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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

はじめに

CRISPR-Cas9の登場は生命科学に革命をもたらしましたが、二本鎖切断(DSB)に伴うDNA損傷レスポンスや意図しない巨大欠失、そしてキロベース単位の大型遺伝子挿入における効率の低さなど、臨床応用・産業利用に向けた課題も明らかになってきました。

こうした限界を克服するため、世界中の研究チームが「DSBフリー」や「大型配列の精密書き込み(Large-DNA Writing)」を掲げた新しいゲノム編集ツールを次々と開発しています。

2026年9月28日発行の Nature 誌(Vol. 633)に掲載された解説記事 "Bigger than CRISPR? A guide to the latest genome editors" では、エピゲノムエディターも含むポストCRISPR時代を担う最新エディターのメカニズムと到達点が分かりやすく整理されています。

ポストCRISPRツールの主要カテゴリ

Nature 誌の解説では、従来のCas9/Cas12に代わる(あるいはそれを高度に拡張した)主要ツールが紹介されていますが、ここでは、当ブログでこれまで個別に取り上げてきたツールも交えて、5つのカテゴリーに整理してみました。
[注] 以下はNature 誌の解説をベースに、当ブログで独自に追記・補足した関連ツールも含めて整理しています。

1. プライム編集(PE)の拡張系
  • 概要: 逆転写酵素(RT)とガイドRNA(pegRNA)を組み合わせ、DSBを伴わずに任意の置換・短挿入を行う技術。
  • 大型化への展開: twinPE/PASSIGE、QuadPE、部位特異的リコンビナーゼとの組み合わせ PASTE、Creリコンビナーゼとの組み合わせPCE/RePCE、細胞内Gibson Assmeblyとの組み合わせPrime Annealing (PA)などの登場により、全長遺伝子の挿入が実現されています。
2. 可変型ガイドRNA / ブリッジRNA(Bridge RNA)システム
  • 概要: IS110エレメント などに代表される、標的DNAと挿入DNAの両方を認識する革新的な構造を持つRNAガイドシステム。
  • 特徴: 酵素タンパク質自体の改変なしに、ガイドRNAの設計だけで「どこに何を挿入するか」をプログラムできる自由度の高さが最大の強みです。
3. CRISPR関連トランスポゾン(CAST) & seekRNA
  • 概要: 細菌由来のCRISPR関連トランスポゾンをベースとする大型挿入ツール。
  • 特徴: 相同組換え(HDR)やドナーDNAの複雑な設計に依存せず、キロベース級のDNA要素をゲノムの特定部位へ効率よく転移・挿入できます。
4. Cas9ニッカーゼ、セリンリコンビナーゼ、インテグラーゼを利用したシステム
  • 概要: PEとその派生型や各種CAST、ブリッジリコンビナーゼ以外の、挿入配列、リコンビナーゼ、インテグラーゼ、レトロエレメント、ニッカーゼなどを応用した多様な大型挿入アプローチ。
  • 主要ツール: 挿入配列(seekRNA)、リコンビナーゼ+cssDNA(INSTALL)、dCas9+改変セリンインテグラーゼ(UGE)、ジンクフィンガー+セリンインテグラーゼ(MINT)、レトロエレメント(PRINT)、レトロトランスポゾンとSpCas9(STITCHR)、(Cas9ヌクレアーゼではなく)Cas9ニッカーゼ+HDR(KNIT)など。
5. エピゲノムエディター(Epigenome Editors)
  • 概要: 塩基配列そのものを変更せず、DNAメチル化やヒストン修飾を制御するツール。
  • 特徴: ゲノム配列を不可逆的に書き換えないため、安全性の観点から新たな治療モダリティとして急速に注目を集めており、スタートアップ企業も次々に設立されています。
何を切るかから「何を・どれだけのサイズで書き込むか」へ

今回のNature 誌の解説記事が提示している最大の示唆は、ゲノム編集の技術競争が「小さな切断・変異導入」から「キロベース級の大型書き込み(Large-DNA Writing)」へと完全にシフトしたという点です。

ツールが多様化したことで、研究者は用途に応じて「編集サイズ」「DSBリスク」「酵素/RNAの大きさ(送達性)」のバランスを最適選択するフェーズに入りました。Nature 誌の解説記事では、各ツールについて、サイズ、構成の複雑さ、送達などの観点から、ツール選択に当たって参考になりそうなコメントが付されています。

特に、キロベース級の大型配列を扱うポストCRISPRツールにおいては、そのシステム全体のサイズゆえにAAV(アデノ随伴ウイルス)などの従来ベクターへの搭載が難しくなるという「送達性(デリバリー)」の課題が共通して横たわっています。ツール自体の編集効率だけでなく、これらをいかにして生体内(in vivo)の標的細胞へ安全かつ効率よく届けるかが、今後の臨床応用・実用化に向けた最大の焦点(ボトルネック)と言えます。

crisp_bioメモ:
  • 今回の投稿は「大型ゲノム編集・ポストCRISPR」連載の第1回としてまとめてみました。
  • 次回はCurrent Opinion in Chemical Biology 誌掲載の最新総説をベースに、この潮流の核心「ヒト細胞での大型DNA書き込み技術(Large-DNA Writing)」に焦点を当てます。
出 典
"TECHNOLOGY FEATURE: Bigger than CRISPR? A guide to the latest genome editors" Heidi Ledford. Nature 2026-09-28. https://doi.org/10.1038/d41586-026-02964-w

補足:ツール一覧 (本文での登場順)

twinPE/PASSIGE
:twin PEと部位特異的リコンビナーゼにより,大規模なDNAの欠失,置換,挿入,および逆位を実現. crisp_bio 2021-11-15/2021-12-12更新. https://crisp-bio.blog.jp/archives/27898465.html;指向性進化法で得たリコンビナーゼとプライムエディターにより, 哺乳類細胞における巨大遺伝子の効率的な部位特異的統合を実現. crisp_bio 2024-06-12. https://crisp-bio.blog.jp/archives/36001760.html;PASSIGEの強化版evoPASSIGEとeePASSIGE

QuadPE
:四重pegRNAsにより、プログラム可能で効率的な大規模ゲノム挿入が可能になる. crisp 2026-04-25.
https://crisp-bio.blog.jp/archives/40324204.htm

PASTE
:CRISPR指向性インテグラーゼを利用して、DSBを誘発することなく、巨大配列のノックイン"ドラッグ・アンド・ドロップ"を実現.  2022-11-29/2024-02-16更新.
https://crisp-bio.blog.jp/archives/30891443.html

PCE/RePCE:新たな反復組み換え技術を開発し, キロベースからメガベーススケールにわたる効率的かつ正確なゲノムDNA改変を実現. crisp_bio 2025-08-11.
https://crisp-bio.blog.jp/archives/39075669.html

PA: 
Bridge RNA
CAST:evoCAST:ヒト細胞における10 kbを超えるDNA断片の挿入効率10~30%を, PACEを介して実験進化させたCASTにより実現. crisp_bio2025-05-19/2025-06-25. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38596951.html;それまでのCASTから効率を大幅に向上させたことがポイント。

seekRNA:プログラム可能なRNAに誘導型挿入配列IS1111とIS110に独特な標的選択. crisp_bio 2024-07-02. https://crisp-bio.blog.jp/archives/36145539.html

INSTALL
:リコンビナーゼに環状ssDNA (cssDNA) を組み合わせることで, キロベース規模のDNA書き込みを可能にするINSTALL登場. crisp_bio 2026-03-13. https://crisp-bio.blog.jp/archives/40183566.html

UGE:セリンリコンビナーゼによるヒトゲノムへの部位特異的DNA挿入と治療的可能性. crisp_bio 2025-11-10. https://crisp-bio.blog.jp/archives/39624957.html;ドナーとしてcssDNA(環状一本鎖DNA)を利用するところが特徴で他のリコンビナーゼにも展開可能

MINT:ジンクフィンガーにセリンインテグラーゼを組み合わせて, 大規模な合成DNAの正確な組み込みを実現. crisp_bio 2025-09-22. https://crisp-bio.blog.jp/archives/39329799.html

PRINT:真核生物レトロエレメントタンパク質を利用したヒトセーフハーバー遺伝子座への外来遺伝子導入. crisp_bio 2024-02-24/2024-03-19更新. https://crisp-bio.blog.jp/archives/35099076.html

STITCHR:新たな部位特異的非LTRレトロトランスポゾンの発見と分析から, 新たなゲノム編集ツールを創出. crisp_bio. 202504-14/04-25更新. https://crisp-bio.blog.jp/archives/38337168.html

KNIT:Cas9ニッカーゼとドナーDNAリクルートシステムの融合で10 kb超DNA断片の高効率・高精度ノックインを可能にする'CRISPR-KNIT'登場. crisp_bio 2026-07-26. https://crisp-bio.blog.jp/archives/40638031.html

エピゲノム編集:
医療と農業の運命を変えるマスタースイッチ:Nature 2026年7月刊行の技術特集記事から辿るエピゲノム編集の物語. crisp_bio 2026-08-15. https://crisp-bio.blog.jp/archives/40690089.html;エピゲノム編集を対象とする最新レビューの一つ
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