[出典]
[背景]
  • CRISPR-Cas9ゲノム編集技術の誕生以来、大規模な遺伝子破壊実験や遺伝子の多重破壊が可能になり、薬剤標的遺伝子や遺伝子間相互作用の同定などの成果が報告されてきた。その過程で、コピー数が増幅されている(copy number–amplified, CNA)領域の遺伝子を標的とするsgRNAsが、遺伝子本来の必須性如何にかかわらず細胞死を誘導し、当該sgRNAを帯びた細胞数の減少をもたらす現象が見出された。すなわち、CNA領域遺伝子は、必須遺伝子スクリーニングに対して偽陽性を示すことになる。
  • この現象は、CNA領域遺伝子を標的とするsgRNAsが他の領域の遺伝子を標的とするsgRNAsよりも高頻度でDSBを誘起し、DNA損傷応答を介して細胞を細胞周期G2期でアレストそしてまたは細胞死に至らしめることに起因すると考えられる。
[多コピー遺伝子と偽陽性の相関解析]
  • Broad研究所の研究チームは今回(Ref 1)、CRISPRスクリーニングによる必須遺伝子同定において、CNAに起因する偽陽性と遺伝子本来の必須性による陽性を仕分け可能とするモデルCERESを開発・検証した。
  • 研究チームは初めに、27種類の腫瘍型由来の癌細胞株342種類を対象として、AVANAライブラリーの76,106 sgRNAs(1遺伝子あたり平均4sgRNAs)を使用してゲノムワイドでの遺伝子破壊実験を行い、必須遺伝子群と非必須遺伝子群のゴールドスタンダードおよびCCLEから取得した各遺伝子のコピー数のデータを組み合わせて、多コピー遺伝子がCRISPR必須遺伝子スクリーニングに偽陽性を示す傾向を確認した(TP53変異を帯びた細胞株は、DNA損傷に対する細胞周期チェックポイントの活性不全を介して、例外的振る舞いをすることも示唆)。
[偽陽性判定モデルCERESの開発]
  • 続いて、細胞株に特異的な因子と非特異的因子、および、ゲノム上のsgRNA標的サイトの数と各遺伝子座のコピー数の関数からなるモデルCERESを開発し、前述AVANA実験結果に加えて、33種類の癌細胞株を対象とするGeCKOv2 sgRNAライブラリーによるスクリーニング・データセット(Ref 2)および14種類の急性骨髄性白血病を対象とするスクリーニング・データセット(Ref 3)で、CERESによる偽陽性判定を試みた。
  • その結果、必須遺伝子のCRISPRスクリーニングにおける陽性判定の30%を占めていたCNA領域遺伝子由来の偽陽性を、CERES解析によって5%未満に抑えることが示された。CERESではCNA領域遺伝子を機械的に除去する必要がないことから、これまで解析対象外とされてきた遺伝子群(癌細胞株あたり平均134種類)の機能解析を実現した。CNA領域遺伝子が偽陽性を示す原因は、実は、DNA損傷応答と細胞死に至るDSBの誘導だけではない。すなわち、CNA領域遺伝子が、腫瘍細胞増殖に必須の癌遺伝子を増幅することでsgRNAの枯渇を招くこともCRISPRスクリーニングで偽陽性をもたらすが、CERESは、高CNA領域においても癌ドライバー遺伝子のKRASやBRAFを同定することができた。
  • CERESの開発・検証実験の過程で、sgRNAsの活性データも獲得・蓄積した。
[CERES Web サイト]
[参考文献]
  1. "Computational correction of copy number effect improves specificity of CRISPR–Cas9 essentiality screens in cancer cells" Meyers RM, ~ Hahn WC, Tsherniak A.Nat Genet. 2017 Oct 30
  2. Aguirre AJ et al. "Genomic Copy Number Dictates a Gene-Independent Cell Response to CRISPR/Cas9 Targeting" Cancer Discov. 2016 Aug;6(8):914-29. Published online 2016 Jun 3.
  3. Wang T et al. "Gene Essentiality Profiling Reveals Gene Networks and Synthetic Lethal Interactions with Oncogenic Ras" Cell. 2017 Feb 23;168(5):890-903.e15. Published online 2017 Feb 2.