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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

 ~  Innovative Genomics Institute(UC Berkeley)のTherapeutic Delivery研究領域ディレクターであるRoss C. Wilson博士が責任著者となっているbioRxivプレプリントから

生体内ゲノム編集療法の課題「デリバリー」

CRISPR技術をベースにした生体内ゲノム編集療法の研究開発が進められていますが、依然として、生体内・細胞内への安全で効率的なデリバリー(送達)が、課題になっています。

CRISPRリボ核タンパク質(RNP)にしても、生体内ゲノム編集に向けて、細胞に導入後の短時間で編集活性を発揮し、また、短時間で分解することからオフターゲット効果のリスクを低減できるという特徴に期待が集まっていますが、細胞への侵入や標的化(細胞・臓器特異性)が課題になっています。

研究チームによる課題解決の第一段階「PERC」

研究チームは以前、T細胞や造血幹細胞など、遺伝子導入が困難な治療上重要な細胞を体外(ex vivo)で改変するための技術として、ペプチドを利用したPERC(peptide-enabled RNA delivery for CRISPR engineering)を開発しました [1,2]。

PERCは、CRISPR RNPと混合可能な、ウイルス由来の細胞膜透過・エンドソーム脱出能を持つ融合ペプチド(A5KやP55など)を利用するものであり、特定の標的細胞において効率的かつ低毒性なゲノム編集を可能にしました。

しかし、単に混合するだけのPERC複合体では、多様な細胞の標的化部位に高選択性で送達するには至らず、生体内ゲノム編集には、標的化部位が共有結合を介してRNPに連結されるアプローチが望まれます。

研究チームによる課題解決の第二段階「PERCEPT」

研究チームは、「PEG(ポリエチレングリコール鎖)とカルバメート結合(-NH-COO-)を組み合わせた架橋・連結用のリンカー」を、CRISPR RNPの表面に存在するアミノ酸残基への共有結合を操作可能なリンカーへと改変することで、PERCEPT(PERC engineered via polymeric tethering)に至りました。PEGとして、生体直交型クリック反応用官能基を末端に持つPEG(PEG-TCO)を利用し [Fig. 1引用下図 a 参照 (クリックすると拡大表示されます)]、かつ、還元応答性切断部位を組み込んだのです。
PERCEPT
還元応答性PEGカルバメート・リンカーの特徴と機能

CRISPR RNP(Cas9 RNPとABE RNP)および機能性ペプチドを保持
  • 溶媒に露出した部位が100箇所以上あるCas9のリジン側鎖などの一次アミンに共有結合。
  • 細胞透過性ペプチド(CPP)や親両媒性ペプチド、細胞標的化リガンド(TET1など)をCas9の機能を損なうことなく外側にモジュール式に配置可能。
細胞内環境への応答と結合切断
  • 細胞内の還元環境に応答:細胞外に比べて高濃度のグルタチオン(GSH)が存在する細胞質内で、還元感受性部位が急速に分解。
  • pHシフトへの応答:エンドソームが成熟する過程でのpH低下をトリガーとして、酸に不安定な共有結合が切断を加速。
ネイティブなRNPの解離とコンパクトなサイズ
  • 結合切断反応に伴い連続的に分解していく自己犠牲型(self-immolative)ゆえに、RNPに化学修飾の痕跡が一切残らず(traceless)、ネイティブなRNPが解離し、ひいては、その核移行シグナル(NLS)や活性が100%保持され、効率的に細胞核へスムーズに移行し活性を発揮
  • コンパクトなナノ粒子を形成:LNPやVLPのナノ粒子の直径100 nm以上に対して、PERCEPTで形成されるナノ粒子の直径は22 nm未満とコンパクトなことから良好な組織内分布実現
実証実験

脳(線条体): 両親媒性送達ペプチドと神経細胞標的化リガンドTET1を組み込んだ製剤の局所投与により、線条体体積の約56%、編集領域内ニューロンの78%でゲノム編集を達成。

ハンチントン病モデル(R6/2): 変異型ヒトHTTトランスジーンの標的編集を介して変異型ハンチンチン凝集体負荷を軽減し、局所転写プログラムを炎症・損傷関連状態から改善。

その他組織への適応:
  • 眼(硝子体内投与): ミュラーグリアの53%で編集を達成。
  • 骨格筋(筋肉内注射): 非結合対照群と比較してレポーター蛍光が10倍に増加。
  • 肺(鼻腔内投与): 気道上皮細胞において投与後3ヶ月間にわたり編集効果が持続。
まとめ
  • PERCになかった多様な特徴を備えたPERCEPTは、組織特異的な化学的制御によって送達性能を最適化できる、可逆的かつモジュール式の表面プログラミングプラットフォーム(a reversible, modular surface-programming platform)である、と言えましょう。
参考:Wilson博士が著者になっているデリバリー関連論文紹介
出 典
"Chemically modified CRISPR enzymes for multi-organ genome editing in vivo" Christopher M. Baehr(1,2) [..] Ross C. Wilson(1,2,4). bioRxiv. 2026-09-16 (preprint). https://doi.org/10.64898/2026.09.14.751351
  1. Innovative Genomics Institute, University of California Berkeley; Berkeley, CA, USA;
  2. University of California, Berkeley; Berkeley, CA, USA;
  3. Department of Neurological Surgery, The Ohio State University; Columbus, OH, USA
  4. Corresponding author.
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