DMDの遺伝子治療戦略
DMDはジストロフィン遺伝子の変異によって、ジストロフィンタンパク質が欠損することが原因であり、これまでに、機能的に重要な部分だけをコンパクトに縮小した「マイクロジストロフィン遺伝子」をウイルスベクターに搭載して送達する遺伝子補充療法や、変異を帯びたエクソンを除去または読み飛ばす(スキップ)することで、部分的に機能するジストロフィンタンパク質を生成する手法が試みられてきました。
前者については、2026年2月に中外製薬が、国内で初めて遺伝子補充療法「エレビジス」の販売を開始したところです。後者についても、エクソンスキッピングを実現したアンチセンス核酸医薬(ビルテブソなど)が承認されています。また、CRISPR-Cas技術を利用したジストロフィン遺伝子修復の試みも行われています。
CRISPR-Cas9ゲノム編集によるDMD治療の課題
- DMDの治療法として、プログラム可能なCRISPR-Casヌクレアーゼを利用して、変異を含むエキソンを切除して読み枠(オープンリーディングフレーム)を回復する手法が有望ですが、エクソンを挟む複数箇所(標的エクソンの左右のイントロン)を同時に切断するマルチプレックス編集能力が求められます。
- 生体内(in vivo)遺伝子送達にはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが用いられますが、搭載可能なサイズ(約4.7 kb未満)が小さいため、従来のSpCas9などの大きな酵素では「酵素+複数gRNA」を単一のAAVベクターに収めることが困難でした。
コンパクトなCas12fヌクレアーゼによるDMD治療法の可能性
クラスIIタイプVのCRISPRシステムの中で、Cas12f(Cas14とも呼ばれる)、Cas12a、およびCas12jエンドヌクレアーゼは、アーケアやバクテリオファージに由来する超小型ゲノム編集ヌクレアーゼの際立ったグループを形成してます。
特にCas12fエフェクターは、わずか415~750アミノ酸残基から構成され、これまでに同定されたクラスII CRISPRヌクレアーゼの中で最小であり、AAVを介した生体内送達との適合性が極めて高いエフェクターです。
Cas12fファミリーの中でも、Un1Cas12f1は真核細胞において効率的かつ標的依存的なゲノム編集を誘導し、Tに富むプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)(5′-TTTR-3′)の約20 bp下流で、突出末端(staggered end)を伴う二本鎖切断を生じさせることが確認されています。
さらに、最適化されたUn1Cas12f1バリアントは、LbCas12aと同等の特異性を維持しつつ、SpCas9やLbCas12aに匹敵する編集効率を達成することが報告されており、AAVを介した生体内(in vivo)送達のための実現可能な戦略を提示しています。
Un1Cas12f1の弱点
- Cas12aファミリーはcrRNAをガイドとすること(tracrRNA不要)、また、自前のRNase切断活性を備えていることで、単一の転写産物から多重なガイドRNAを生成できることから、マルチプレックス編集に適していることが知られています。しかし、Un1Cas12f1は、RNase活性を伴わず、また、crRNAとtracrRNAで構成されるガイドRNA(sgRNA)によって誘導されることから、SpCas9と同様に、マルチプレックス編集には、ガイドRNAの生成に工夫が必要でした。
- また、Un1Cas12f1のカノニカルなPAM配列は5'-TTTR-3'であることも標的領域が限定される弱点と見られていました。
Un1Cas12f1の弱点克服
- 研究チームは自前のRNase切断活性を持たないUn1Cas12f1に対し、リンカー(TTTTA(T4A))などを挟んだタンデムsgRNAアレイを構築することで、細胞内在のRNaseを介して単一プロモーターの1つの転写産物からのマルチプレックス編集編集(最大5箇所の同時編集)を実現しました。
- PAM配列からの制約については、TTCRやTCTAといった非カノニカルなPAM(Y-rich PAM)も柔軟に認識して切断できることを発見しました。
単一AAVによる生体内治療の実証
Un1Cas12f1の弱点克服を経て、サイズが529 aaのUn1Cas12f1とCRISPRアレイを合わせた発現カセット(約3.0 kb)を単一の筋肉指向性のAAV(AAVmyo)ベクターに収め、DMDモデルマウスの筋肉内で高い安全性を保ちながらジストロフィンタンパク質の発現回復(筋線維の約28.4%)を達成しました。
- エキソン23を正確に削除:Dmd-KOマウスの前脛骨筋に単一AAVベクターを注射したところ、イントロン22と23を同時に切断し、約1.3 kbpに及ぶエキソン23のゲノム切除を誘起しました。
- ジストロフィンの機能を回復:投与された筋肉組織において、筋線維の約28.4%でジストロフィンタンパク質の発現が回復。mRNAレベルでも約31.3%でエキソンスキッピング(読み枠の修復)が確認されました。
- 高い安全性:非特異的なオフターゲット切断や不適切な逆位、AAV配列のゲノム挿入などは極めて低いレベルに抑えられていることが確認されました。
こうして、Un1Cas12f1の「超小型」と「制限が緩いPAM」に、「強力なマルチプレックス編集機能」を付与した手法が、DMDをはじめとする複数箇所のゲノム切断を必要とする遺伝疾患に対して、単一AAVで治療可能な新しい生体内遺伝子治療プラットフォームとして有望なアプローチであることが、示されました。
crisp_bioメモ
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- crisp_bioでは、Cas12fについて「Cas12f (Cas14a) コレクション」を用意し、随時更新しています。
出 典
"Multiplexed genome editing by CRISPR-Un1Cas12f1 restores dystrophin expression in a mouse model of Duchenne muscular dystrophy" Jin-Seok Gil(1) [..] Taeyoung Koo(1,2,3,4). Molecular Therapy 2026-09-03. https://doi.org/10.1016/j.ymthe.2026.09.006
- Department of Precision Medicine, Graduate School, Kyung Hee University, Seoul, 02447, Republic of Korea
- Department of Regulatory Science, Graduate School, Kyung Hee University, Seoul, 02447, Republic of Korea
- Department of Pharmaceutical Sciences, College of Pharmacy, Kyung Hee University, Seoul, 02447, Republic of Korea
- Corresponding author.
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