crisp_bioでは、2026年8月6日に「EU, ゲノム編集作物に対する規制を緩和」と題するブログ記事で、EUがゲノム編集作物に対する厳しい規制を見直したことを、紹介しました。今回、ルーヴェン・カトリック大学(ベルギー)植物遺伝学・作物改良研究室のNico De Storme教授が「農家や消費者がその恩恵を享受するためには、ゲノム編集植物の栽培に関する指針を慎重に検討した上で策定・運用する必要があります。」とする論説をNature誌のWORLD VIEWS記事にて発表しました。
EU規制緩和の背景
ゲノム編集を利用すれば、干ばつや暑さへの耐性といった形質を迅速に変更し、従来の品種よりも優れた性能を持つ作物を作り出すことが可能でしたが、これまでは使用制限が農家の足かせとなっていました。
欧州委員会による2023年の影響評価では、2030年代初頭までに、穀物作物だけでEUの農家に最大27億ユーロ(23億米ドル)の経済的損失が生じる可能性があると試算されています。規制が緩和されれば、過去10年間に見られた頭脳流出や知的財産の喪失を食い止め、研究活動を後押しすることにもつながるでしょう。
新たなEU規制の概要
ゲノム編集作物を「New Genomic Techniques 1(NGT-1)」と「NGT-2」の2つのグループに分類しています。変更が限定的なNGT-1作物は、従来の手法で育種された植物と同等であるとみなされ、それに応じた規制が適用されます。その他のNGT植物はすべて「NGT-2」に分類され、引き続き厳格なGMO(遺伝子組み換え生物)規制の対象となります。
新たなEU規制に対する懸念と提言
科学的な側面から
NGT-1作物については、自然界で起こる変化と整合させるため、編集の回数や、1回の編集で変更できるDNA塩基対の数に関して厳しい規則が設けられています。しかし、こうした制約は恣意的かつ人為的なものです。自然界では、変異の種類や数に制限はなく、ランダムに発生するからです。さらに、複数の形質改良を目的とした従来の育種プログラムでは、多くの場合、何百もの遺伝的変異が関与しています。
こうした制限があると、単一の作物品種に複数の編集形質を組み込んだり、収量やストレス耐性のように多数の遺伝子によって制御される形質を遺伝子編集技術で改良したりすることが困難になります。
こうした観点から、De Storme教授は「米国の制度に見られる『育種方法ではなく、ゲノム編集の産物の特性が公衆衛生や生態系にリスクをもたらすかどうかに重点を置く』考え方を取り入れるべきでしょう。例えば、一定期間安全性が確認されたNGT作物を規制対象から外すような柔軟な運用が考えられます」と提言しています。
社会的受容の観点から
もう一つの懸念は、NGT作物専用の規制を策定することで、NGT作物は不自然であり、潜在的に有害であるというメッセージを一般の人々に与えてしまうことです。これらの作物が食料供給網の一部となるためには、農家や消費者に受け入れられることが不可欠です。
1990年代には、GMOに関する議論に十分な配慮やニュアンスが欠けていたため、反対派が一般の人々の懐疑的な見方を助長し、最終的に政策立案者が厳格な規制を採用する事態を招きました。一方で、NGTの枠組み策定に至る議論は、科学的な解釈と一般の人々の懸念をすり合わせる、よりバランスの取れたものとなりました。その結果、一部の緑の党でさえ、遺伝子編集作物に対する姿勢を変化させる動きが見られます。例えばベルギーでは、フランダース地方の政党「フルン(Groen)」が条件付きのアプローチを採用しており、NGT作物について、安全性と気候変動問題への対処能力が科学的に証明されれば、それらを受け入れるとしています。
しかし、一般の人々に広く受け入れられるかどうかは、まだ確実ではありません。De Storme教授は「NGT作物に関しては、各国の農業研究機関や、欧州委員会(各総局)および共同研究センターを含むEUの政府機関が、教育や一般向けの啓発活動に投資を行う必要があります」といった提言をしています。
むすび
NGTに関するEUの新たな決定は、大きな前進です。EUはかつて、GMOがもたらした農業技術革命の波に乗り遅れましたが、二度と同じ過ちを繰り返してはなりません。
関連crisp_bio記事
- EU, ゲノム編集作物に対する規制を緩和. crisp_bio 2026-08-06.
出 典
"CRISPR crops are coming to Europe — why bolder would be better" Nico De Storme (Professor, Plant Genetics and Crop Breeding at KU Leuven, Belgium). Nature 2026-09-15. https://doi.org/10.1038/d41586-026-02848-z
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