構造生命科学ニュースウオッチ2016/03/18

  • [出典] David M. Thal et al. "Crystal structures of the M1 and M4 muscarinic acetylcholine receptors." Nature. 2016 Mar 17;531(7594):335-40. Published online 2016 Mar 9. (Corresponding authors: Patrick M. Sexton、Arthur Christopoulos (Monash U.);Brian K. Kobilka (ConfometRx/Stanford U. School of Medicine/2012年ノーベル化学賞)
  • ムスカリン性アセチルコリン受容体(ムスカリン受容体)は、神経伝達物質アセチルコリンによって活性化されるクラスAGPCRsであり、M1からM5までのサブクラスが存在する.M1M4は、学習、記憶および認知に関連し、アルツハイマー病、精神分裂症および薬物依存症を含む神経障害の治療標的として注目を集めている.
  • M1M4におけるアセチルコリン結合サイト(オルソステリック部位)はサブタイプ間で保存性が高いため、オルソステリック部位を標的とする低分子は、M2M3にも結合して副作用を引き起こすために、治療薬としてほとんど成功していない.一方で、M1M4のアロステリック部位に作用し、前臨床試験で効果を示しM1M4に高い特異性を示す正のアロステリック調節分子(positive allosteric modulators: PAMs)が同定されている.
  • 今回、逆作動薬であり認可薬であるチオトロピウム (スピリーバ)で活性状態に固定したM1M4の結晶構造を初めて解析し、アロステリック効果がよって来る構造基盤を明らかにした.
  • すでに構造解析がなされていたM2M3の構造と同様に7つの膜貫通バンドル(TM1TM7)を有しRMSD0.60.9 Åと、全体構造は類似していたが、アロステリック部位を構成する残基に明確な差異が存在していた.
  • また、M4において、構造情報に突然変異導入実験を組み合わせた結果は、TM2/3/7の界面がアロステリック効果をもたらすネットワークを形成することを示唆した.
  • M1M2M3およびM4の結晶構造が解かれたことで、各サブタイプに対する選択性が高く、オフターゲット効果による副作用を回避可能な神経障害治療薬の設計が前進することが期待される.
  • [構造] 5CXV - Structure of the human M1 muscarinic acetylcholine receptor bound to antagonist Tiotropium (分解能 2.7 )5DSG - Structure of the M4 muscarinic acetylcholine receptor (M4-mT4L) bound to tiotropium (分解能 2.6 );挿入図はM1からM4PDB登録構造
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