ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異の蓄積は、ミトコンドリア機能不全の主要な要因であり、老化や様々な病態と密接に関連しています。DNAポリメラーゼγの触媒サブユニットであるPOLGはmtDNA複製に不可欠ですが、特にその校正機能の欠損はmtDNA変異の蓄積を招きます。
中国科学院広州生物医薬与健康研究院を主とする中国の研究チームは、プライムエディター(PE)と体細胞核移植技術(SCNT)を組み合わせることで、校正機能欠損型POLG(ホモ接合型pPOLG<D260A/D260A>変異)を発現するミトコンドリア変異誘発ブタモデルを創出しました。
D260コドンにおけるAからCへの塩基変換は、従来のCRISPR-Cas9遺伝子編集や塩基エディターでは困難であることが示されていました。今回は、PEにおいてpegRNAおよびnsgRNAの設計を体系的に最適化することで、PFF(ブタ胎児線維芽細胞)のpPOLG遺伝子座において約53.39%という極めて高い編集効率を達成しました [上図のD参照]。
また、SCNTの際にドナーPFFから持ち込まれる変異mtDNAの影響は無視できると考えられました。これは、卵母細胞由来のミトコンドリア数がドナーPFF由来のものよりも圧倒的に多いためです。その結果、ブタでは、ミトコンドリア変異誘発マウスで見られたような、遺伝したmtDNA変異がファウンダー世代の表現型を増悪させるという複雑な問題を回避できました。
さらに、ヘテロ接合型pPOLG<D260A/WT>ブタは無症状であり、変異を次世代に遺伝させることができます。そのため、雌雄のヘテロ接合体個体を交配させるだけで、ホモ接合型 *pPOLG* D260A/D260A の産仔を容易に作出することが可能になりました。
ミトコンドリア変異誘発ブタの特徴
表現形質の特徴
ミトコンドリア変異誘発ブタは、体細胞におけるmtDNA変異量の増加を示すとともに、体重減少、被毛の荒れ、貧血、皮膚や精巣間質の構造変化、アポトーシスの亢進、老化関連マーカーの上昇といった主要な早期老化の表現型を呈し、最終的には寿命の短縮に至りました。
遺伝形質(ゲノムワイド変異)の特徴
加齢に伴うヒトやミトコンドリア変異誘発マウスと同様に、ミトコンドリア変異誘発ブタにおいてもゲノム全体にわたるmtDNA変異の蓄積が認められました。変異の多くは低頻度であり、1%を超える頻度で生じるものは稀でした。
点変異の種類には顕著な偏りが見られ、AからG、TからC、およびCからTへのトランジションが他のタイプよりも頻繁に発生していました。この傾向は、加齢に伴うヒトや様々な動物モデルにおける従来の報告と一致しています。酸化損傷の指標となるGからTやCからAへのトランスバージョン(塩基置換)はごくわずかであったことは、塩基変換の鎖特異的な偏りと相まって、mtDNA変異の増加が酸化損傷によるものではなく、POLGタンパク質の忠実度の低下に起因するという見解を裏付けるものです。
点変異の種類には顕著な偏りが見られ、AからG、TからC、およびCからTへのトランジションが他のタイプよりも頻繁に発生していました。この傾向は、加齢に伴うヒトや様々な動物モデルにおける従来の報告と一致しています。酸化損傷の指標となるGからTやCからAへのトランスバージョン(塩基置換)はごくわずかであったことは、塩基変換の鎖特異的な偏りと相まって、mtDNA変異の増加が酸化損傷によるものではなく、POLGタンパク質の忠実度の低下に起因するという見解を裏付けるものです。
ミトコンドリア変異誘発ブタの意義
ミトコンドリア標的型塩基編集技術の最近の進歩 [#] により新たな可能性が開かれていますが 、ミトコンドリアゲノムの汎用的な改変は依然として困難であり、mtDNA変異を有する適切な動物モデルが著しく不足しています。
今回、ミトコンドリア変異誘発ブタは数千ものmtDNA変異を保持しており、特定の亜集団において既知の疾患原因変異の大部分(70%超)を網羅していることを示しています。したがって、これらの動物は、特定の病原性mtDNA変異を同定・単離し、それによってミトコンドリア病の新たなブタモデル開発を促進するための有用なプラットフォームになると考えられます。
さらに、ミトコンドリア変異誘発ブタは、その豊富なmtDNA変異スペクトルを利用して細胞系譜追跡(セル・リネージ・トレーシング)に用いることも可能です。以前報告されたように [Ludwig et al., Cell 2019]、これらの変異は天然の遺伝的バーコードとして機能し得るからです。
まとめ
PEを利用することで、複雑なミトコンドリア病の精密なブタモデルを実現できました。ブタとヒトとの間の生理学的・代謝的な類似性を踏まえると、このミトコンドリア変異誘発ブタモデルは、マウスモデルとヒトとの間を埋めて、老化および加齢関連疾患におけるmtDNA変異のメカニズムを解明し、治療法の開発・実用化を加速させる前臨床ツールとなることが、期待されます。
[#] ミトコンドリア標的型塩基編集技術関連crisp_bio記事
- 「AIで生成された原石を磨いて (合理的改変を施して), 核とミトコンドリアで機能する高性能なアデニン塩基エディターを実現」crisp_bio 2026-07-28. https://crisp-bio.blog.jp/archives/40642036.html
- 「これまでになく編集効率が高くオフターゲット活性が抑制されたミトコンドリア・塩基エディターを開発し, ミトコンドリア疾患ラットモデルの生成と治療を実現(2報)」crisp_bio 2025-06-12/03-24更新. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38723201.html
出 典
"Development of mitochondrial mutator pigs exhibiting increased mitochondrial DNA mutations and premature aging via prime editing" Fangbing Chen (1,2,8), Yanhui Liang (1,2,8,9), Wei Zheng (3, 8), Aobo Yao (1,2,4,8) [..] Liangxue Lai (1,2,3,4,7,9), Kepin Wang (1,2,4,7,9) [+10]. Sci Adv 2026-08-26.08-28. https://doi.org/10.1126/sciadv.adu0632
- China–New Zealand Joint laboratory on Biomedicine and health, Guangdong Provincial Key laboratory of Stem Cell and Regenerative Medicine, Institute of Development and Regeneration, Guangzhou institutes of Biomedicine and Health, Chinese Academy of Sciences, Guangzhou, Guangdong 510530, China.
- Guangdong-hong Kong Joint laboratory for Stem Cell and Regenerative Medicine, CUhK-GIBH Joint Research Laboratory on Stem Cells and Regenerative Medicine, GIBH-HKU Guangdong-Hong Kong Stem Cell and Regenerative Medicine Research Centre, Guangzhou Institutes of Bio-medicine and Health, Chinese Academy of Sciences, Guangzhou, Guangdong 510530, China.
- Guangdong Provincial Key Laboratory of Large Animal Models for Biomedicine, South China Institute of Large Animal Models for Biomedicine, School of Pharmacy and Food Engineering, Wuyi University, Jiangmen, Guangdong 529020, China.
- GMU-GIBH Joint School of Life Sciences, Guangzhou Medical University, Guangzhou, Guangdong 511436, China.
- College of Veterinary Medicine, Jilin University, Changchun, Jilin 130062, China.
- Animal Research and Resource Center, School of Life Sciences, Yunnan University, Kunming, Yunnan 650500, China.
- Sanya Institute of Hainan Academy of Agricultural Sciences (Hainan Provincial Research Center of laboratory Animals), Sanya, Hainan 572025, China.
- Contributed equally.
- Corresponding authors.

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