- [出典] Ledford H. “FDA advisers back gene therapy for rare form of blindness” Nature. 2017 Oct 12;550(7676):314.
- FDAは2017年8月30日に初の遺伝子治療として, 急性リンパ芽球性白血病(ALL)の療法であるKymriah (キムリア;tisagenlecleucel) を認可していた。Kymriahは、患者自身のT細胞を遺伝子操作して患者に戻すCAR-T療法の一種であり、今回認可されると思われる療法は、病因となる遺伝子変異を修復する初の遺伝子治療である。
- FDAの外部専門家で構成されるアドバイザリー委員会は10月12日に、PRE65の両アレル変異が病因である遺伝性網膜変性(inherited retinal dystrophy)の遺伝子治療としてLuxturna™ (voretigene neparvovec/AAV2-hRPE65v2)を認可するよう、全員一致で推奨するに至った (Spark Therapeutics press release)。これを受けてFDAは1月12日までに認可の可否を決定する。
- 遺伝子治療は1990年代はじめに熱狂的に迎えられたが、米国ペンシルベニア大学での治験にて18歳の青年(Jesse Gelsinger)がアデノウイルスによる正常遺伝子の注入後4日後に死亡し、さらに、X連鎖免疫不全症の遺伝子治療が白血病を引き起こした(Science 2003)ことから、一時の熱狂は去り、製薬企業やアカデミアの多くが遺伝子治療の研究開発から去って行った。
- その後、ベクターの改良などの研究を継続していたグループや血友病、鎌状赤血球症、および、免疫不全ウィスコット・オルドリッチ(Wiskott-Aldrich)症候群を含む治験から成果が出始め、製薬企業の稀な遺伝子疾患の治療への関心が高まり、投資家の関心も戻って来た。また、遺伝子治療用ベクターへの需要が高まり、試薬の中には18ヶ月から2年待ちのものも出始めたとのことである。
- FDAのLuxturna™ 認可から遺伝子治療の臨床応用が広がっていくことを期待できるが、一方で、遺伝子治療による疾患の完治までの道はまだまだ長い。Luxturna™は治験において視力回復の効用を示したが、効用が継続する期間(ウイルスが正常なRPE65を発現する期間)が明確になっていない。また、脳型副腎白質萎縮症(ALD)についても遺伝子治療が症状の進行を抑制する効果が報告されたが(NEJM, 2017)、脳以外の組織に遅れて発症する症状の軽減は期待できない。
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