出典
経緯
  • CRISPR/Cas9システムによるヒト遺伝子治療実現には、Cas9による二本鎖切断(DSB)に伴う望ましくない変異を回避することが求められていたが、この課題はin vitroでは解決した。不活性型Cas9(dCas9)に転写活性化因子を融合したdCas9転写活性化システム(dCas9-VPR; SAM; dCas9-Suntag)によって、標的遺伝子を安定かつ強力に活性化することが可能になった。
  • しかし、dCas9-VP64にさらに転写因子を組み合わせたdCas9転写活性化システムによるin vivo遺伝子活性化には解決すべき課題が残っていた。In vivoでは活性化レベルが低く、また、出生後モデルマウスにおいて生理学的に有意な表現型の誘導が実証されていない。加えて、dCas9/gRNAと転写因子複合体のサイズが、in vivo遺伝子導入に最適とされているるアデノ随伴ウイルス(AAV)を代表とするウイルスベクターの送達容量を超える問題である。
  • ソーク研究所のJuan Carlos Izpisua Belmonteら米国・スペインの研究チームは今回、Cas9と転写活性化因子を分離して送達する手法を開発し、マウスin vivoで、エピゲノム編集を介した転写活性化に加えて表現型の改変を実現した。
CRISPR/Cas9システムの最適化
  • dCas9転写活性化システムから評価・選択したSAMに準じて開発;送達コンストラクトのサイズをさらに圧縮するために、Cas9によるDSB発生を抑止する短縮sgRNA(20-bpから14-bpへ短縮)である'dead sgRNAs (dgRNAs)'と活性化Cas9の組み合わせを採用し、dCas9-VP64の送達を回避
  • Cas9を発現させたマウスへ、dgRNAの上流と下流にMS2ループを融合したsgRNAとMPHをAAVで送達する標的遺伝子活性化(target gene activation, TGA)システム、AAV-Mediated CRISPR/Cas9 TGAシステム(以下、TGA)を確立
実証実験
  • TGAによるマウス各器官でのレポータ遺伝子の発現を確認
  • 出生後マウス(P2.5)に、follistatinFst)遺伝子を標的とするTGA(AAV-dgFst-MPH)を筋肉注射した後肢の筋肉量の継時的増加を確認
  • IL-10またはKlohtoを標的とするTGAで急性腎障害モデルマウスの病態改善と、Klohto標的TGAによる顕著な延命効果を確認
  • 膵臓形成の必須遺伝子Pdx1をTGA(AAV-dgPdx1-MPH)により1型糖尿病モデルマウスの肝臓で発現させ、肝細胞がインスリン分泌細胞へと形質転換し、血糖値を低下することを確認。
  • Klothoを標的とするTGAで、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)モデルのmdxマウス筋力回復;後肢の内在utrophinを標的とするTGA(AAV- dgUtrn-MPH)で、後肢の握力改善
  • デュアルAAV-CRISPR/Cas9 TGA:SpCas9を帯びたAAVと、AAV-dgFst-MPHまたはAAV- dgUtrn-MPHとを、同時に送達することでも、mdxマウスの病態が改善することを確認