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なぜ人の脳の大きさや形には個人差があるのでしょうか?また、進化の過程で私たちの脳はどのように拡大し、高度な認知能力を獲得するに至ったのでしょうか? UNCの遺伝学部および神経科学センターの研究チームは、こうした根本的な疑問に関わるDNA上の機能的「スイッチ」を特定しました。

背景と課題

ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、ヒトの複雑な思考・記憶・言語を担う脳の表層部「大脳皮質」の表面積や厚さといった構造の個人差に関連する多くのノンコーディング領域が特定されています。しかし、これらの領域内のどの具体的な変異がどのように皮質構造へ影響を与えているかは未解明でした。

研究手法

今回、Jason L. Stein准教授とHyejung Won准教授の研究室にそれぞれ所属する的場奈々博士(リサーチアソシエイト)とJessica C. McAfee博士(大学院生; 現NIEHS/NIH)が主導したこの研究は、大脳皮質の形成において、ノンコーディング領域の遺伝子調節機能をゲノムスケールで検証・特定することを目的として、MPRA(Massively Parallel Reporter Assays)の手法を、phNPC( primary human neural progenitor cells / ヒト多能性幹細胞由来神経前駆細胞:(大脳皮質のニューロンを生み出す元となる細胞)に適用しました。MPRAは、特定の配列要素の調節機能(MPRA活性)と、その調節要素内の対立遺伝子が及ぼす影響(対立遺伝子効果)を測定することが可能です。

MPRAの適用にあたって、研究チームは、定常状態(baseline)および脳発生に重要なWntシグナル刺激下での遺伝子調節活性をアッセイしました。

主要結果
  • 9,092の皮質構造関連変異を同定:ENIGMA GWASで特定された198の遺伝子座から、9,092の変異(計19,500エレメント)の調節活性およびアレル効果(対立遺伝子の違いによる発現差)を検証しました。
  • 遺伝子調節変異の特定:検証した150の皮質構造関連遺伝子座(対象遺伝子座の76%)において、遺伝子のオン・オフに影響する調節活性を持つ918の変異(1,258エレメント)を特定しました。
  • アレル効果: 調節活性を持つ変異のうち50%以上(386変異)でアレル間の発現差が認められました。研究チームは、この調節活性と対立遺伝子効果の両方を持つ変異をemVars(expression-modulating variants;発現調節変異)と称しています。
  • Wnt応答性:Wnt刺激によって一部の遺伝子座で調節活性が変化し、条件依存的なエンハンサー領域の存在が判明しました。
  • Alu要素の関与:MPRAでみられた調節活性の多くは転移性要素である「Alu要素」(特にRNA Polymerase IIIプロモーター領域のA/Bボックスを含む領域)によって引き起こされていました。Alu要素は、霊長類における脳の拡大と並行して、進化の過程で急速に増殖してきたことが知られています。今回、進化の過程で比較的新しく挿入された「Alu要素」が、古いものに比べて、発達中の脳細胞において極めて高い調節活性を示すことが明らかになりました。この発見は、ヒトの進化の祖先が、ヒトの脳の拡大を促す複雑な遺伝子ネットワークを構築するために、こうした「ジャンプする遺伝子(トランスポゾン)」を利用していた可能性を示唆しています。
  • 領域特異的な影響: emVarによる転写因子(TF)結合モチーフの破壊解析やCRISPRi等による機能検証を行ったところ、ヒトの脳発生に関与している可能性のある転写因子が明らかになり、遺伝的変異が異なる脳領域に及ぼす影響は、それらの領域におけるTFの発現レベルによって媒介されていることが示唆されました。Stein准教授は、特定の遺伝的変異がなぜ脳全体ではなく特定の領域に影響を及ぼすのかを理解する上で、今回の知見が極めて重要であったと述べています:「遺伝的変異の影響を最も強く受ける領域は、DNAに結合するタンパク質である『転写因子』が、本来高いレベルで発現している領域であることがわかりました」;「遺伝的変異によって転写因子の結合部位が阻害されると、その影響は、発達中に当該転写因子が最も活発に機能している脳領域において、最も強く現れるのです。」
まとめ

MPRAによって検証された大脳皮質構造関連変異の特性解析は、大脳皮質構造を変化させる分子メカニズムの理解をさらに深め、神経発生・発達障害のメカニズム解明や、重点的に検証・標的すべき機能的変異の特定に貢献していくことが、期待されます。

[注] 本研究は、PsychENCODEコンソーシアムおよびIGVF(Impact of Genomic Variation on Function:機能に対するゲノム変異の影響)コンソーシアムの支援を受けて実施されました。

出 典
  1. Department of Genetics, University of North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC, USA. 
  2. UNC Neuroscience Center, University of North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC, USA. 
  3. Department of Biostatistics, University of North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC, USA. 
  4. Department of Pediatrics, Duke University, Durham, NC, USA. 
  5. These authors contributed equally: Nana Matoba, Jessica C. McAfee. 
  6. These authors jointly supervised
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