• [出典] Boroviak K, Fu B, Yang F, Doe B, Bradley A. “Revealing hidden complexities of genomic rearrangements generated with Cas9.” Sci Rep. 2017 Oct 9;7(1):12867
  • 哺乳類ゲノムをCRISPR/Cas9技術で編集することにより大規模なゲノム再編成が引き起こす疾患のモデリングが可能になった。今回の著者ら(サンガー研究所のAllan Bradleyら)は先行研究で、CRISPR/Cas9技術により、ゲノム領域1.1 Mbの欠失と逆位を実現し(Boroviak et al., 2016)、また、他の研究チームは、ラットにおいて24.5Mbの欠失と複製を実現したが(Birling et al., 2017)、対立遺伝子異質性やモザイク現象を伴った。
  • 表現型の正確な解釈には責任アレルの状態を詳らかにする必要がある。Cas9と単一のsgRNAによる編集は一連のアレル変異を引き起こすが、複数のsgRNAsを利用した編集が引き起こすアレル変異はより複雑になる。
  • 一遺伝子または複数遺伝子にわたるゲノム構造改変を目指す場合、予測したジャンクションを対象とするショートレンジのジャンクションPCRアッセイだけでは、アレルの全体構造を精密に評価するには不十分である。
  • 著者らは今回、高分解能fiber FISH法によって、sgRNAのペアを利用して大領域を削除した場合、切り出された断片がゲノムに再組み込まれる(reintegrate)ことを見出した。挿入図Figure 2は、ファウンダーとF1仔マウスのfibre-FISHの解析結果例であり、“欠失”に分類されたアレルが、削除されたセグメントを逆位に取り込み、Cas9-gRNA切断サイトの外のプローブ(Ex-DUP)も取り込んだことを示す。
Revealing hidden complexities of genomic
  • ゲノムから切り出された断片は、切断サイト近くの領域へ入り込むことで、編集を受けた遺伝子の一部または全部の機能を回復することが可能であり、その結果、「”欠失”が表現型に殆ど、あるいはまったく、影響を与えない」という誤った結論に導く危険性を秘めている。
  • CRISPR/Cas9をCre-loxPと比較すると、ゲノム編集まではCRISPR/Cas9がはるかに効率的であるが、Cre-loxPによるゲノム編集の結果が予測可能であるのに対して、CRISPR/Cas9によるゲノム編集結果の精密な予測、加えて、編集結果の解析が困難である。CRISPR/Cas9によりゲノムの大領域再編成が簡便に行えるようになったが、得られた改変ゲノム構造を理解するにはCre-loxPよりも時間と努力が必要である。