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[注] nCATS(nanopore Cas9-targeted sequencing);STR(ショートタンデムリピート)

ショートタンデムリピート(STR)とは

ショートタンデムリピート(STR)は、典型的には2~7塩基対の長さを持つ短いモチーフの反復配列です。ヒトゲノムにおいて100万以上のSTR座位が報告されており、特定の部位におけるSTRの伸長は、数多くの遺伝性疾患の原因となり得ます。疾患に関連するSTR伸長座位の情報は絶えず更新されていますが、今回取り上げた研究の開始時点(2023年後半)において、メンデル遺伝性疾患(特に神経疾患および神経筋疾患)の原因として約56の座位が特定されていました。例えば、脊髄小脳変性症(Spinocerebellar Ataxia:SCA)は、遺伝的に不均一かつ進行性の神経変性疾患群ですが、その多くは特定の座位におけるSTR伸長に起因します。

STR検出における課題

疾患原因となるSTR伸長を検出・診断することは、依然として困難です。従来、STR関連疾患の診断には、PCR増幅に基づくフラグメント解析法や、ショートリード次世代シーケンシング(NGS)プラットフォームが用いられてきました。これらの手法は反復配列の伸長を検出する上で有用ではあるものの、いくつかの重要な限界を伴っていました。

例えば、典型的には150~300 bpのリード長を生成する従来のNGS法では、病原性STR伸長(すなわち、モチーフサイズ×反復回数)がこのシーケンシング長の制限を超える場合、反復構造を正確に決定することができません。

全ゲノムシーケンシングに基づくアプローチにおいても、
反復配列のアセンブリ(構築)は依然として極めて困難であり、正確な反復回数データが​​失われるため、正確な反復情報を捉えることができません。

さらに、PCR増幅の過程でDNAメチル化情報が失われる問題もあります。

PCR増幅を必要としないnCATS法の特徴と限界

こうした制約を克服するため、PCR増幅を必要としないナノポアCas9標的シーケンシング(nCATS)法が開発されました [#1]。このnCATS法では、CRISPR-Cas9を用いて特定のゲノム領域を濃縮し、ロングリード・ナノポアシーケンシングを行うもので、小規模な変異、STR(短鎖反復配列)の伸長、およびメチル化などのエピジェネティックな修飾の検出を可能にしました。

その後、疾患関連STR領域の解析におけるマルチプレックスnCATSの有用性が示されています。例えば、FLO-SCApはFlongleフローセルを用いた低コストなナノポアシーケンシングにより16箇所のSCA(脊髄小脳変性症)関連領域を標的とし [#4]、HMMSTRは細胞株由来のサンプルを用いて60箇所の領域にわたるジェノタイピングを実現しました [#5]。最近では、Clin-CATSが513例の血液由来サンプルからなる臨床コホートにおいて、17箇所の運動失調関連領域の確実な濃縮を実証し [#6]、反復モチーフ構造や割り込み(interruption)パターンの特性解析におけるnCATSの可能性を浮き彫りにしました。

しかし、マルチプレックスnCATSを用いた既存の研究は、標的数の増加に対して精度を維持できる限界があることや、比較的大量のサンプルを必要とすることなどから、患者由来サンプルにおける限られた数のSTR領域を対象とするか、あるいは、STRパネルでも細胞株由来のパネルに限定されていました。

さらに、既存の解析ツールは主に反復長の推定や既定のモチーフ解析に重点を置いており、非定型的な患者特有の反復構造を維持しつつ、モチーフのコンテクストや割り込みパターンを直感的に特定する能力には限界がありました。

nCATS法の最適化

研究チームは今回、既知のすべての多様なSTR伸長領域を単一の検査で同時に診断できるよう、nCATS法の最適化を図りました。

ガイドRNA(gRNA)の設計と切断条件の最適化

  • 約10 kb断片での設計: ナノポアに特有な短鎖分子の過剰検出バイアス(リード長バイアス)を抑えるため、目的領域(ROI)の前後約10 kbを切り出すgRNAペアを設計。
  • IVC(In Vitro Cleavage)アッセイの利用: 切断効率90%以上を示す最適なgRNAペアを選出。
  • tracrRNA:crRNA構成の採用: コストとターゲット変更の柔軟性を高めるため、sgRNAではなくtracrRNAとcrRNAの二分子複合体(最適比率 6:3 pmol/ROI)を採用。

実験プロトコルの最適化(均一なカバレッジの達成)

  • Cas9除去とdA-tailingの分離: 残留したCas9による阻害を防ぐため、従来同時に行われていたCas9切断とdA-tailingを分け、切断後にビーズ精製でCas9を取り除いてからdA-tailingを実施。
  • アダプターライゲーション時間の延長: ライゲーション時間を標準の10分から60分へ延長し、シークエンスの産出量を大幅に増加。
  • Adaptive Sampling(適応型サンプリング)の適用: ナノポアのリアルタイム選択機能を活用し、非ターゲット領域を排除して56箇所のSTR領域全体で均一かつ高深度(平均275×)のカバレッジを確保。

専用解析アルゴリズム「STRiker」の開発

  • 既知のモチーフ評価にとどまらず、de novoの繰り返し配列や構造変化、配列内の割り込み(interruption)パターンを正確に可視化・自動診断レポート化するパイプラインを開発・統合。

最適化nCAST-STRikerの実証実験


研究チームは、PCR法、全エクソームシーケンシング、全ゲノムシーケンシングを含む広範な遺伝学的検査を受けたにもかかわらず遺伝学的な診断に至らなかった小脳失調症患者37名を対象にする検証実験を行いました。

  • DNA抽出から診断までのプロセスは25時間以内に完了し、その結果、37名のうち12名(32.4%)について診断を確定させることができました。
  • 特にFGF14 におけるいくつかのde novoリピート領域や、NOTCH2NLC における遺伝過程でのメチル化変化を特定しました。

結 論


総じて、最適化されたnCATS–STRikerワークフローは、小脳失調症などのSTR関連神経遺伝性疾患の診断精度を向上させるための、迅速かつ高精度な手法となり得ます。


[#] nCATS関連crisp_bio記事と論文

  1. 「nCATS: CRISPR-Cas9により標的配列をエンリッチ、ナノポアシーケンシグを介して構造多型などを検出」crisp_bio 2020-02-13 
  2. 「nCATSを利用してサイズが大きな植物ゲノムにおける効率的な標的遺伝子シーケンシングを実現」crisp_bio 2021-12-29. 
  3. 「Cas9ターゲットナノポアシーアシーケンシングとバリアントコールの強化によりCYP2D6-CYP2D7ハイブリッドアレルの正確なジェノタイピングを実現」crisp_bio 2022-04-21/2022-10-28. 
  4. 「Cas9を利用して, 脊髄小脳失調症におけるリピート伸長の効率的なターゲット・シーケンシングを実現」crisp_bio 2023-12-02. 
  5. "Enhanced Detection and Genotyping of Disease-Associated Tandem Repeats Using HMMSTR and Targeted Long-Read Sequencing" Deynze KV, Mumm C, Maltby CJ, Switzenberg JA, Todd PK, Boyle AP. Nucleic Acids Res. 2025-01-11. 
  6. “Repeat-Associated Ataxias in a German Patient Cohort Analysed by Targeted Parallel Long-Read Sequencing" Erdmann H, Schaub A, Lucas MC [..] Abicht A. Brain. 2026-03-05. 

出 典

"Optimized Cas9-Enriched Nanopore Sequencing and Analysis Workflow for Clinical Diagnosis of Repeat Expansion Disorders" Seungbok Lee(1,2,8), Chanju Jung(3,8), Minjeong Kim(3,8) [..] Jangsup Moon(1,4,9) [+8]. Adv Sci. 2026-08-29. https://doi.org/10.1002/advs.77475

  1. Department of Genomic Medicine, Seoul National University Hospital, Seoul, South Korea.
  2. Department of Pediatrics, Seoul National University College of Medicine, Seoul National University Children's Hospital, Seoul, South Korea.
  3. Department of Biomedical Sciences, Seoul National University College of Medicine, Seoul, South Korea.
  4. Department of Neurology, Seoul National University College of Medicine and Seoul National University Hospital, Seoul, South Korea.
  5. Department of Chemistry, Hanyang University, Seoul, South Korea.
  6. Cancer Research Institute and Genomic Medicine Institute, Seoul National University College of Medicine, Seoul, South Korea.
  7. Institute of Molecular Biology and Genetics, Seoul National University, Seoul, South Korea.
  8. Contributed equally.
  9. Corresponding author
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