• [出典] Inoue K, Oliveira LMA, Abeliovich A."CRISPR Transcriptional Activation Analysis Unmasks an Occult γ-Secretase Processivity Defect in Familial Alzheimer’s Disease Skin Fibroblasts" Cell Rep. 2017 Nov 14;21:1727-1736
  • アルツハイマー病(AD)のようなヒト神経変性疾患研究の課題の一つが、適切な細胞疾患モデルが限られていることである。患者からの神経細胞(特に発症初期の神経細胞)の入手は困難である。ヒトiPSCsから誘導した神経細胞は解析に有用であるが、規模の大きなコホートの比較解析には特に、実行するには負担が極めて大きい。中枢神経系(CNS)の細胞よりも入手が容易な患者の皮膚繊維芽細胞を利用した病理過程解明の例もあるが、それには、皮膚繊維芽細胞に鍵となる病因遺伝子群が十分に発現していることが必要条件である。CRISPR SAM APP Fig 3-A
  • コロンビア大学の井上敬一らは今回、CRISPR SAM法(上図 Figure 3-Aおよびブログ記事「CRISPR-Cas9システムの改変によって、ゲノムワイドでの転写を高効率で活性化するSAM法を開発」参照)によって、患者由来の皮膚繊維芽細胞において神経変性に関連する内在遺伝子を活性化するin vitroモデルシステムを構築し、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)の分解とAβ42の生成に関わるγ-セクレターゼ(GS)複合体の必須構成因子であるプレセニリン(PSEN1; PSEN2)遺伝子の変異がもたらす家族性アルツハイマー病(familial Alzheimer’s disease, FAD)の病理過程の解明を試みた。
  • APPの分解過程(下図Figure 1参照):初めに、ベーターセクレターゼ(BACE1)によって分泌ペプチドと膜貫通部位を伴うβCTF/C99に分解される;次に、βCTF/C99がGSによって48アミノ酸のAβ48と49アミノ酸のAβ49およびAPP細胞内ドメインへと分解される(GSのエンドペプチダーゼ活性);さらに、GSによってAβ48がAβ38またはAβ42へと切り詰められ、Aβ49がAβ43またはAβ40へと切り詰められる(GSのカルボキシペプチダーゼ活性)。したがって、アミロイド形成性のAβ42とアミロイド非形成性のAβ40の比が、GSのエンドペプチダーゼ活性またはカルボキシペプチダーゼ活性に依存することになる。CRISPR SAM APP Fig 1
  • FADに相関するPSEN遺伝子の変異は、FAD脳におけるAPPの分解過程を改変してAβ42の蓄積を亢進させることが知られている。APP分解過程の改変は、ADの病態が見られないFAD患者皮膚由来の繊維芽細胞においても同定されている。著者らは今回、皮膚繊維芽細胞モデルシステムによって、APP そしてまたはBACE1遺伝子の転写を活性化し、PSEN変異を伴わない被験者(UND)に対して、PSEN変異を伴うFAD患者ではGSのカルボキシペプチダーゼ活性が低下し(下図 Figure 4参照;Processivity)、BACE1の転写活性化がもたらす過剰な基質を介してAβ42とAβ40の比が上昇する(下図 Figure 4; Aβ42/Aβ40 ratio)ことを見出した。CRISPR SAMによるAPPBACE1の転写活性化は、繊維芽細胞におけるタウ蓄積には影響を与えなかった。CRISPR SAM APP Graphical Abstract