2021-10-05 Nature 論文の共同責任著者の一人であるスクリプス研究所のArdem Patapoutianは,2021年ノーベル生理学・医学賞をカプサイシン受容体研究で知られるUCSFのDavid Juliusと共同受賞した.
2018-01-02 初稿
2017年12月にeLifeNatureに相次いでマウスPiezo1チャネルのクライオ電顕構造解析論文が刊行された。eLife論文は、11月17日投稿、12月11日受理、12月12日刊行、Nature論文は、9月7日投稿、12月14日受理、12月20日刊行であった。本記事は、主として、CC BY 4.0により図の引用も可能なeLife論文に準拠。
[eLife論文] Guo YR, MacKinnon R. "Structure-based membrane dome mechanism for Piezo mechanosensitivity" eLife 2017 Dec 12;6. Received 2017/11/17; Accepted 2017/12/11
EMD-7042/PDB-6B3R: Structure of the mechanosensitive channel Piezo1 (1,518 残基;3.8Å 分解能)
  • 機械感受性イオンチャネル(mechanosensitive ion channels;以下、MSC)は、細胞外からの機械的刺激を電気化学的シグナルに変換することで、触覚、平衡感覚、心血管系などを調節する膜タンパク質である。ロックフェラー大学のYusong R. GuoとRoderick MacKinnonは今回、マウスのMSC、mPiezo1、の構造をクライオ電顕単粒子再構成法で3.8Å分解能で明らかにし、原核生物のMscL(MSC of large conductance)に対して、mPiezo1に独特な開口機構モデルを提唱した。
  • MscLは、細胞膜にかかる張力ストレスを感知して開口し、〜20 nm2 にわたる開孔を細胞膜にもたらすることで細胞内の浸透圧を解放し(in-plane area expansion、下図左 Fig. 1 モデル参照)、また、非選択的なイオンの伝導(〜3 nS(ナノジーメンス)規模)を許す。これに対して、真核生物のPiezoチャネルは、高い機械感受性を示す一方で、カチオン選択的でありかつMscLの100分の1程度の〜30 pSの伝導度を示すことから、その機械感受性の機序はMscLで見られるin-plane area expansion大開口モデルと整合しない。
Piezo1 eLife1-2 Piezo1 eLife3
  • mPiezo1は全体として中央部から3本のアームを延ばしたトリスケル(三脚巴)を形どっている(上図左下 Fig. 2-c)。モノマーのトポロジー(上図右 Fig. 3)から見ると、C末端領域の細胞外ドメイン(CED)で蓋をされた2本の膜貫通ヘリックスのTM37-38が中央部に位置し、TM38から'hairpin'ヘリックスを介して細胞内へと延びているヘリックス'PE'とともにポアを形成している。この'hairpin'とTM37に連なる'base'ヘリックスと'elbow'ヘリックスが、アームをポアに固定する'cuff'の役割を果たしている。アームは、それぞれが4本の膜貫通ヘリックス(4-TM)6セット(計24セット)で構成されている。中央部はアーム内のTM28と、細胞内を走る66アミノ酸のヘリックス'beam'で結合されている。アーム内の4-TMユニットには、TMヘリックスに対して直角に走るヘリックス'cross'が少なくとも1つ含まれている。最後に、今回構造を特定できなかった、アームの6セットの4-TM構造の先のTM1からTM12と推定されるN末端側領域は、細胞膜の面に沿っていると推定された。
  • 三量体から分離した単独サブユニットは中央部からアームを脂質膜面に沿って延ばした形状(ポアと'beam'の角度90°)をとったが、三量体はミセル内で、アームがポアと60°の角度をなし(細胞膜から30°の傾きで浮いていく)細胞外ドメインを内部に埋め込まれたドーム型の形状をとった(下図左 Fig. 4)。脂質小胞モデルにおいても、三量体のドーム形状と三量体が細胞膜を局所的に歪めることも確認した(下図右 Fig. 5)。
Piezo 1 eLife 4 Piezo1 eLife5
  • 今回再構成した構造はポアが閉じた構造であり、ポアの径は、E2537、P2536、およびM2493の位置でそれぞれ0.1Å、0.4Åおよび0.3Åと見積もられた(下図左 Fig. 6)。Piezo1のポアの全体構造とリガンド依存性非選択的陽イオンチャネル(P2X)および酸感受性イオンチャネル(ASIC)の構造との共通性から、Piezo1において、CED-TM37-38がのカチオン選択性イオンチャネル機能を担い、一方で、Piezo1に特有な構造、'elbow'、'base'、'hairpin'および'PE'が関わるコンフォメーション変化が、Piezo1の機械感受性の構造基盤である、と考えられた。
Piezo1 eLife6 Piezao1 eLife7
  • 閉口状態のPiezo1によって局所的にドーム型に維持されていた細胞膜の領域が、細胞膜への機械力を感知したPiezo1のコンフォメーション変化によって、フラットになり、その結果、細胞膜が開孔するモデルを提案し(上図右 Fig. 7-c)、120nm2 に及ぶ開孔の広がりに伴うエネルギー変化を定量的に考察した。
[Nature論文] Saotome K, Murthy SE, Kefauver JM, Whitwam T, Patapoutian A, Ward AB. "Structure of the mechanically activated ion channel Piezo1" Nature. 2017 Dec 20
Received 12/07/2017; Accepted 12/14/2017.
EMD-7128/PDB-6BPZ: Structure of the mechanically activated ion channel Piezo1 (1,423 残基;3.8Å)
  • Ardem PatapoutianとAndrew B. WardらScripps研のチームは、mPiezo1三量体の構造を、少なくとも26本の膜貫通ヘリックスが連なって湾曲した膜貫通領域を伴う3枚羽根のプロペラ状とし、プロペラの羽根本体を構成する4-TMの少なくとも6回の繰り返し構造を'Piezo repeats'と称した。また、C末端ドメインが中央のイオンが透過するポアを形成し、'Piezo repeats'とポアが、キンクしたヘリックスのビームとアンカー・ドメインによって連結されていることを明らかにした。
  • 今回明らかになった構造にもとづいて、Piezo Repeatが細胞膜に局所的変形を起こし、細胞膜に加わった張力によって誘起されたPiezo Repeatsのコンフォメーション変化が、ビームそしてまたはアンカーを介して内部のヘリックスとC末端ドメインに伝えられるチャネルの活性状態を決定するモデルを示唆した。
  • ポアの構造を含めてeLife論文にあるmPiezo1の構造と整合する結果が得られた。
[関連論文:Piezo1チャネルの機構]Wu J, Young M, Lewis AH, Martfeld AN, Kalmeta B, Grandl J. (Duke University Medical Center) "Inactivation of Mechanically Activated Piezo1 Ion Channels Is Determined by the C-Terminal Extracellular Domain and the Inner Pore Helix"  Cell Rep. 2017 Nov 28;21(9):2357-2366