~ 深層学習 (Xu Y et al., Nat Biotechnol. 2024)や多目的最適化(multi-objective)AIによる先端的遺伝子治療用LNP設計 (Zhou M et al., Nat Biotechnol, 2026) で知られるトロント大学のBowen Li助教が率いる研究チームからの報告 ~
はじめに
大規模ゲノム編集特集(全3回)の第1弾・第2弾では、二本鎖切断(DSB)を起こさずにキロベース単位の遺伝子を組み込む「Large-DNA Writing」の技術体系とそのツールの目覚ましい進化を追ってきました。
しかし、究極の遺伝子治療である生体内ゲノム編集を臨床へと展開するには、優れたツールを標的細胞に効率的かつ選択的に送達する手段が必須です。
大規模なゲノム編集を駆動するプライム編集(PE)に依存する系やインテグラーゼ融合タンパク質、大型ガイドRNAなどの巨大な分子群は、遺伝子治療では定番であった従来のAAV(アデノ随伴ウイルス)の容量制限(~4.7 kb)を容易に超えてしまいます。一方で、非ウイルス送達の主役である脂質ナノ粒子(LNP)も、これまでは1〜3 kb程度の比較的小さなmRNAやsiRNAの送達に最適化されて設計されていました。
2026年9月28日、Nature Biotechnology 誌に掲載された最新論文 "Lipid nanoparticles optimized for large RNA cargo and tissue targeting enhance in vivo genome editing" は、まさにこの送達のボトルネックに正面から挑んだ研究です。[本記事のcrisp_bioメモの項にて研究開発の舞台裏を紹介しています]
大型RNAの物理特性を設計要素に組み込む
著者らは、RNAカーゴの分子量が大きくなるにつれて、脂質分子との静電的相互作用や自己組織化の挙動、得られるLNPの粒子径や内部構造が大きく変化する点に着目しました。
本研究の主なブレイクスルーは以下の点にあります:
1. 大型RNA Cargo専用の脂質配合最適化
大型RNA(長鎖mRNAや複合RNA)のサイズ・静電密度に合わせてイオン化脂質やヘルパー脂質の割合、NP比(窒素/リン酸比)を再設計し、巨大なRNAを物理的分解から保護しつつ高効率に封入する組成を同定しました。
大型RNA(長鎖mRNAや複合RNA)のサイズ・静電密度に合わせてイオン化脂質やヘルパー脂質の割合、NP比(窒素/リン酸比)を再設計し、巨大なRNAを物理的分解から保護しつつ高効率に封入する組成を同定しました。
2. 組織標的指向性(Tissue Targeting)の向上
従来のLNPが陥りがちだった「肝臓への集積」を回避し、標的となる組織・器官へ選択的に送達する指向性と、大型RNAカーゴの保持能力を高度に両立させました。
従来のLNPが陥りがちだった「肝臓への集積」を回避し、標的となる組織・器官へ選択的に送達する指向性と、大型RNAカーゴの保持能力を高度に両立させました。
3. 生体(in vivo)での編集効率の飛躍的向上
マウスモデル等の生体内において、大型RNAカーゴ(アデニン塩基エディター)を送達し、高い安全性を保ちながら実用レベルの in vivo ゲノム編集を達成しました。
マウスモデル等の生体内において、大型RNAカーゴ(アデニン塩基エディター)を送達し、高い安全性を保ちながら実用レベルの in vivo ゲノム編集を達成しました。
- 肝細胞の79.5%でマウスPcsk9遺伝子座の編集が可能となり、血漿低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール値が低下しました。
- ヒト化肝臓を有するマウスにおけるPCSK9の修復、マウスモデルの肺における嚢胞性線維症に関連するCFTR変異の修復、およびアンジェルマン症候群マウスモデルの脳における病原性Ube3aアンチセンス転写産物領域の修復にも効果を示しました。
連載のまとめ:「ツールの大型化」と「送達の進化」が揃う時代へ
第1弾からの連載で見てきたように、ゲノム編集技術は今、二つの大きなイノベーションが同時に進行しています。
- ツールの進化: Nature 誌の技術解説や Curr Opin Chem Biol 誌のレビューで示された、DSBフリーでキロベース長を書き込む多様な Large-DNA Writing ツール(第1弾・第2弾)
- 送達の進化: Nat Biotechnol で示された、巨大化・複雑化したツールに対応する非ウイルス性送達担体(LNP)の進化(第3弾)
「何を書き込むか」というツールの進化と、「いかに届けるか」という送達技術の進化が合流したことで、これまで治療が困難だった遺伝性疾患や複合的なゲノム変異に対する非ウイルス性遺伝子治療の実用化が一気に加速することが期待されます。
crisp_bioメモ
Bowen Li助教は、Research Briefing記事で「このプロジェクトは、厄介な矛盾から始まった。」と研究開発の舞台裏を紹介しています。
顕微鏡観察で気づき、クライオ電顕、X線散乱分析、分子シミュレーション、エンドソーム脱出イメージングを用いてその機構を解明した最も優れた脂質(LC-1)は、「エンドソームに取り込まれる前から逆六方晶相に組織化されていた」のです。すなわち、これまで想定されていた「LNPがエンドソームに侵入した後に、安定な層状のラメラ構造から、湾曲の強い逆六方相へと相転移し、その過程でエンドソーム膜の秩序が擾乱されて融合・バーストする」過程をスキップしていたことになります。
この発見以後、ヘルパー脂質*の比率を変えるだけで、まず肝臓、次に脳、そして肺でルシフェラーゼの生物発光が見られるようになったとき、研究チームは、大型のツールを標的に送達するプラットフォームを手に入れたのだと気づいたのです。臨床用LNPのほとんどが蓄積する肝細胞以外の部位への非ウイルス性遺伝子編集への道が開けたのです。
[*] LNPは通常、4つの成分で構成されます:酸性pHでmRNA分子に結合し、エンドソームからの脱出を促進するイオン化可能な脂質、粒子構造を支えるヘルパー脂質とコレステロール、そして凝集を抑制し薬物動態を調節するポリエチレングリコール(PEG)脂質
最先端のAIを駆使してきたBowen Liチームが、スクリーニングの物理的条件を然るべくセットするだけで、大型カーゴを輸送するLNPへのブレークスルーを起こしたことは、研究チームにとってもさぞかし「うれしい驚き」(The real surprise came at the microscope. )だったことでしょう。
crisp_bioメモ
Bowen Li助教は、Research Briefing記事で「このプロジェクトは、厄介な矛盾から始まった。」と研究開発の舞台裏を紹介しています。
カーゴとしてルシフェラーゼmRNAを細胞に送達すると細胞を明るく発光させるLNPが、カーゴを塩基エディターに置き換えると期待外れの結果に終わったのです。ここで、研究チームは、「Cargo size matters!(カーゴのサイズこそが問題なんだ)」と閃いて、次のようなスクリーニングを実施したのです。大型な(サイズ 5.7 kb)遺伝子エディター・レポーターを構築して、それをスクリーニングに組み込んだところで、驚きが待っていました。
顕微鏡観察で気づき、クライオ電顕、X線散乱分析、分子シミュレーション、エンドソーム脱出イメージングを用いてその機構を解明した最も優れた脂質(LC-1)は、「エンドソームに取り込まれる前から逆六方晶相に組織化されていた」のです。すなわち、これまで想定されていた「LNPがエンドソームに侵入した後に、安定な層状のラメラ構造から、湾曲の強い逆六方相へと相転移し、その過程でエンドソーム膜の秩序が擾乱されて融合・バーストする」過程をスキップしていたことになります。
この発見以後、ヘルパー脂質*の比率を変えるだけで、まず肝臓、次に脳、そして肺でルシフェラーゼの生物発光が見られるようになったとき、研究チームは、大型のツールを標的に送達するプラットフォームを手に入れたのだと気づいたのです。臨床用LNPのほとんどが蓄積する肝細胞以外の部位への非ウイルス性遺伝子編集への道が開けたのです。
[*] LNPは通常、4つの成分で構成されます:酸性pHでmRNA分子に結合し、エンドソームからの脱出を促進するイオン化可能な脂質、粒子構造を支えるヘルパー脂質とコレステロール、そして凝集を抑制し薬物動態を調節するポリエチレングリコール(PEG)脂質
最先端のAIを駆使してきたBowen Liチームが、スクリーニングの物理的条件を然るべくセットするだけで、大型カーゴを輸送するLNPへのブレークスルーを起こしたことは、研究チームにとってもさぞかし「うれしい驚き」(The real surprise came at the microscope. )だったことでしょう。
出 典
- "RESEARCH BRIEFINGS: Cargo size matters when designing lipid nanoparticles for delivery of large gene editors" From the author (Bowen Li) Expert Opinion, From the Editor. Nat Biotechnol. 2026-09-28. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03297-9
- "ARTICLE: Lipid nanoparticles optimized for large RNA cargo and tissue targeting enhance in vivo genome editing" Songtao Dong(1,6), Fanglin Gong(2,6), Tyler Thomson(2,6) [..] Bowen Li(1,2,3,5). Nat Biotechnol. 2026-09-28. https://doi.org/10.1038/s41587-026-03298-8
- Leslie Dan Faculty of Pharmacy, University of Toronto, Toronto, Ontario, Canada.
- Institute of Biomedical Engineering, University of Toronto, Toronto,Ontario, Canada.
- Department of Chemistry, University of Toronto, Toronto, Ontario, Canada.
- Vaccine and Gene therapy Institute, Oregon Health and Science University, Beaverton, OR, USA.
- Princess Margaret Cancer Center, University Health Network, Toronto, Ontario, Canada.
- Contributed equally
- Corresponding author.
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