[2018-05-01論文1件追記]ヒト脳オルガノイドを脳に定着させたキメラマウス作出
"An in vivo model of functional and vascularized human brain organoids" Mansour AA, Gonçalves JT, Bloyd CW, Li H, Fernandes S, Quang D, Johnston S, Parylak SL, Jin X, Gage FH. Nat Biotechnol. 2018 Apr 16

[出典]
  1. Begley S. “Tiny human brain organoids implanted into rodents, triggering ethical concerns” STAT News November 6, 2017.
  2. Begley S. “In a lab pushing the boundaries of biology, an embedded ethicist keeps scientists in check” STAT News February 23, 2017.
  • 11月6日付のSTAT Newsによると(出典1)、11月11-15日にワシントンDCで開催される神経科学会で、2つの研究チームが「移植したヒト脳オルガノイドが、げっ歯類の脳内で、ヒト脳機能を帯びた組織を形作る可能性を提示する」と報告する。
  • 2報告によると、未報告のヒト脳オルガノイド研究で移植後少なくとも2ヶ月間生存したとされている。神経科学会へ要旨を提出したソーク研究所のフレッド・ゲージ(Rusty Gage)によると、マウス脳に移植したヒト脳オルガノイドはマウスの循環系と融合し血管新生に至り、成熟オルガノイドがマウス脳の複数領域に軸索を伸ばすとのことであったが、成熟オルガノイドのサイズや、マウスの”知能”や”行動への影響の有無については現時点では非公開である。
  • ペンシルベニア大学のIsaac Chenらは、STATのインタビューに次のように答えた:2mmサイズのヒト脳オルガノイドを成体ラット脳(2次視覚皮質)に移植し多ところ、少なくとも2ヶ月間生存し、ヒト軸索が盛んにラット脳へと伸びた。軸索の一部は1.5 mmまで伸びて右脳と左脳の間の情報交換を担う脳梁に結合した。 移植したオルガノイドの神経細胞は、視覚刺激に応答して発火した。Chenは、オルガノイド移植による外傷性の脳損傷、脳梗塞、精神障害、神経変性の治療がいつの日か現実になることを、期待している。
  • ゲノムを書く」や「CRISPRによるヒトゲノム編集」などに積極的なChurch研究室では、University Medical Center GroningenからMarie Curie fellowshipにてChurch研究室に加わった生命倫理学者Jeantine Lunshofが、週2回のラボ・ミーティングに参加し、新しい技術やプロジェクトに対して忌憚なくコメントし、議論している。Church研究室では「ヒト脳オルガノイドを血管に結合し、オルガノイドへの血液供給を実現し、ヒト臓器と同等のサイズへと成熟させる」技術についてもすでに議論が行われていたが(出典2)、神経科学会の発表は、CRISPRによるヒト胚編集技術に続き改めて、生命倫理の議論が深められることになろう。例えば、NIHは、NIHのファンドによる「非ヒト脊椎動物の原腸陥入前胚へのヒト多能性細胞の移植」実験研究を認めていないが、ヒトオルガノイドの移植に対しては白紙である。
[脳オルガノイド開発参考文献]
  1. Watanabe M et al. “Self-Organized Cerebral Organoids with Human-Specific Features Predict Effective Drugs to Combat Zika Virus Infection” Cell Rep. 2017 Oct 10;21(2):517-532
  2. Qian X et al. “Brain-Region-Specific Organoids Using Mini-bioreactors for Modeling ZIKV Exposure”  Cell. 2016 May 19;165(5):1238-1254. Epub 2016 Apr 22.