします。

今回、浙江大学大学に南京農業大学が加わった研究チームは、この成長とストレス応答の二者択一の課題を克服するため、イネ(品種「日本晴」)において、維管束特異的に OsPHO2を効率よく体細胞ノックアウトできるCRISPR/Cas9組織特異的ノックアウト(tissue-specific knockout:TSKO)システムを、組織特異的プロモーターを利用することで、実現しました。
  • このTSKOイネは、水耕栽培においてリン酸濃度が適度に上昇しつつもリン酸恒常性が維持され、リン酸欠乏水田では有効分げつ数および穀粒収量が増加しました。
  • 維管束特異的な OsPHO2ノックアウトにより、根において「OsPHO2 によって抑制され、かつ維管束で発現するリン酸飢餓誘導性シグナル伝達」が適度に活性化され、根や葉におけるPSRの乱れが緩和されました。
  • 「中花11号(Zhonghua 11)」を背景品種とした場合でも、OsPHO2OsSPX1/2の維管束特異的ノックアウトにより同様の結果が得られました。
  • 圃場試験により、TSKOイネはリン酸欠乏水田において低リン耐性が向上していることが確認され、一方でリン酸が十分に供給される水田では正常な成長を示しました。
  • CRISPR-TSKOシステム自体が次世代へ確実に継承され、T2〜T4世代の各世代における特定組織で同様の変異が安定して再現されることが確認されました。
本研究は、植物体全体ではなく、組織特異的CRISPR/Cas9ノックアウトによるイネの低リン耐性向上の有用性を示すとともに、PSRにおける維管束組織の役割に関する知見を提供し、作物改良に向けた有望な空間的標的化戦略を提示するものです。

出 典
"Improving low-phosphate tolerance via tissue-specific CRISPR/Cas9 knockout to balance growth and stress responses in rice". Guangbo Wei (1) [..] Guangbo Wang (1,4). Plant Cell. 2026-06-02. https://doi.org/10.1093/plcell/koag170
1 State Key Laboratory of Plant Environmental Resilience, College of Life Sciences, Zhejiang University, Hangzhou, Zhejiang 310058, China.
2 Robotic Micro-Nano Manipulation Lab, College of Biosystems Engineering and Food Science, Zhejiang University, Hangzhou 310058, China.
3 State Key Laboratory of Crop Genetics and Germplasm Enhancement and Utilization, Nanjing Agricultural University, Nanjing 211800, China.
4 Corresponding author.

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