[注] 本稿はCRISP_SCIENCEのCRISPR関連ツイート(2017年12月11日)に準拠しています。

7.エストロゲン受容体をCRISPR/Cas9に組込み、転写活性化とゲノム編集の化学誘導を実現
  • Lu J, ~ Wang Y. "Multimode drug inducible CRISPR/Cas9 devices for transcriptional activation and genome editing" Nucleic Acids Res. 2017 Dec 9.
  • 曲阜師範大学の研究チームは今回、ヒトエストロゲン受容体 ERT2 (注*)をCRISPR/dCas9に組合せて4-OHTによる転写活性を化学的に誘導するシステムを開発し、Hybrid Inducible CRISPR/Cas9 Technologies (HIT) と命名した。具体的には、dCas9, dCas9-SAMおよびdCas9-SunTagERT2の融合を試みて比較評価し、最適化を試行した(Figure 1 参照)。
Multimode drug inducible CRISPR-Cas9 devices 1
  • 続いて、dCas9に変えてsgRNAを短縮することでCas9のDNA結合を回避可能なことを利用して、Cas9-短縮sgRNA(14-nt)にERT2を融合したコンストラクトと、Cas9-全長sgRNA(20-nt)にERT2を融合したコンストラクトによって、異なる遺伝子をそれぞれ活性化あるいは編集可能なことを実証し、この手法を、HIT2と命名した(Figure 2 参照)。
Multimode drug inducible CRISPR-Cas9 devices 2
  • HIT/HIT2は従来の化学誘導法(注**)に比べて優れた特徴を備えている:バックグランドが低く、効率が高く、内在リガンドβ-estradiolからの選択性が高く、4-OHTの用量による調節が可能であり、活性化が迅速で、可逆的である。
  • (注*)ERは、リガンドが無い環境ではHsp90によって細胞質に留められている;3種類の変異(G400V/M543A/L544A)帯びたER(以下、ERT2)は、内在リガンドよりも化合物4‐ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)に対して高い選択的親和性を示す。
  • (注**)intein-S219-G521R-VPR; split-dCas9 VP64; TRE3G-dCas9-VPR (Cell Stem Cell, 2014
    Nat Biotechnol, 2015)
8.タイプI-A CRISPRシステムおけるスペーサ獲得の分子機構
  • Rollie C, ~ White MF. "Prespacer processing and specific integration in a Type I-A CRISPR system" Nucleic Acids Res. 2017 Dec 8
  • CRISPR/Cas9によるゲノム編集の構造・機能解明と応用研究が急展開する一方で、CRISPR/Cas9の獲得免疫機構の基盤となる外来DNAからの免疫記憶獲得の機構解明は遅れている。
  • CRISPR/Cas9システムは、外来DNA由来の断片配列(prespacer/プレ・スペーサ)を宿主のCRISPR遺伝子座のリピート配列のアレイにスペーサとして組み込み、これを免疫記憶として、免疫応答を発揮する。これまでに、主としてE. Coli を対象として、"adaptation (または、acquisition;Figure A参照)"と呼ばるこのスペーサ獲得プロセスが、Cas1とCas2(およびその他)タンパク質によって進行する機構が明らかにされてきた(Figure 1参照):外来DNAのPAM配列の直下からPAMを含む断片を獲得(Figure A-1);この核タンパク複合体が宿主CRISPRアレイ上流のリーダー配列とそれに隣接するCRISPRアレイの先頭のリピート配列との境界に結合(Figure A-2)、エステル交換反応を介してプレ・スペーサの3’末端とリーダー配列の5'末端の付着末端が融合(Figure A-3/4/5)し、宿主のDNAポリメラーザとDNAリガーゼによって、宿主DNAに新たなスペーサが追加される(Figure A-6)。
Prespacer
  • これまでadaptaionについては、もっぱらE. coliにおいて構造・機能の解析が進められており、E. coli以外でのadaptation研究は進んでこなかったが、リーダー:リピート境界周囲の配列がadaptationに重要なことはE. coli以外においても共通とされている。E. coliの他には最近、Enterococcus faecalisのタイプⅡ-A adaptationの構造基盤と機序が明らかにされたが、セントアンドリュース大学(英国)の研究チームは今回、アーケアの一種Sulfolobus solfataricusのadaptationの機構を探った。S. solfataricusには、3タイプのCRISPR-Cas(I-A; III-D; III-B)、2種類のリピート・ファミリー(ABとCD)、およびCas1、Cas2、Csa1ならびにCas4をコードする遺伝子からなるadaptaionカセットが存在する(Figure 1-B 参照)。今回、Cas1, Cas2および 5'-32P標識したプレ・スペーサDNAからなるin vitro再構成系で、タイプI-Aのadaptaionの特徴を明らかにした。
  • タイプI-Aのadaptaionは、〜400-bpと極めて長いリーダー配列を必要とし、また、ATPによる加水分解も必要とし、 I-E, I-FおよびII-Aシステムのadaptationとの差異が明確になった。今回の解析がS. solfataricusのDNAが100-bp未満のロッドのつながりのように振る舞う一方でS. solfataricusにはラム陰性菌に存在しDNAを屈曲する組込み宿主因子IHF様の因子が存在しないことから、ATPが供給するエネルギーによるDNAのリモデリングが起こる可能性が示唆された。また、Cas1がPAM依存でプレ・スペーサの末端を細胞内酵素またはCas4による分解から保護することも明らかになった。In vivoでは、Cas1-2-プレ・スペーサがDNAに結合後、プレ・スペーサのプロセスが始まるとみられる。